2014年7月28日

【ITの引っ越し~持っていけば動くわけではありません~】

~機器を移動させるだけではいけない理由~

当社の業務内容のうち主に運用・保守の領域を担当して、かれこれ18年。いろいろなお客様先でシステム運用のお手伝いをさせていただいてきました。18年ほど前というとマイクロソフトのWindows 95がリリースされ、オフィスの中にパソコンが爆発的に普及をはじめた時期です。

PCを使って仕事をすることがあたりまえ、スマートフォンやタブレットの活用法が課題になっている今と比べると隔世の感があります。今では社内にサーバが設置されていることはあたりまえですが、その頃はまだWindows Serverも NTという名前でバージョンも3.5か3.5.1で、ようやく仕事に使っても大丈夫かなとおっかなびっくりだった頃です、まともな会社の社内サーバといったらNetwareやSolarisでしょというのが当然のような時代でした。

さまざまなお客様のITの運用・保守の仕事を続けてきた中で意外だったのは、オフィスの引っ越しにかかわることが多いことです。事務所移転は企業にとっては大仕事です。ひとつの企業が数年置きに移転するということはそうそうありません。しかし複数のお客様にかかわっていると、今年はA社さん、翌年はB社さんといったように毎年のようにどこかの会社から「こんど事務所を移転するんだけど」というご相談をいただきます。

事務所移転にはさまざまな業種がかかわりを持ちます。不動産・設計事務所・電気設備・空調設備・電話設備・内装工事・運送・事務器・什器・警備等々さまざまな業者さんです。それぞれが長年の経験をもとにノウハウを蓄積しているのですが、ITの領域に関しては歴史が浅いせいでしょうがそうでもありません。

そもそもPCが企業内のコモディティとして浸透しだしてやっと20年ほど。加えて利用形態も年々変化してきているし、規模も使われかたも各社各様です。ITについてはオフィスの設備業者とでも呼ぶべきポジションが確立しているわけでもないし、ビルが作り付けの設備として提供できるようなものにはなっていません。

いざ引っ越し決定となると関係業者が集められ、定期的に会議を開いてプロジェクトを進めて行くことになりますが、ITシステムに関してはどの業者さんも「いやウチは専門外ですから」となってしまいがちです。へたをするとお客さんの自己責任でどうぞと言われかねず、普段の運用・保守のお手伝いをしている私たちにお声がかかるということになります。

移転に際してITシステムを動かす場合、考慮しなければならない領域は単純にIT機器の置き場所や運搬方法をどうするかといった話ではおさまりません。

LAN配線であれば電話線と同等の部材を使って同じような場所に配線するので、配線計画と施工は電話システムとの協同で作業することが多くなりますし効率的です。またフロアコンセントの設置計画やLANケーブルに対するノイズ対策も考えると、電源配線経路 ----電気設備との調整は当然のこととして、電気機器ですから電源設備の容量の確認は当然欠かせません。事務所移転後にPCの電源をいっせいに入れたらブレーカーがいっせいに落ちるなどシャレにもなりません。

サーバを運用しているのであれば、サーバ室を確保するために設計事務所など建築との打合せも必要です。サーバラックがオフィス内に無造作に置いてあるという牧歌的な時代もありましたが、騒音・セキュリティ・空調等々を考慮した独立した区画を確保するのが当然なご時世です。独立したサーバ室を設ければ消防設備についても目配りが必要です。

スプリンクラーで水を撒くなんてことは論外ですから、この方面についても多少は知らないと話ができません。単純に部屋を作っただけでは、消防検査で確実に指摘を受けることになります。そこから設計変更や資材の調達を始めたらスケジュールは大幅な組み直しになります。

警備システムとの相談も必要です。ビル側で統括した管理システムを導入していない場合は個別に警備会社のシステムを設置します。リモート監視設備は、かつてはISDNを専用に敷設してセンター側と接続するのがあたりまえでしたが、最近はインターネット接続と相乗りさせる事例も多くなりました。その場合、警備会社の監視センターからLANの内側は隠さなければならないので、ネットワーク設計には警備システムの制約も考慮する必要があります。

ここに挙げた以外にもさまざまな領域との整合性を考えながら調整を行って行かねばならず、業務の中で触れているハードウェアとソフトウェアだけしか考えていないと、移転先でまともに動かすことができないことになります。

オフィスビルにはいろいろな設備が作り付けられていて、それぞれ長い歴史の中で一体化したものとなっています。しかし、上にも書いたようにITは後から入ってきたものであり、そのありかたも日々変化しています。そのため、実際にどのように使われていて、移転した先でも少なくとも以前と同じように使えるようにするためには、ここで書いてきたようなさまざまな目配りを持って臨んでいく必要があります。

2014年7月