2016年10月11日

【RFPコンサルタントの日常】

~質疑応答におけるベンダーからの質問の背景~

システム調達において、RFPが完成し対象ベンダーに提示した後のひと時は格別なものがある。このひと時は、達成感(上層部から現場まで幅広く関係者の要求を取りまとめ、合意した)であったり、しばらくの余裕(ベンダーによる提案書作成期間)を感じる時間であったりする。

このひと時を楽しみたいが、往々にしてすぐに終わってしまう。と言うのも、ベンダーの提案書作成期間もいろいろやることがある。例えば、ベンダーの提案評価項目の作成作業がある。RFP作成時に評価方法について検討しておけば比較的容易だが、それでも深掘りに時間がかかる。RFP作成時にほとんど検討していなければ、想像以上に負荷が高い。

また、ベンダーとの質疑応答がある。これまでは社内でのやり取りが中心であったが、提示した瞬間からベンダーとのやり取りが中心となる。社内でのやり取りに比べ、ベンダーとのやり取りは楽に感じられるかもしれないが、一筋縄でいかない部分がある。今回は、この質疑応答時におけるベンダーからの質問の背景について述べる。

ベンダーからの質問の背景は2つある。

ベンダーの提案書作成期間、様々な問い合わせが来ることになる。質問の内容は様々だが、質問に至った背景としては下記2つがある。

① RFP以上の情報が欲しい

② RFP自体に甘い部分がある

① RFP以上の情報が欲しい

具体的に言えば要求だけでなく、提案にあたって具体的な要件を聞きたいという質問内容である。RFPは要求(~したい)を記述する。一方提案書ではこの要求に対する実現方法を記述する。よって要求時点では具体的な内容を定めていないものもある。これは定めてしまってはベンダーの提案が狭まることになり、逆に提案が過剰(標準機能で対応できるものもカスタマイズやアドオンを提案)になる可能性があるからである。

この背景に属する質問の回答にあたって悩ましいのは、要件定義で定めるべき内容を言うか言わないかである。基本的には内容が定まっていないものを無理に回答する必要はない。「詳細は要件定義フェーズで検討します」とするのも一つの手である。また、要求するに至った目的を再確認するもの手である。「目的は〇〇です。この目的を達成できる貴社の実現方法をご提案ください。」さらに、現状を伝えるのは提案を狭めてしまう点で注意が必要だが一つの手である。「現状は〇〇としています。しかしこの方法が最良とは限りません。貴社の考える実現方法をご提示ください。」

② RFP自体に甘い部分がある

この背景に属する質問は、要求が網羅されていなかったり、矛盾があったり、抽象度が高すぎたりする場合に発生する。中には提示しているのに質問するベンダーもいる。

一見回答が容易に思えるが、中には難易度の高いものもある。難易度の高低は、合意が取れているかいないかで決まる。合意の必要が無い情報や合意が取れている情報あれば簡単である。そのまま回答すればよい。技術的な情報の提供(サーバー詳細のスペックなど)が代表例である。しかし、合意が得られていない情報は難しい。少なくともすぐに回答できない。対象業務のユーザーに確認する必要があり、場合によってはそこで議論が分かれる可能性がある。これらは特に網羅性の隙間をぬったものであることが多い。

例えば、「手形管理はシステムで行いますか?」という質問が来たとする。そして、RFPの要求に手形が漏れており、現状手形で処理する頻度は低いとする。この場合、手形をシステムの範囲内とするか、範囲外にするのかをこの時点で検討する必要がある。当件をユーザーと協議したが、頻度が低いのでシステム範囲外とする意見もあれば、ガバナンスの視点から範囲内とするといった意見もあり、調整に時間がかかることとなる。これは大きな手戻りである。この手戻りを防ぐためにもRFPにおける網羅性は重要となる。

より適切な提案をベンダーからいただくために

以上、長々と質問の背景について述べた。質疑応答はベンダー、発注側ともに大きな時間のロスになる。単純な質問であっても、ベンダーは回答までの期間、提案書作成をストップしている状態である。回答まで1日かかってしまった場合、ベンダーは提案の質問対象部分を1日待つことになる。回答までのリードタイムを短くし、ベンダーに待ちの状態を作らせないことが重要である。

更に言えば、ベンダーからより良い提案をいただくためには、「質問したくならないRFP」を作成することが肝心である。RFPはベンダーとのコミュニケーションツールであるので、網羅性、整合性、書きぶり等、コミュニケーションを阻害する要素がないか確認する必要がある。

できる限り提案に時間を割いてもらうことが、より良き提案に繋がる。そしてより良き提案が、投資対効果の高いシステムの調達に繋がるのである。

2016年10月