2017年8月28日

【RFPコンサルタントの日常】

~腑に落ちないを腑に落とす 「グループ・フロー状態」~

プロジェクトメンバーのモチベーションを高める方法は何か。

8月23日に当社が開催したRFPセミナーにおいて、この内容を話し合った。話し合いの内容は濃いもので、大変有意義であった。セミナーを終え帰路の間、一人内容を反芻していたところ、不意に思いがけない言葉と結びついた。「フロー状態」という言葉である。そうか、モチベーションを高めるためのヒントとして「フロー状態」があるぞ、と。

フロー状態とは

スポーツなどを行っている最中、身体のすべてを掌握し、時の流れが以上にゆったりと見えるような現象に出合ったことはないだろうか。それでいて終わってみると時間があっという間に経ったことに気づく。この感覚、すなわち人間がその時にしていることに没入し、精力的に集中している感覚のことをフロー状態と心理学者チクセントミハイは呼んだ。他にもゾーンやピーク・エクスペリエンス、無我の境地等の呼び名がある。アスリートはこのフロー状態になるためのトレーニングを行うという。そのくらい効果があるのであろう。

仕事においても、作業であったり一方向のプレゼンであったり、フロー状態が助けになることは多い。またフロー状態中は深い喜びに満ち溢れる状態になるため、個人的なモチベーションアップになるかもしれない。ただし、これは個人単体の事象に過ぎない。セミナーの内容「プロジェクトでメンバーのモチベーションを高める方法は何か」という問いからまだまだ飛躍が過ぎる。足りないのは集団としてのモチベーション向上である。そう、場に影響するフロー状態のようなものはないだろか。と思い調べてみたところ、そのものズバリがあった。「グループ・フロー」である。

グループ・フローとは

グループ・フローは先述のチクセントミハイの弟子キース・ソーヤーが提唱した、集団でのフロー状態である。以下の条件を満たす場合に発生しやすい。

①適切な目標:明確だが、多様な解釈を生む自由度の高い目標

②深い傾聴:自分が聴き取ったことに対して純粋に反応する

③完全な集中:現在の活動とそれ以外の活動を切り離す境界線を引く

④自主性:柔軟性を持ちながらも、自分がすべてを管理している感覚を持つ

⑤エゴの融合:自分のエゴを抑え、グループ全員と協調する

⑥全員が同等:すべての参加者が同等な役割を担う

⑦適度な親密さ:惰性にならない程度の親密さを持ち、文化を共有する

⑧不断のコミュニケーション:インフォーマルな会話を大切にする

⑨先へ先へと進める:他人の意見を受け入れながら即興的に対応する

⑩失敗のリスク:失敗へのリスクや恐怖感を推進力として利用する

と書いていて、なんとなく分かるが、いまいちピンとこない。仮にプロジェクトにおけるブレストのセッションに当てはめて考えてみよう。

①適切な目標:明確だが、多様な解釈を生む自由度の高い目標

プロジェクトには目的があり、ブレストのセッションにはそれぞれ目標がある。その目標の共有がなされ、その目標に到達するための方法、考え方が様々ある状態のことだろう。

②深い傾聴:自分が聴き取ったことに対して純粋に反応する

ブレスト中、相手の言葉を真摯に受け止め、虚飾なしに意見を言うことだろう。また「傾聴」とあるので意見の否定をしないことが前提となる。

③完全な集中:現在の活動とそれ以外の活動を切り離す境界線を引く

プロジェクト中、他の業務に煩わされないような環境を作ることだろう。ブレストのセッションで言えば会議室に行くことがこの条件にあたる。パソコンやスマホの持ち込みも完全な集中を妨げることになる。

④自主性:柔軟性を持ちながらも、自分がすべてを管理している感覚を持つ

これはセッション中受け身にならないことに思えるが、それだけではないように思う。全員が能動的に動きつつも、場を意識して捌いていく、いわばファシリテーター的な感覚を備えることが必要ということなのだろう。

⑤エゴの融合:自分のエゴを抑え、グループ全員と協調する

ブレスト中、目立ちたいとか自分の意見を押し通したいとか、そういう感情に支配されないようにするということ。逆に目標達成のために助け合って行く姿勢が必要ということだろう。

