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【ITの引っ越し~持っていけば動くわけではありません~】

PCやスマートデバイスでの生体認証について思うこと

PCやスマートフォン・タブレットなど各種機器のセキュリティ対策の基本は使用するためにデバイス(を制御するOS)に登録するユーザーアカウントと対応するパスワードを使った認証ですが、いくら長くて複雑な文字の組み合わせを使ったとしても、文字列の重なりでしかないパスワードの漏洩のリスクをゼロにすることは困難です。パスワードのメモをデバイス自体や近くに貼り付けてある事例は運用管理やヘルプデスクの現場にいるとよろしくないことですがよく見かけます。また、システムから大量に漏洩してというニュースも年に数回は目にすることがあり、パスワードに頼らない認証方法についてのニーズは古くからあります。最近では、このニーズに応えるための技術として利用者本人の身体的特徴である指紋や顔の造作を登録する生体認証を採用する方法が普通に利用できるようになっています。

 

その中でも指紋を登録する指紋認証はPCのサイン認証に早くから使用され、指紋センサーを搭載したPCやUSBで接続するセンサーなども21世紀に入ってからはよく目にするようになりました。しかし、生体認証に関する認知が一般化する以前は、指紋といえば一般的には犯罪捜査に関連するイメージが強かったことや追加のソフトウェア・ドライバのインストールが必要でOSのバージョンが変わるとうまく作動しない場合もあり、期待したほどにはうまく認識できないなど、セキュリティの厳しい施設の入退出管理などの事例を除くと積極的には利用されていた印象はありませんでした。

このイメージが急速に変わったのはおそらく2013年に発売されたiPhone5sにTouch IDが搭載されて以降だと思います。それまでiPhoneに画面ロック解除はパスコードを設定して都度それを入力するかパスコードを設定しないのいずれかでした。パスコードを入力するにはホームボタンを押して画面を表示してからコードを入力するという操作が必要で、例えば親指一本でこれを行おうとすると、ホームボタンを押す操作に続いて親指を画面まで移動させるか別の指で画面をタッチする動線で操作を行いました。しかし、

Touch IDで指紋を登録すれば、指紋センサーも兼ねているホームボタンを押すだけのワンアクションでロックを解除できるし、システム設定や認証が必要でパスコードを入力する操作もホームボタンに触れるだけでよいので操作の簡便性が大きく向上します。この機能を利用することがiPhoneやiPadのユーザーには当然のような状態に変化しました。2013年頃というとちょうど国内の携帯電話市場でiPhoneの占有率が5割前後までに高まった時期でもあり、競合するAndroid端末でも指紋認証の採用が一気に進み、指紋認証を使用することに対するユーザーの心理的障壁は一気に低くなりました。

 

Android端末が指紋センサーを背面に搭載することで指紋認証を行う操作の利便性を高め、同時にディスプレイ側にセンサーを搭載しなくて済むことでディスプレイを全画面化することが可能になりました。一方iPhoneではディスプレイを全面化するにあたって指紋センサーを背面に移動させるのではなく、フロントカメラを使った顔認証-Face ID-を2017年のiPhone Xから採用します。以降、AppleはiPhoneの低価格モデルのSEにはTouch ID、SE以外のモデルにはFace IDを、iPadの場合はiPad ProはFace ID、それ以外のモデルにはTouch IDを搭載し、MacにはCPUをインテルから自社製M1に切替えて以降はTouch IDを搭載しています。

 

顔認証についてもFace ID以前はPCではほとんど普及していませんでしたが、マイクロソフトはWindows10からサインイン認証に関わる一連の機能(Windows Hello)にPC内蔵のフロントカメラを前提とした顔認証機能を搭載し、PCのハードウェアメーカーによる追加機能や利用者が自前で用意するセンサー機器の追加なしでOS標準機能として利用できるようになり、顔認証を利用する裾野が一気に広がりました。また、顔認証と合わせて指紋認証用のセンサーがPCに装備されている場合は指紋認証も利用可能になっています。

 

と、ここまでPCやスマートデバイスでの生体認証について長々と書いてきましたが、私自身はApple製品では指紋認証であるTouch IDを利用し、Windows PCではパスワードの代わりといてWindows Helloの機能であるPINは利用していますが、顔認証は使用していません。顔認証については、サインインやロック解除のためにいちいちパスワードをキーボードから入力しなくても済むのは確かに便利です。しかし、しばらく試してみるとメガネやマスクの有無で認証がうまくいかないことや、認証のためにはカメラの画角に中央に顔を映る諭に正面の適当な距離に顔があるように姿勢を保つ必要があり、結局キーボードで入力するパスワードやPINに戻っていました。指紋認証は使うPCによって指紋センサーが搭載されているか非搭載かのばらつきがあり、Windowsでこの機能を利用できること自体が普段の意識から抜けてしまっています。このあたりがもう少し柔軟になるとよいのですが、今のところはキーボードで入力するスタイルが続きそうです。

 

これに対してApple製品では、Macでは今のところFace IDは採用されていないので、Touch IDで指紋を登録し、iPhone、iPadいずれもTouch IDが搭載されたモデルを使用しています。Touch IDでのロック解除の操作に慣れていることに加え、Windows Helloの顔認証で書いたように承認のために姿勢を強要されるのが自分好みではないことや、用途からみてFace ID搭載モデルのようなハイスペックな高額モデルでなくても十分なためです。また、iPhone SEの次期モデルはディスプレイが全画面になって従来のホームボタンがなくなる可能性が高いこと、サイドに移動するホームボタンにiPadで採用されいるTouch IDが使えるようになるのか、もしくはFace IDに移行するのか予想が難しいところです。

 

Touch IDは一度自分の指紋を登録してしまえばセンサーになっているボタンに指を置くだけで使える便利なものであり、個人的にはこのまま残って欲しい機能で、Face ID一択になっている上位モデルでも併用できるようになって欲しいのですが、調理などの水仕事の頻度が多いと冬場はとくに手荒れのために一度登録した指紋の情報が無効になってしまうことがあるのでそこは何とか改善してもらいたいと常々思っています。

 

2024年4月