2019年11月5日

【システム企画~情報活用力を上げる仕組み作り】

~PMBOKに記される対立状況への対応方法(1)~

PMBOKに紹介されている対立状況への対応方法について考えていきます。

withdraw/avoid(撤回・回避)

話し合いが有効でない場合、成立しない場合の処し方で、「その時、その場で議論を行わない」ということで、以下のようなことが見られる場合に用いられるものだと考えます。

a. 感情的反応が強い

b. 破壊的な条件しか出てこない

c. 他の者の発言を途中で遮る行為が繰り返される(異なる意見が述べられる場合はまだましで、話し合いが完全に無効になるのは、確認の意図ではなく「先の発言を遮って、先の発言者が述べていたのと同じことを言う」が行われるときです。これが行われるとき、行為者にとってもはや対話の相手は存在していません。ゲーテの言う「人間は自分の聞きたい言葉しか聞かない」すら超えた「聞きたい言葉であっても相手からは聞かない」状態で、他の人がその場にいる意味はありません)

英語には“never wrestle with a pig. you both get dirty and the pig likes it.”という言い方がありますが、自分を含めてこれにあたる状態にある者に議論はできません。しかし人は、いつ何時、誰とでもこの状態にあるわけではありません。「冷却期間が必要」というのは、議論の参加者がこの状態でなくなる時機を待つということです。ジイドの小説には「ある時、ある場の行いだけで人を判断してはいけない。時が経てば変わることがある」という台詞はあります。(実際にはもっと長い言葉ですが、今原典をみていないので短く、また不正確なところがあるかもしれません。原典にあたらないことについての批判は、サルトルのカミュに対する「君は原典にあたらない癖がある」が痛烈です)

smooth/accommodate(鎮静・適応)

撤退・回避は対象や相手に関わらないという姿勢でしたが、これはそれらに関わりながら対立構造を明示しない、事を荒立てないという姿勢です。

文化庁による「国語に関する世論調査※1」では、平成9年度、20年度、28年度において下記の場合の対応傾向が問われていますが、すべての年度で「b」の回答が最も多くなっています。

(a)人と意見が食い違っているときには、納得がいくまで議論したい方だ

(b)人と意見が食い違っているときには、なるべく事を荒立てないで収めたい方だ

(a)人に話をするときには、筋道を立てて分かりやすく話すことを心掛ける方だ

(b)人に話をするときには、相手の気持ちになじむように、やわらかく話すことを心掛ける方だ

他国での同様の調査については不明ですが、経済開発協力機構(OECD)の国際学生アセスメントプログラム(Programme for International Students Assessment)で行われる生徒アンケート※2にある「協力的問題解決」の中の「(他の人との)関係の価値づけ」に関する質問への回答結果は以下のとおりで、日本は4問ともOEDC平均と米国を下回っていますが、特に「1」と「4」とで大きな差がみられます。

PMBOKは米国起源ですが、「鎮圧・適応」の解説には「個人的な立場や自分が属する集団の希望の実現よりも、事柄が重大である場合に有効である」とあります。これば前者について鎮静・適応を使っても後者において不利にならないようにするということで、日本で言えば徳川家康の「大事を成し遂げようとするには本筋以外のことはすべて荒立てず、なるべく穏便に済ますようにせよ」や森若沙名子の「うさぎを追わずにイーブンを目指す」が近いのではないかと考えます。

2019年11月

※1:国語に関する世論調査 http://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/__icsFiles/afieldfile/2017/09/22/2017092102_besshi.pdf

※2:OECD生徒アンケート https://books.google.co.jp/books?id=bWWQDwAAQBAJ&printsec=frontcover&hl=ja#v=onepage&q&f=false

【関連コラム】PMBOKに紹介される対立状況への対応方法(2)(2019/12/23)