2018年7月10日

【RPAコンサルタントの日常】

~ヒトの世界の歩留まり1を求めて~

歩留まりとは

皆様もどこかでこの言葉を聞いたことがあるであろう。歩留まりとは製造などの生産活動全般において「原料(素材)の投入量から期待される精算量に対して、実際に得られた製品生産数(量)比率」のことである。要するに「このくらいできるであろう」期待に対して、実際に「これくらいしかできなかった」生産数のことである。この歩留まりが高いほど原料の質が良く、不良品が少ない。生産性や効率性を図る目安となる。

この歩留まりについて、Wikipediaには製鉄の例が載っている。

同じ製錬方法を使った場合、鉱石「B」の方が優れている。(鉄鉱石ABの価格が同じ場合)

▷鉄鉱石「A」を10使って、鉄1を製錬する場合

▷鉄鉱石「B」を8使って、鉄1を製錬できる場合

また同じ鉄鉱石を同量用いた場合は、製錬方法「乙」の方が優れている。

▷製錬方法「甲」では鉄を10製錬

▷製錬方法「乙」では鉄を11製錬

いうまでもなく「甲」よりも一つ多く鉄を製錬できるからだ。

また、工業製品にとっては、良品比率と同義である。製造数を1として、不良品率を引いた比率が歩留まりとなる。

1-(不良品率)=歩留まり

モノの世界の歩留まりを高めるには

歩留まりが低いと、それだけ余分に原料が必要となる。また、不良品に原料や作業コストを支払っていることになり、こういった余分な製造コストによって製品の原価は上がることになる。そしてそれらは製品の価格に反映され、価格競争力の低下に繋がる。歩留まりを高めるには、良い原料を使い、良い製造工程で生産することになる。すなわち、いいインプット、いいプロセスで、いいアウトプットを出すことにある。しかしながら原料を完全にコントロールすることはできない。原料自体に不良品が含まれているかもしれないからである。また、人の作業工程で発生するミスを防ぐことも難しい。機械で行う作業にも、機械トラブルが発生するかもしれない。よって、歩留まり1(100%)を目指すことは理想論である。どこまで歩留まりを許容するかが製造戦略のポイントとなる。

モノによっては、製品の品質基準を下げて歩留まりを上げているものもある。液晶ディスプレイなどがその例である。液晶ディスプレイはドット落ち、すなわち不良表示画素子があるものが不良品となると思いがちだが、実は一定数、または目立つ箇所にドット落ちがなければ、不良品としない。

また、半導体製品、CPUやハードディスクは高い検査基準に合格したものをハイエンド製品として販売。不合格になったものは、動作周波数を下げたり、最大記憶容量を減らしたりと、基準を低くして、エントリーモデルといった性能がお手頃のモデルとして販売している。

ヒトの世界の歩留まりとは

ここからが本題である。営業活動、バックオフィス業務、マネジメント業務など、ヒトの世界での歩留まりとは何だろうか。モノの世界の原料にあたるものは、主に「活動時間」であろう。そして製造工程にあたるものは、ヒトの「思考」であったり、ITシステムやITによらない仕組みを用いた作業がそれにあたる。ちょうどいい照明や姿勢の良くなる椅子など、環境も製造工程を良くするためのものである。そして製品にあたるものは、それぞれの業務のアウトプットである。プレゼンテーションかもしれないし、帳票の作成かもしれないし、利益を出すために打ち手を出すことかもしれない。ヒトの世界での歩留まりは、時間当たりの生産性とっても過言ではない。プレゼンテーション資料作成に10時間費やすのと、1時間費やすのとでは生産性が異なる。

ヒトの世界での歩留まりを上げるには

ではヒトの世界において、歩留まりを上げるにはどうすればよいのだろうか。これもモノの世界の考えが応用できる。一つは、いいインプット、いいプロセスで、いいアウトプットを生産することである。ノウハウの共有で業務に悩む時間を削減し、システムの導入などで、作業時間を短縮し、作業しやすい環境を整えることで作業スピードを向上させることにある。もう一つは、半導体の例のように、品質基準を下げることにある。基準を下げるといっても、液晶ディスプレイのようにドット落ち、つまりは誤字脱字といったミスを許容するわけではない(社内資料ではいいかもしれないが)。資料であれば目的に沿った範囲で作成することにある。プレゼンテーション資料であれば、凝ったアニメーションや図形は必要ない場合もある。もっと言えば、案件を獲ることが目的としたら、資料自体不要かもしれない。分析資料があれば、もしかしたら細かい数値は必要ないかもしれない。せっかく作ったとしても、全然使われないかもしれない。こういった目的外の活動を削減することが、ヒトの世界の歩留まりを上げることに繋がる。

ヒトの世界の歩留まりも、モノの世界と同様に1(100%)を目指すことは難しい。しかし、ノウハウの共有などのたゆまぬ努力により時間当たりの生産性を高めることはできる。そして、目的外のことはやらないといった工夫により、過剰な期待を排し、適正な生産に向かうことができる。そういった努力がヒトの原価を削減し、ひいては企業の競争力を高めることになり、低いと言われ続けている日本の生産性を改善することになるのである。

“歩留まり1(100%)を求めて”

2018年7月