2022627

【ITの引っ越し~持っていけば動くわけではありません~】

Internet Explorerが終了して思い出したこと

あちらこちらで話題になりましたが、先日MicrosoftのWindows各バージョンに搭載されているWebブラウザであるInternet Explorer(以下IE)のサポートが終了しました(2022年6月15日)。終了したので即座に起動すらできなくなるわけではないようですが、毎月リリースされるWindows Updateを無効にしていたり、インターネットに接続しないで使用するなどの特殊な環境でない限り、IEを起動しても現在のWindows標準ブラウザであるMicrosoft Edgeが代わりに起動するなど強制的な移行が始まります。プログラムメニューやデスクトップに配置されたIEのアイコンが消えたわけではありませんが、将来的なWindows Updateで完全に削除されることになっています。

※ 詳細はMicrosoftのWindows Blogに掲載されています:https://blogs.windows.com/japan/2022/06/15/internet-explorer-11-is-no-longer-supported/


1995年にリリースされたWindows95の爆発的な普及が一般社会へのインターネット普及のきっかけとなったとして、1995年がインターネット元年などと呼ばれることがありますが、この当時のWindows95にTCP/IPの標準機能として利用可能になったことが特記できる点で、Winrows95に提供されたMicrosoft製のIEやInternet Mail and Newsなどのクライアントソフトの出来はお世辞にも良いものとは言えないものでした。Microsoft内部にはInternetのことを理解している開発者がいないのではないかと疑うほど、まともと言えるレベルになったのはWindows98に搭載されているバージョン4からと言っていいでしょう。

Windows98ではOSの画面描画をはじめとした内部機能とIE4が統合されましたが、この統合がWebブラウザを経由したWindows内部への攻撃を行い易くする脆弱性をはらむものになっていて、以後のバージョンアップで様々な機能追加・改善と脆弱性の修正が重ねられてきました。Windows10の開発に合わせてOSとブラウザの統合を仕切り直してEdgeへの移行が断行され、今回のサポート終了に至っています。脆弱性をはらんでいたものの、Windowsとの一体化により、Active-Xその他の技術を利用したWebアプリケーションが開発しやすいことで、社内で使用する各種システムをWebアプリケーションとして開発しやすくなり、クライアントサーバ型業務システムのWebアプリ化に貢献したことは間違いありません。今後は、こういったシステムのプラットフォームはGoogle ChromeやChromium版Edgeを中心としてブラウザに移行していくことになりますが、ブラウザを実行環境とするWebベースのシステムを提供する方向性はかわらないでしょう。

こういった流れについて思い出すのは、1994年にベータ版が公開されたNetscape Navigationの衝撃と影響です。Netscape Navigatorが登場する以前にはMosaicその他のWebブラウザによるWorld Wide Webが普及し始めた初期の段階のWebページはテキストベースのWebページの中にGIFファイルを組み込んで画像を表示するもので、音声や動画その他動的なコンテンツの提供が必要な場合は、ヘルパーアプリケーションと呼ばれる外部のアプリケーションを呼び出して別ウィンドウで表示させるものでした。ここに登場したNetscape Navigatorでは、音声や動画をページ内部に組み込むことができ、スクリプトを使用してより動的なページを構成することが可能になっていました。

このような機能が進化していけば、各種OSはコンピューターを起動してキーボードやマウスなどの入力デバイスの制御やネットワーク接続とWebブラウザを起動することができれば、その他のアプリケーションソフトの実行環境はWebブラウザの中で賄うことができるかもしれません。また、同じブラウザを動作させることができれば、コンピューターのメーカーやOSの種類などの環境に依存しない統一した環境を構築できるかもしれないという想像を刺激するもので、OS上にWebブラウザでプラットフォームに依存しない統一された作業環境を構築できるかもしれないという期待(というか妄想)をあちらこちらで目にするようになりました。そういった意味では、WindowsとIEの統合はこういった方向にあるものの、インターネットに接続された世界にWindowsがインストールされたPC以外の環境をまったく考慮しない閉鎖的なもので、個人的には残念に思っていました。

Netscape Navigator登場の頃の妄想に現在もっとも近いのはGoogleが提供するChrome BookやChromium OSかもしれません。Linuxベースのシステムの上にChromeがユーザーインタフェースの機能を提供して各種アプリケーションを利用できます。しかしこれもGoogleが提供するネットワークサービスを利用するのが大前提なので、この面ではMicrosoft同様のクローズなシステムではあります。

また、AppleのiPhoneでは当初サードパーティのアプリケーション提供が考慮されていませんでしたが、スティーブ・ジョブズはサードパーティが参入できないことへの批判に対して、HTML5で書けばなんでもSafariで実行できるからサードパーティの開発するアプリケーションは必要ないだろうと答えています。もちろんAppleが提供するiPhone限定の環境の話ではありますが、これがもしかすると先述の妄想への模範解答だったのかもしれませんし、Chrome Bookでもブラウザ上で動作するHTML5アプリケーションならWebアクセス可能なシステムで様々なアプリケーションを提供可能なので同様かもしれません。

IEの終了をきっかけにMicrosoftやその他のメーカーが提供するシステムの閉鎖性についていろいろ書きましたが、各社が提供するハードウェアやOSではなくMicrosoft365のWebサービスやGoogle Workspace、AppleのiCloudなどのクラウドサービスではハードウェアやOSの制約にとらわれずに要件を満たすブラウザでアクセスできれば、そこで提供されるアプリケーションやサービスを利用できるので、そういう面ではそれぞれ1994年当時の妄想を実現できているといってよいかもしれません。

2022年6月