2015年2月16日

【ITの引っ越し~持っていけば動くわけではありません~】

~サーバルームの環境整備 (2) 空調編~

サーバルームの設置計画にあたって押さえておくべき注意点について今回も引き続き考えてみます。サーバルームの広さは賃料に直接かかわってくるためわかりやすい条件です。しかしサーバルームとして確保したスペースに付随する設備、性能についての観点も検討が必要です。

今回は「空調設備」について考えてみましょう。

オフィス向けのビルであれば、快適に仕事を進められる環境を夏冬問わずに提供するための空調設備が当然のものとして設置されています。しかし、データセンタ向けを謳ってでもいなければ、たいていのビルではサーバルームを設置することまでは想定した設計ではありません。入居契約後に空調について打合せを始めてから「こんなはずじゃなかった」となる展開を数多く見てきました。移転が話題になる際には、空調に意外なお金がかかることがあるとあらかじめ話しておくようにしていますが、契約が済んで引越の段取りが始まってから頭を悩ますことはなかなかなくなりません。

コンピュータの中枢であるCPUは動作に伴って高熱になります。Googleなどで「CPU、熱、卵」という単語で検索をかけてみると目玉焼やゆで卵などの言葉が含まれたページがぞろぞろ出てくるくらいで、放っておけばあっという間に100℃以上の高温になってしまいます。そのままだと熱暴走で正常に動作しなくなってしまうため、限度を超えた場合は自動シャットダウンの仕組みが備わっているし、そこまでいかなくても監視装置による警告音がうるさく鳴り響いて、どうにかして対応しなければならないようになっています。

機器の内部には熱対策として放熱フィンや排熱用のファンが備えられ、機器内部の冷却を行っていますが、冷却システムでCPUから取り除かれた熱は機器の外に排出されて周囲の気温をどんどん上げていくため、高温の外気を機器の内外で循環させてももう冷えることはなく、あとは温度が上がり続けるだけです。このように設置する機器が発する熱量に見合った空調設備がサーバルームには欠かせません。

仮にサーバルームとして独立した区画・部屋を設けない場合、能力を控えめにするにせよオフィスの空調を止めることができなくなります。実際にサーバその他を通常の居室内に設置していた小規模なオフィスで経験した事例ですが、夏休みに空調を落としておいたところ、日中の熱気がそのまま室内にこもり続け、サーバの冷却が機能しなくなって熱暴走を起こし、マザーボード障害による強制停止・再起動不可となり、大急ぎで機器そのものを交換したことがあります。その後このオフィスでは、サーバが行っていたサービスをクラウドで外部化するまで、夏場の暑い時期は誰もいない夜間や休日でも冷房を停めないことで対応することになりました。

このようにサーバを設置する場所は24時間365日を通した空調設備の稼働が必要で、人が普通に仕事する居室内とは環境条件が異なります。加えてセキュリティ上の要請で人の立ち入りを通常は制限する閉鎖区画を設けることになると、通常のオフィス空間用とは独立して稼働する空調設備が必要になります。オフィス選定の際、標準で用意されている設備でこのような条件を満たすことが可能かどうかは必須の確認項目です。

冒頭に記したとおり、そこまで考慮した設備が備わっていることは稀で、区画割と既設の設備のやりくりで解決ができない場合は、サーバルームの規模に見合った空調設備を別途用意することになり、オフィスを選定した時には想定していなかった設備増設のために費用が発生します。また、ビルに設置する空調機器は在庫が潤沢な大量生産ではないため、注文して即座に届くものではないし、場合によっては仕様が決まって発注後の受注生産の場合もあり、入居前の設備や内装の工事日程にも大きく影響してきます。

この種の機械設備は納品されたものをポンと置けばすぐに機能する性格の製品ではないため、相応の追加工事が必要です。一般的な空調機器は室内機と室外機で構成されているので、室内外を接続するための配管が欠かせませんが、設備の規模やビルの構造と既存設備との兼ね合い次第では配管を新設しなければならないなど、大規模な工事が必要となることもあります。

このように既存の設備や構造次第となりますが、場合によっては空調設備自体の増設と追加工事の費用として数百万円規模の見積が飛び出してくることがあり、オフィス移転に係る予算規模全体から見ても誤差の範囲では収まらない追加が発生してしまいます。このように、サーバルームを設ける場合には、移転先選定や計画策定に関して立地や広さ、賃料など一般的な視点以外にも、ここであげた空調設備をはじめとして考慮が必要な要素が残っています。

2015年2月

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※ 関連コラム 【ITの引っ越し~持っていけば動くわけではありません~】 「サーバルームの環境整備(1)」 (2015年1月5日)