2014年9月1日<前編>

【ITの引っ越し~持っていけば動くわけではありません~】

~光ファイバの移転は結構時間がかかります~ (前編)

ITの引っ越しは、移転先にものを持って行き、置くべきところに置けばそれで動くわけではないという話題ですが、その準備にどれくらいの期間を見込めばいいのかという点について考えてみたいと思います。

私たちはお客様に対して、オフィスを移転する場合に「どんなに遅くても2か月前には声をかけてください。」とお客様にお話しています。5年前なら少なくとも3か月は余裕をくださいとお願いしていました。かつて主流だったアナログ回線とモデムのダイアルアップIP接続やADSLであれば、1か月でもなんとかなることもありましたが、光ファイバを利用したインターネット接続が移転後すぐに使える状態にしておくためには、もっと長く余裕を見ていただくようにお勧めしています。

以下では一般的な足回りとして普及しているBフレッツ回線の引っ越しに焦点を合わせて書いていきますが、回線以外に電気設備や空調、消防などの観点からもやはり、準備を始めるのは遅くとも3か月以上前からが望ましいし、半年程度あるとかなり余裕を持って妥協のない移転が可能になります。

メタルでつないでいる電話線の場合、市街地ならたいていの建物で設備が備わっているのが当たり前です。オフィス開設にあたって通信設備を全くの新規で設置するということはまずありえないことですが、光ファイバの場合、Bフレッツの本格提供が2001年頃ですから、普及し始めてまだ15年も経っていません。ある程度の規模のオフィスビルならすでに引き込み実績があると思います。

しかし竣工時期や立地、以前から入居しているテナントの利用状況、光ファイバ普及の歴史的な事情などさまざまな条件によって充実度が千差万別で、申し込みから開通までに要する期間や工事の内容と費用も物件次第です。不動産の説明でインターネット対応・光ファイバ設置済などと謳ってあると、行った先でつなげばすぐに利用開始できそうに見えますが、実態はせいぜい光ファイバの引き込み実績があることがわかるだけで、自社の業務に必要なインターネット接続環境がそのまま移設可能かどうかは具体的に調べてみないとわかりません。

影響するのは

● 光ファイバの引き込み実績の有無

● 既存引き込み済み設備の余力

● ビル内部の構造

● 他のテナントの事情

● 新規・追加引込が必要な場合は工事の内容 などです。

>> まずは現地調査が必要

NTTその他の接続業者さんにファイバの引き込みや移設を申し込むと、まずは現地調査をさせてくださいとなります。この現地調査を行わないと話が先に進みませんが調査の結果出てくる日程や工程は千差万別です。光ファイバを利用したインターネット接続は、今となってはガス水道並みに当然なインフラのイメージがありますが、一般化してからまだ20年もたっていません。この歴史の浅さのため、場合によってはとんでもなく時間と手間がかかってしまう場合があります。

NTTは公社時代の1970年代から通信のデジタル化には積極的でしたが、10数年前まではメタル線でのデジタル化(INS)が注力のメインテーマでした。光ファイバ1本の中にINS回線を最大24本収容できるT1という品目が当時主流で、複数の電話回線をまとめて引き込みたい企業向けという位置付けでした。T1と特別な目的で利用するデジタル専用線以外で光ファイバを広めていく構想はまだ持っていなかったと思います。

ましてや小規模なオフィスや家庭があたりまえに利用するとことは想定外だったはずです。実際2000年当時でも1.5MbpsのT1回線が安くても月額15万円以上はかかるという時代です。ベストエフォートながらギガビットサービスを月に1万円もしない料金はあり得ない話でした。加えて敷設に要する距離次第で費用が積み上がっていく従距離制で料金体系を組み上げていたので、数十万円の月額経費が許容できるところ以外、選択の候補に上がるものではありませんでした。

もちろん現在でも、Bフレッツが代表的なベストエフォート・額面通りの性能が出たらラッキーですねというリソース共有型ではなく、回線リソース占有の専用線サービスを選べば当然それなりの料金がかかります。しかし、実は回線の能力を常時使い切ることは稀で隙間のほうが多いからこそ、Bフレッツのような共有型でもそれなりに使い物になるというのが現実なので、安価なリソース共有型のBフレッツが始まると急速に広まったわけです。

Bフレッツの普及以降、オフィスビルと名乗るほどの建物であれば、光ファイバがなんらかのレベルで既に引き込まれているものがほとんどです。最近はビルのテナント数に見合うように8芯や16芯、あるいはそれ以上の複数回線分、余裕をみて引き込んである現場が普通ですが、新規の申し込みに応じて必要な芯数だけ以前に引き込んだままという物件もあります。NTTの設備にしても、客先に提供する回線数を引き受けるには、幹線をあらかじめ太くしておかなければならないし、ルータその他の設備も前倒しで用意しなければいけません。

普及当初は先々を見越した、一見過剰に見えそうな余裕を持った対応はできなかったのでしょう。このような事情で引き込み実績はあるけれども、そのままでは新しいテナントに対応できないというケースもままあります。追加の引き込み工事が必要になると、必要な手間は新設と大差がありません。サービスレベルがもっと上のSLA付の品目や専用線、NTT以外による接続を選んだ場合、Bフレッツの設備を単純に分岐するというわけにはいかないのでやはり新規引き込みが必要になります。

このように新設・移設にかかわらず、まずは現地の設備状況を確認するための事前調査が必要になります。既設の設備に余裕があって引き込み工事が不要な場合でも、ビル内部の状況によって工事の手間が変わるため、やはり工期や費用見積を一概にお幾らですと即答することは難しいはずです。

現地調査と言ってもNTTが直接行うわけではなく、通信設備の工事を請け負う業者さん(通称電話屋さん)が派遣されます。どこの業者さんが担当するかが決まるまでに1週間近くかかることはざらです。そして担当になった業者さんも要員が常時スタンバイしているわけもなく、日々仕事が入っていますから、実際に担当者が訪問可能な日程を調整して連絡をもらうまでに下手をするとここでも1週間近くかかることがあります。これですでに半月近く経ってしまいます。

業者さんが決まると「それでは来週の○曜日か●曜日でどうでしょうか」といった連絡が入ります。1週間後であるとか10日後、場合によっては半月後ということもあります。このように現地調査を行うだけで申し込みから半月以上、3週間程度は覚悟が必要です。

2014年9月

後編に続く >>

-------------------------------------------------------------------------------

※ 関連コラム 【ITのお引っ越し~持っていけば動くわけではありません】 「機器を移動させるだけではいけない理由」 (2014年7月28日)