第743回 2025年5月16日
佐藤純弥監督作品、英題はThe Bullet Train 、Super Express 109、高倉健主演、宇津井健、山本圭、千葉真一共演、152分。
東京発博多行きの新幹線(ひかり109号)に仕掛けられた爆発物を発見して、無事停止するまでのパニック映画。速度が90キロ以下になると爆発するという設定がされている。予告電話がかかってきて、解除するためにドル紙幣での大金(500万ドル)が要求される。会社側にはそんな大金がすぐには用意できない。乗客1500名の命と、車両の大破を考えれば、決して高い取引ではないという判断で、政府が用意することになった。JRになる以前、まだ国鉄時代の物語である。
犯人は3人で主犯(沖田哲男)は、倒産した町工場の経営者だったが、そこに身を置いていた若者が二人加わった。ダイナマイトを用意するときに関係した、手配中の男が話を嗅ぎつけて、仲間に加えるよう脅してきた。足がつくことを恐れて拒否するが、その後逮捕されて、新幹線で護送されることになる。ターゲットにしたひかり号に、偶然乗り合わせることになってしまった。仲間になれなかった恨みから、犯人の割り出しに協力する。
新幹線は東京の司令室の一ヶ所で制御されていたが、前を走る列車に故障が起こり、修理には時間がかかることがわかった。止まることはできないため、わずかな間だけ車線変更をして車両を追い越すことになる。その間、逆走することになり、へたをすれば、のぼり列車と衝突する。司令室の壁面に映された、車両の走行位置を表示したパネルと睨みあいながら、緊迫感のある時間が続く。
速度を110キロに落とすことで、博多まで9時間の余裕ができたが、徐々に残された時間は少なくなっていく。名古屋に止まらなくなったときから、客室でのパニックが拡大する。客のなかにはどうしても下車しなければならない事情があった。妊産婦もいて陣痛が起こりはじめたが、下車することができない。アナウンスで医者が探されて、付き添っているが死産をしてしまい、母体も弱っている。乗客に向かって輸血が求められている。
最初の電話がかかり、用意された金をヘリに積んで、刑事がひとりそれをもって飛び立つ。急流をくだる小舟に積み込んで、岩場にいたひとりがロープを降ろしてトランクを吊り上げるという計画だったが、共犯の若者(大城浩)が吊り上げているときに、大学柔道部の練習生たちが通りかかる。隠れてようすをみていた刑事の一人が、犯人なので捕まえるよう大声をあげた。主犯はその一部始終を遠望していた。
若者はトランクを取り損ねて、逃げて隠していたバイクで逃走する。パトカーの追跡から逃れ切れず、事故死をしてしまった。警察も手がかりを失った。若者の身元が探られていくが、運転免許証は持参しておらず、判明するまでに時間がかかると判断している。もうひとりの仲間(古賀勝)と連絡を取り合うが、こちらは学生運動の延長上での犯行だった。革命をめざして挫折のすえ、主犯と知り合った。
主犯には政治的意図はなく、会社が倒産し、離婚をして妻が子を連れて去っていた。妻子には愛情は残っていたが、妻の親族からの借金もあり、返すそぶりもなく顧みることがなかったことも、離婚を決断させる原因になっていた。死んだ若者については、集団就職で上京し、不幸な生い立ちから生活の面倒を見てやり、仕事も覚えさせてかわいがっていた。
死んだ犯人は二十歳前後の若者であり、電話をかけてきた中年の声とは異なることから、共犯組織を洗い出していくことになる。元活動学生は北海道にいた。新幹線の犯行を信用させるために、北海道の貨物列車にも同じ爆発物を仕掛けたことを知らせた。同じように速度を下げると爆破する。確かに爆発が起きたことで鉄道と警察は、本腰を入れて対応することになった。新幹線の運転席に爆発物の情報が伝わったとき、ああまたかという反応を示していた。いたずら電話があとをたたなかったのである。
北海道の列車に残された指紋から、活動学生の情報と付き合わされていく。学生運動の逮捕歴から、氏名も住所も特定された。その頃の住所にはすでにいなかった。そこは水商売の女の住まいであり、男の名を伝えると、自分が面倒をみていたのだと、若者を囲っていたことを打ち明けている。顔も割り出されて、渋谷で歩いているのを見つかり、逃げるが遠方からの発砲で傷を負わされた。
