2016年6月27日

【ITの引っ越し~持っていけば動くわけではありません~】

~電 源~

長年さまざまなお客様先のネットワーク運用のお手伝いを続けるなかで、オフィス移転のお手伝いでは、いろいろな設計事務所さんとも一緒に仕事をする機会がありました。今回はその中で感じたことについての話題です。

ネットワークの運用管理という仕事は、管理しているネットワークが何の支障もなく繋がっていることが当たり前で、なんらかの接続障害が発生したであるとか、構成の変更に伴う環境の変化が利用者に見えた時にその存在が思い出されるタイプの仕事です。こういう観点では、電気・ガス・水道などの設備を保守管理するビル管理会社と似た性格を持っています。設計事務所の建築士の方々と話をしている時、この「設備」という観点で感覚の違いを感じることが多くありました。

こちらの勝手な思い込みなのかもしれませんが、建築の世界にいる人にとっては「設備」というと建物に備え付けで組み込まれた固定的なもので、故障のために丸ごと交換するとか、それまで想定されていなかった新しい設備を新規に導入するような事情がなければ竣工からほぼ永続的に据え付けられているものといった感覚で話をされているのだろうなと感じます。ところが、ITの領域ではたいていの設備は一度設置してからある程度の年数が経ったら入れ替えるものといった捉えかたがあたりまえです。

たしかにビルに設置された水道管やガス管、エレベーターのような設備は、故障してしまってどうにも直しようがない、機能しないなど相当に不都合な事態が生じない限り入れ替えるということはそう起きないと思いますが、これらの設備と異なり、ITの構成要素 --- PCやサーバなどのコンピュータ・OSやその上で走るソフトウェア・ネットワーク機器と接続方法 --- のどれを見ても、オフィスの他の設備と比べると変化と新陳代謝が異様に速いものばかりです。サーバにしてもPCにしても長く使っても4年から5年ぐらいで次の製品にリプレースするし、その上で動かすOSやソフトウェアも同様です。ネットワーク機器の場合、PCほど頻繁ではないにせよやはりある程度の年数が経てばリプレースを行います。

ちなみに税法上の耐用年数は現在以下のように定められています。

(国税庁:LAN設備の耐用年数の取扱いに関する質疑応答

https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/hojin/020215/01.htm

ここに示された耐用年数と利用する機器が実際に使い物であり続けるのかは別の話ですが、国税庁から見て「まあこのぐらいは使い続けられるでしょ」という目安になっています。実際にいろいろな機器の更新やハードウェア障害の実際に立ち会ってきた経験から見ても妥当な線だと思います。

これに対して水道やガスの設備やエレベーター、空調機器、照明設備、配電盤や基幹となる電気配線を5年に一回全部取り替えるなんてことはまず起こらない話です。いうなれば10年、20年使い続ける「作り付け」であることが大前提である「設備」に対して、ITに関わる設備は5年から10年の間にほとんどの機器が入れ替わっていておかしくない設備です。そのため、これらの機器の設置方法やその配線についてIT屋の観点では、必要になった時にすぐに修理しやすいように、取り替えやすいように設置しておこうという考えが常にありますが、設計の観点ではそういった感覚は弱いのだろうなと感じることを何度も経験しています。

サーバルームを確保してそこに設置するものについては、これまで書いてきたような観点で空間をまるごと確保可能ですが、サーバルームの外に置くスイッチなどネットワーク機器と配線についてはこのあたりに注意しておかないと、修理交換の時に簡単に手を出せないような設置場所のプランが出てくることがあります。

たとえば、スイッチや無線LANのアクセスポイントなどはレイアウト次第で天井裏や床下に置かざるをえないこともあります。しかし、それなりの訓練と安全体制が必要な高所作業の訓練を受けていない自分たちが、大至急の点検が必要な障害発生時に作業を引き受けられる場所なのかどうかも考えずに同意するとあとで困ることになります。また、OAフロアの下に敷設したLANケーブルにしても張り替えが必要な時に、経路と床上に設置されるものについても考慮しておかないと、必要になった時に簡単にフロアをはがしてすぐにアクセスすることができない場合も出てきます。

ちょっとした感覚のズレですが、こういった視点を曖昧なままにして話を進めると思わぬところで下手をすると身の危険に直結するので、プランニングの際には気をつけるようにしています。

2016年6月