20221128

【ITの引っ越し~持っていけば動くわけではありません~】

クラウドと為替変動

AWSやMicrosoft Azureをはじめとしたクラウドサービスが様々な用途で一般的なものになってもう10年以上になると思います。物理的なハードウェアを調達してシステム構築を行う手間や時間、ハードウェアの設置場所や設置場所への通信経路の確保などを外部化し、稼働後のシステムの保有と安定した運用管理などのかなりの部分も外部化できるメリットについての認知が広まり、新規システム導入や既存システムのリプレースの際に物理的な製品調達と同等か、場合によっては優れた選択肢として検討されるようになっています。こういった検討の際、技術的な部分での優劣よりもハードウェア資産を所有せず、物理的な設置場所を必要としない面が場合によっては重視されることもあるようです。

新型コロナウィルス禍やウクライナ侵攻によって製造・物流の混乱が生じているため、ハードウェア調達も大きな影響を受けていて、小はスマートフォンのような小型機器から大はサーバー機まで、以前通りの納期が期待できず必要な時に必要なものを手に入れるのが難しいことも実際に経験していますし、周りで見聞きもしています。そういう点では、必要になったタイミングで環境を即座に用意できるクラウドサービスは納期面でも有力な候補になります。

しかし、日本国内でこういったサービスを利用する場合、ほぼ全ての選択肢は費用が米ドルによる課金のため、これまでのクラウドの普及期はドル円レートが安定していて、所有するよりも手軽にクラウドサービスを始められてコストも抑えられていました。ところが、情勢変化による急激な円安の影響によって、円換算のコストが急激に膨れ上がる状況が発生したため、安定したランニングコストと思っていたものが、実は振れ幅の大きくなることが有り得ると認識されました(為替相場に依存したコスト構造なので当たり前のことですが、安定している時にこういった負の面は意識にのぼってこないものです)。

ここしばらく社内で運用していたシステムや新規開発や実験環境をどんどんクラウド化して運用管理の手間が減り、保有コストも激減したと喜んでいたのに、この半年ほどでドル建てでは同じ価格なのに円換算だと4割も超えるコスト増になってしまい、移行可能なものは急いで自社内で運用するオンプレミスに戻し始めているという話も聞いたことがあります。

この話のように急いでクラウドからオンプレミスに移行するといっても、内部リソースで作業ができる体制であれば日常の業務の一環として対応をも可能ですが、構築と運用を外部リソースに依頼している場合は、こちらに対する作業コストと期間も発生するので、規模によってはここがブレーキになってクラウドのコストが増加し続けるのをそのまま受け入れざるを得なくなることもあります。

現在の世界規模の様々な混乱が半年や1年程度で収まることはあまり期待できそうにないですし、仮に一旦落ち着いたとしても今後はこういったリスクも頭に入れておかないと、思わぬところで身動きできなくなることも起きかねません。

2022年11月