やっとの思いでアジトである、主犯のいる工場跡に逃げ込む。計画を練り直す必要があった。主犯と顔を合わせると、自分たちはまだ誰の命も奪っていないのに、一人は死に、一人は狙い撃ちにされたと、怒りをぶつけた。
主犯は戦意を喪失し、もはや取引はしないと決断したが、仲間がそれを押しとどめた。傷の手当てをして、一人でトラックに乗って出ていった。戻ってくる時間を言いおいたが、仲間は自分は傷を負っているので、二人で逃げるのは難しく、別行動を取ろうと言い出した。
トラックにはバイクを積み込んでいる。高速道路の脇に停めて、一時停止の旗を立て、バイクに乗り換えて移動する。途中で司令室に電話を入れる。司令室では警察の不手際が批判されていた。一人は死に、一人は取り逃してしまった。主犯からの連絡は、もう来ないだろうと判断していた。
電話はかかってきた。置き去りにしたトラックの運転席に、トランクを載せるよう要求してのち、バイクでそれを回収して逃げ去る。金を手に入れると、爆発物の場所とはずし方を書いた書類を、立ち寄った喫茶店に残し、警察に知らせる。このとき思ってもいないことに、喫茶店に火災が起こり、書類が焼失してしまう。犯人は何も知らないまま、海外逃亡の準備にかかっていた。
このことを知らせようとテレビ放送を利用して、犯人に訴えている。傷ついた仲間を連れ出そうと、アジトに向かうと、警察の手が伸びていた。仲間はダイナマイトを手に応戦したが、力尽きて、飛び降りて爆死してしまう。そのようすを遠巻きで確認して、主犯の車は走り去った。車を乗り捨てて用意していた、二人分の偽造パスポートを焼き払っている。
名を変えてスカンジナビア航空での逃亡を進めていた。空港には警察の手が伸びている。主犯の割り出しは進み、離婚の事実も突き止められて、元妻のもとにも捜査の手は伸びた。離婚後会っていないことを告げ、空港にも息子とともに呼び出されていた。荷物を預け手続きを終えたとき、人混みの中で離れていたが、二人の視線はあった。素知らぬふうを装ったが、息子が動揺してしまった。
刑事がそのようすを察することで、逃げはじめた主犯を追いかける。大勢の警察の手が取り巻き、制止を聞かずに逃げ去ったときに発砲され倒れてしまう。主犯は空港のテレビ放送で、犯人への訴えを目にしていた。黙って通り過ぎようとしたが、良心はとがめ電話をかけさせた。本部ではなく、末端の駅に知らせることで、身の安全を確保していた。
このときすでに新幹線は無事に止まっていた。危険は回避されていたが、犯人逮捕を優先して、犯人からの連絡を待って、訴えの放送を流し続けていたのである。悲痛な声で訴えかける自身の映像を見ながら、司令室の担当官(倉持運転指令長)は、危険が回避されたことをすぐに公表するよう訴えたが、警察と上層部がそれを阻止した。心配している家族のことを思えば、一刻も早く伝えるべきだと主張したが通じなかった。
これに先立って博多駅までに爆発物が処理できないと判断されたとき、新幹線を市街地に入る手前で止めることが協議された。被害を最小限で抑えようと考えたからである。到着まで30分もある、山口県内で止めるという指示を出すよう、担当官に命じられたが応じなかった。上官が出てきて自分が命令すると言ったとき、泣く泣く承諾することになる。
ギリギリの段階で、爆発物の情報が届き、作業にかかる。外部からの高速度撮影を試み、爆発物の車両が映し出されていた。不鮮明だが爆発物は二ヶ所あるようにも見える。100キロで走ったまま、別の新幹線を並走させ、バーナーを積み込み、鉄板を焼き払うことで、着火装置に手を伸ばし、爆発が回避される。
その後、もう一つ別の爆発物の存在が上がるがもはや限界で、一か八か停止を試みたが、爆発はなかった。胸を撫で下ろすなか、担当官は非情な業務に耐えきれず、不満を胸に秘めながら辞職を表明している。現場に身を置く運転士(青木)と、涼しい顔で指示を出す司令部との落差の間で、良心の呵責に耐えかねた、板挟みの任務を考えさせられるものともなった。
高倉健が犯人役を演じていて、これまでの任侠映画のヒーロー像を脱している。飛行場で撃ち殺される最後のシーンは印象的で、この映画の主役であることを伝えるものだ。これに対して主役は人物ではなく、新幹線なのだという切り返しがなされたようだが、これは重要な視点なのだと思った。パニック映画の主役は、確かに巨大客船であったり、巨大サメであったり、高層ビルであったりした。人間はそれに挑むちっぽけな存在に過ぎない。