⑥全員が同等:すべての参加者が同等な役割を担う

なかなか難しいが、ブレストにおいては社長も専務も部長も平社員も同等な役割、つまり意見を出し合うことがグループ・フロー状態となる近道なのだろう。またそれぞれの立場、職務領域についての意見が求められるはずだ。そういった意味でも同等の役割なのであろう。

⑦適度な親密さ:惰性にならない程度の親密さを持ち、文化を共有する

いわゆる馴れ合いが過ぎるとグループ・フロー状態にはならない。適度な緊張感が必要ということだろう。

⑧不断のコミュニケーション:インフォーマルな会話を大切にする

ブレストのセッションとは少し離れるが、普段の雑談等から相手の人となり、考え方を知っておくことが必要ということだろう。

⑨先へ先へと進める:他人の意見を受け入れながら即興的に対応する

これは「目標に向かって」先へ先へ進めるということだろう。またセッションの議題通りにカッチリと進めるのではなく、多分に即興性のある進め方をした方が、グループ・フロー状態になりやすいと思われる。それは「初めてのこと」「新しいこと」の方が脳を活性化させるためである。

⑩失敗のリスク:失敗へのリスクや恐怖感を推進力として利用する

もし目標に到達できなかったら、このプロジェクトは失敗する。さすがに一回のブレストでそこまではないだろうが、数度到達できなければ失敗に繋がる。適度な緊張感がグループ・フロー状態に至る推進力になるのであろう。

以上がグループ・フロー状態に至る条件である。また、先述のチクセントミハイはこの条件のより具体的なものとして、グループ・フロー状態に至る道筋を挙げている。

グループ・フロー状態に至る道筋

▼創造的空間配置にする

椅子、コルクボード、図表、机は置かない。そうすれば立って動きながらの活動が主体となる。

▼活動の場をデザインする

情報を書き込む図表、流れ図、企画の概要、熱狂(ここでは熱狂も場所を占める)、安全な場所(ここでは他に何が考えられるかを誰でも言うことができる)、結果掲示板、オープントピック。

▼並行した、組織だった作業をする

▼グループの集中を目標に定める

▼存在しているもの(原型)を発達させる

▼視覚化して効率を増加させる

▼参加者の意見の違いはチャンスとして捉える

これら道筋はプロジェクト中に用いられる仕掛けと似ている。もしかしたらチクセントミハイも、自身のプロジェクト経験から引き出したのかもしれない。「創造的空間配置にする」の例にあるように、机を置かないことで、立って動きながらの活動がしやすくなる。また「活動の場をデザインする」と組み合わせて、壁やホワイトボードに直接図表を貼り、そこで論議を重ねながら視覚的にペンを走らせるといったことはプロジェクトでよく用いられ、確かにグループ・フロー状態に近い状態になることが多いと感じられる。

「並行した、組織だった作業をする」、つまりは役割に応じた作業を全体の統制下で行うことにより、自らの役割の作業を遅らせてはならないという責任感と緊張感が芽生え、「グループの週集中を目標に定めることにより、作業あるいはプロジェクトを誤った方向に進ませないとともに、意識のベクトルを統一させることができる。これらもプロジェクトとして普通である。

そして、「存在しているもの(原型)を発達させる」と「視覚化して効率を増加させる」は、前回(2017/7/10)のデザイン思考で紹介した、プロトタイプのことと類似する。そのプロトタイプを用いてプロジェクトを前向きに進めることができる。

最後に「参加者の意見の違いはチャンスと捉える」とある。これはプロジェクトの仕掛けとは異なるが、意見の相違は良かれ悪かれグループ・フローに入るチャンスなのであろう。確かに思い起こせばそうなった経験がある。ただし、マイナスに進んでしまったことも多い。ここは「グループの集中を目標に定める」ことにより貴重なチャンスを無駄にしないようにする必要がある。

モチベーションを継続的に高めるために

ここまで調べて「プロジェクトメンバ―のモチベーションを高める方法は何か」という内容と「フロー状態」という言葉を繋げることがきた。ミーティングやセッションでグループ・フロー状態になる、あるいは近い状態になることは、モチベーションを継続的に高く維持することができる秘訣なのではないだろうか。そのためにグループ・フローの条件を理解し、グループ・フローに至る道筋を仕掛けとして用意しておく。そういうことに力を注ぐことがモチベーション継続の近道かもしれない。

と、帰路はいつものバスではなく歩きなが考えた。ほぼ新月だが帰路は明るい。

2017年8月