2015年1月5日

【ITの引っ越し~持っていけば動くわけではありません~】

~サーバルームの環境整備 (1)~

オフィスを構えると規模の大小にかかわらずなんらかのサーバを運用することが一般的です。メールやWebなど対外的にサービスを提供するシステムために外部との接続が欠かせないサーバの場合、最近はデータセンタやクラウドを利用してオフィスの外に設置することが多くなりましたが、ユーザアカウントを管理するActiveDirectoryのドメインコントローラやファイルサーバなど、オフィス内の利用者に向けたサービスを提供するサーバは、オフィス内部に設置して運用し続けているものが多いと思います。無暗に社外に置いてもセキュリティ確保の手間が増えてしまうし、十分なレスポンスを確保するための接続コストが膨大なものになってしまいます。

サーバ機を自社内で運用するとなると、セキュリティ対策上、きちんと鍵のかかる独立したサーバルームを用意することが一般的です。また、セキュリティ的な要請は当然のこととして騒音対策としても通常の業務スペースから切り離す必要が出てきます。ひと昔前の機器に比べるとずいぶんと静かなものが多くなりましたが、それでもRAID構成でサーバ数×RAID数分のハードディスクが回り続け、機器を冷却するためのファンも回りっぱなしのサーバが何台か集まるとかなりの騒音になり、通常の執務空間に置いて運用することは現実的ではないと思います。

サーバルームを設置するとなると、まずはどれだけのスペースを割り当てるかが第一の検討課題です。単純にサーバラックを一本用意してそこにサーバを設置するとしても、ラック自体が占めるスペースは当然として、日常的なメンテナンスや機器の出し入れの作業効率を考えると、前後左右の周囲にそれなりの空間を確保する必要があります。

移転を準備する段階で、内装の設計担当が図面上にサーバルームを含めさまざまな区画をレイアウトしていくわけですが、上に記したような配慮なしで、ただラックがきちんと建っていればいいだろうという思い込みでプランが進んだ場合、提示された図面を見た瞬間に、「小人さんが作業するんですか?」と突っ込みを入れたくなるようなものが出てきかねません。

※ これでは人が入れないし作業できない!

たとえば19インチラックにラックマウント型のサーバを1台設置することを考えてみましょう。通常の方法であればまずラックにレールを取り付け、引き出した状態のレールに機器を取り付けたうえでラックの中に押し込むという手順になります。そうなると、ラックの前面には少なくとも機器1台を横置きした状態で作業可能なスペースが必要です。このスペースを確保しておかないと、機器の収納すらできなくなってしまいます。

とあるメーカーのラックの寸法をあげてみましょう。

◆ ラックの寸法 高さ:1991mm 幅:600mm 奥行:1070mm

これに対して、よく見かける1Uサーバの寸法は調べてみると

◆ IUサーバの寸法 高さ:42.8mm 幅:434mm 奥行:677.3mm

と出ていました。

ラック自体が占める床面積は600mm × 1070mmが必要になりますが、ここにこの1Uサーバを収めるためには前面に少なくとも700mm以上空いていないとサーバを水平に保つことができません。これだけでラックを含めた奥行が1770mmです。

格納作業を行うためには、このサーバを持ち上げてレールに乗せる作業者の作業スペースが当然必要です。引き出したレールの両脇に2人立って作業することになると思いますが、作業の過程で手前に回りこむこともあります。成人男性が一人直立した状態で身動きに不自由させないためには四方に1m弱は欲しいところです。背中側が窮屈なのを我慢してもせめて600mmくらいは必要でしょう。

であればラックトレールで1170mmに加えて、その前面にもう600mmほどは必要ですから合計で1770mm。余裕を持たせると2000mm程度を考えておく必要があります。

サーバラックと前面作業スペースはこれでなんとかなりました。ところが、サーバラックの後ろ側にもスペースは必要です。ラックの後ろ側ではLANケーブルや電源ケーブルその他のケーブル類を引き回しますが、ケーブル自体にはそれほどの空間は必要ありません。しかしこのケーブルを接続するためには誰かがそこに立って作業しなければならないので、こちら側にもやはり作業スペースを確保しておく必要があります。立つだけであれば前面側と同じ程度でも構いませんが、ラックの上のほうから下のほうまでケーブルを取り回していると、立ったりしゃがんだり、屈みこんだりと結構身動きすることとなります。頻繁に行う作業ではないためあまり贅沢は言えないにしても、こちら側にもできれば1m程度、つまり1000mmくらいの余裕は欲しいところです。こうなると前後あわせて3m程度の空間が必要になります。

※ 無駄なスペースに見えるけれども前後これくらいは必要!

一見無駄な空間を浪費しているように見えるため、内装設計の段階であらかじめ作業スペースが必要であると釘を刺しておかないと、ラック設置スペースの周りに申し訳程度の空間を持たせた図面が出てきてしまいます。この段階で再検討となると、他の執務スペースの再配分も必要となるため、全体プランから再検討が必要になってしまいます。

レイアウトが始まる段階で設置予定の機器の物量に関する情報を伝えておくことは当然ですが、このようにその中で人やモノがどのように動くのかも合わせて伝えることが欠かせません。

サーバルームを設置するためには、このようなスペースの問題以外にも空調や防火設備、電源供給など設備設計の領域についても考慮しなければならない点が残っていますが、仕様策定次第でそれぞれ結構な費用と時間が必要になる場合があります。これらについても引き続き考えていきたいと思います。

2015年1月