2017年7月10日

【RFPコンサルタントの日常】

~腑に落ちないを腑に落とす 「デザイン思考」~

創造的な思考法を求めて

世の中には様々な思考法が溢れている。有名なものにロジカル思考、批判的思考がある。これら論理系列の思考法では、前提や与件から飛躍や逸脱が極力ないように思考することで、筋の通った解に到達する。そのようにして到達した解には説得力があるが、新奇性や創造性は少ないことが多い。極論、誰がやっても解に大差がない。新奇で創造性に富んだアイデアを出すのに適した思考法はないか、と調べたところ、デザイン思考という言葉が見つかった。少し前に流行した言葉である。今回はこの「デザイン思考」を腑に落とす。

デザイン思考とは何か

このデザイン思考とは、Wikipediaにあるように、「デザイナーがデザインを行う過程で用いる特有の認知的活動を示す言葉」である。言い換えれば、新製品を企画開発する際、優秀なデザイナーは新商品についてどのように考え、開発に取り組んでいるか、といった認知的活動のパターンを抽出して思考法として確立したものである。この思考法の特徴としては、人間を起点として考えることにある。技術や市場や組織、つまりどんな技術を用いるか、どんなものが売れるか、我々は何を売りたいのではなく、顧客のニーズを叶えられているかが重要となる。詳細に関しては様々な情報が出ているので検索していただくとして、このデザイン思考だが、他の思考法と毛色が異なっていることがある。それは代表となる技法が存在しないことである。ロジカル系の思考法でいう「MECE」や「なぜなぜ分析」のような代表技法が存在しない。(「なぜなぜ分析」はデザイン思考においても使用されるが、なぜなぜ分析はデザイン思考の代表技法ではない。)

ではデザイン思考を代表するものは何か。それは技法ではなくプロセスにある。デザイン思考は思考の方法を定義したものではなく、人間起点の新発想へのアプローチができるような創造的プロセスを定義したものではないだろうか。

デザイン思考のプロセス

デザイン思考は以下の3つの活動から成り立っている。

①理解する → ②探求する → ③具現化する

①から③を順番に行うこともあるが、③から②、②から③と反復することもある。また各活動を同時並行で行うこともある。この3つの活動を具体的に掘り下げると下記6つのステップとなる。

①理解する ・・・ 共感する / 問題定義する

②探求する ・・・ 創造する / プロトタイプを作る

③具現化する ・・・ テストする / 実装する

①理解する:共感する

ユーザーの生活環境や状況から、顕在化された、あるいは潜在的なニーズを得るために、観察や聞き取り調査、あるいはユーザーとしての体験から気づきを得るステップである。

①理解する:問題提起する

共感で得た経験のうち、どこに焦点を当て、どこを問題とするのか定義するステップである。例えば、ユーザー経験からヒゲ剃りの刃を毎日取り替えたいと思っているが、実際には1週間に一度しか取り替えていないという事象があるとする。焦点の当て方次第で以降企画するものが異なる。上記の場合、ヒゲ剃りの刃を交換するのに手順がかかっていることが問題と考えるかもしれない。この場合普通に考えなければ交換し易い替刃という企画が生まれる。しかし焦点の当て方によっては、毎日刃を交換しなければならないくらい剛毛であることが問題となるかもしれない。この場合は脱毛成分の入ったクリームという企画となるかもしれない。

②探求する:創造する

問題定義で焦点を当てた問題をトピックとして、とにかくアイデア出しを行うステップである。そのアイデアの中からある軸について得点が高いものを選んで後述のプロトタイプを作成する。ある軸とは「合理的」であったり逆に「突飛さ」であったり、必ずしも論理的である必要はない。またアイデアは一つだけではなく複数選択する。

②探求する:プロトタイプを作る

プロトタイプを作成するステップである。プロトタイプといえば、試作品レベルのものを想像するかもしれないが、デザイン思考で言うプロトタイプは「安く、迅速に作成できる」ほどよいとされている。ホワイトボードに書かれたストーリーボードでもよい、紙とテープで作った模型でもよい。重要なのはイメージを持ちながら、プロトタイプの検証ができることである。

③具現化する:テストする

プロトタイプを開発者以外の人間、できればユーザーに使ってもらって検証するステップである。

③具現化する:実装する

これまでの成果を実装し、ユーザーの生活・環境を変えることである。先ほどのヒゲ剃りの例であれば、毎日ヒゲ剃りの刃を変えられる生活になったかどうかが鍵となる。単なる商品化でないことがポイントである。

改めて「デザイン思考」とは

「新奇で創造性に富んだアイデアを出すのに適した思考法はないか」から始まったデザイン思考の探求であったが、デザイン思考とは単体のアイデア出しの思考法ではないことが分かった。当初の目論見は外れたこととなるが、よりよい考え方を理解することができた。デザイン思考とは、人間起点の何かを創造するための効率的なプロセスであり、創造的にならざるを得ない取り組み方法であると気付くことができた。ただ残念なことに、この気づきはなんら新しいものではなかった。ミルトンという人は創造性に関して以下のように語っている。最後にこれを紹介したい。

「創造的な人などというようなものはない。創造性というのは動詞、実行するのに非常に時間のかかる動詞のようなものだ。つまり、頭の中にあるアイデアを検討し、そのアイデアを現実のものにするということなのだ。そして、そうしたプロセスは常に長く、困難なものになる。こうしたことを正しく行えば、機能していると感じるようになる。」(Milton Glaser)

2017年7月