2016年7月19日

【RFPコンサルタントの日常】

~パッケージシステムにおける裸の価格~

RFI(Request for Information)

業務システムの調達にRFPをベンダーに提示する。この行為は一般的になりつつある。このRFPの前工程にRFI、すなわち情報提供依頼という工程を挟む場合がある。これは調達に必要な情報を事前に掴んでおくという目的のほかに、たくさんあるベンダーから当案件に「合う、合わない」を早期に見極め、絞込みをするという目的がある。

また、この時点で費用感を聞いておくことも重要だ。もちろんこれはRFQ(Request for Price Quotation)、すなわち見積依頼のような厳密なものではない。要求をほとんど出していないのに、見積を求めてもベンダーは答えようがないからだ。この工程で聞けるのはシステムの費用が「1億円なのか2億円なのか」といった「超」大まかな金額を非公式に聞き出すくらいのものである。この超概算価格はRFP提示の際、システムの予算を考える上で有効な情報である。

裸のシステムの価格

システム、とりわけパッケージシステムの予算を考える上でもう一つ有益な情報がある。それはシステムを「裸」で導入した場合の費用である。裸というのは全くカスタマイズせず、アドオン開発もしない。当然テストや教育、ひいてはデータの移行すらしない、純然たるシステムだけの価格である。ハードウェアやプラットフォームという「服」すら着ない、純粋で根源的な価格である。要するにパッケージシステム自体の価格を聞くわけだが、意外なことに皆言葉を濁す。濁すどころか価格の提示から逃げる。「後ほどお知らせします」と言ったまま、回答がないことが多い。

何故か?コレガワカラナイ。

パッケージ自体の費用を提示することで、その費用だけが一人歩きし、システムの予算を決められては一大事という心理が働くのはわかる。しかし、「そんなことはしない」と口頭前置きしても費用は出てこない。また、機能の数で費用が決まるようなパッケージシステムもあるだろう。しかし想定する機能をRFIに記載しても費用は出てこない。ユーザー数で費用が決まるようなパッケージシステムもあるだろう。しかし概算ユーザー数を提示しても費用は出てこない。

会社に「言うな」と指示されている場合もあるかもしれない。しかしそれ自体は理解できるが、何故言ってはいけないのか理解に苦しむ。裸の価格はパッケージシステムの原価に相当するものだからだろうか。であれば提案などその後の工程で価格を提示することもできないはずである。推測だが、システムの裸の価格をRFIの時点で「誰も聞いてこなかった」のだろう。カスタマイズしないシステムなどあり得ないし、ベンダーにとって旨味がない。よって営業はその答えを「すぐに言える」体制を整えられなかった。その準備をしなかったのではないだろうか。これはある意味「業務をシステムに合わせる」というパッケージシステムの王道を否定するものである。カスタマイズやアドオン開発有りきで受注を狙っていると言ってもいい。誤解を恐れず言えばベンダーの怠慢である。

これからの時代

SaaSなどクラウド型明瞭価格体系が増えてきている中、システムの裸の価格をすぐに提示できることは明瞭価格という脅威への対抗策になり得る。少なくとも選定において手軽さや価格の透明性を印象づけることができる。

2008年にSAP社は、中小企業向けにSAPオンライン・ソリューション・コンフィギュレーターというWEB自動価格算出プログラムを提供した。現在はWEBだけで完結しておらず、パートナーベンダーより見積もりが提供されるという形になっているが、裸のシステム価格を簡単に割り出すことができるようになっている。裸の価格がすぐにわかるメリットはユーザーにとって魅力的である。たとえばシステムの企画段階での予算組みの参考情報になる。また、単純なパッケージソフトの比較の根拠情報となる。裸のシステム同士を検討し、機能充足度と価格を対比することができる(必ずしも安い方がいいとは限らないが)。

例えば、

「AシステムとBシステムの公表されている機能はほぼ同じだが費用はAシステムの方が安い」

「何故か?支援ツールについてはBシステムが充実しているからである」

「しかし支援ツールは特に必要ないのでAシステムを優勢とする」あるいは「支援ツールが必要なのでBシステムを優勢とする」

といったように対比することで選定がしやすくなる。このようにベンダーにも価格の透明性による信頼性という利があり、ユーザーにもより良い選定ができるという利がある。

そこで各ベンダーに願う。「裸の付き合いをすることを」

2016年7月