2017年8月1日

【ITの引っ越し~持っていけば動くわけではありません~】

~VPNと内線電話~

前回(2017/6/12)は複数の拠点にあるLANをひとつのネットワークにまとめることができるVPNについての話題でした。オフィス等に構築したネットワークと別に離れた拠点に構築したネットワークの間をインターネット上に構築した暗号化通信を介してひとつのネットワークに統合することが手軽に実現できるようになりました。それまではNTTその他のキャリアが提供する高額な費用が必要な専用線を利用するのでなければ、拠点間の通信が必要な間だけ相互接続を可能とするLANダイヤルアップ接続という仕組みを使って、一般の電話回線上で64kbpsという現在では信じられないほど低速な接続方法を利用していました。低速とは言え、専用線サービスの常時接続でも64kbpsや128kbpsが当たり前の時代ですから、繋がるだけでも御の字ではありました。

その後、光ファイバーを利用したBフレッツが普及して低速な場合でも数Mbps程度で外部と接続できるようになった頃、電話のシステムでもTCP/IPを利用したIP電話が普及し始めます。ISDN以来音声通話をデジタル化してやり取りすること自体は既に技術的に一般的でしたが、このデジタル化した音声データをISDNではなくTCP/IPでやり取りすることで、それまでは電話の音声とコンピュータシステムのデータは物理的に別々のケーブルで構築したネットワークでしたが、単一のネットワークに乗せることが可能になり、電話システムのIP化も並行して普及していきます。実際のオフィス内の配線では、管理面の都合で物理的に別々のネットワークを敷設することが多いようですが、離れた拠点間のネットワークを結ぶデータ通信用のVPNにIP電話のデータを乗せることで拠点間の通話を内線化することが可能になりました。IP化が導入される以前は、拠点間の音声通話を内線化するためには音声用に専用線を敷設するしかなく、そうでなければ都度一般的な公衆回線網で外線電話を使うしかありませんでした。外線電話にかかる費用の合計が専用線のコストを越えなければこちらの方が確かに合理的です。

15年ほど前に、それまでのITを押さえ電話システムを基盤にしたコミュニケーションに関する技術がIP化で合流してICTという呼称が広がり始めました。CiscoやAvayaなどの製品を見ているとこの流れが強く、データ通信と音声通信を統合したシステムで運用していくのが欧米での趨勢だと感じます。しかし、ICT統合の絶好の機会であるオフィス移転の際に、こういったリクエストをいただくことは拠点間の電話をVPNで内線化する以外にそう多くはありません。日本国内では国内メーカーの製品動向を見ても、総務系の部署が電話システムを情報系のシステムとは別建てで管理する志向が強いことを見ても、これらのシステムを統合していこうという志向はまだそれほど強くはないようです。

2017年8月