蛇の穴

蛇の穴

これはメアリー・ジェーン・ウォードという人の自伝的小説がもとになっているらしい。大昔テレビでチラッと見た記憶があるが、ちゃんと見たのはたぶん初めて。州立病院に入院しているヴァージニア(オリヴィア・デ・ハヴィランド)は、面会に来る夫ロバート(マーク・スティーヴンス)のこともわからない。最初に二人が出会ったのはシカゴで、彼は出版社に勤めており、彼女は作家志望だった。気が合って親しくなったが、ある日彼女は消えてしまう。再会したのはニューヨーク。求婚しても渋っていたがとうとう結婚。しかしすぐにヴァージニアの様子がおかしくなる。主治医のキック(レオ・ゲン)は電気を使ったショック療法を試し、その後は心理療法を試みる。彼女には過去何かがあって、それがトラウマとなって男性とうまくいかないのだ。その後あれこれあるが、描写はヴァージニア中心で、例えば彼女が入院している間のロバートの生活心理はほとんど描かれない。彼女の症状は一進一退だが、どうせ最後には治るに決まってるから、皮肉なことにまわりの(描かれない)ことに興味が行くのだ。仕事で疲れて帰ってきても誰も出迎えてくれる者はいない。彼女は全く気にしてないけど入院費は彼が払っているのだろうし。キックに関しても同様だ。病院は定員をはるかに超える患者を収容している。看護婦の態度がつっけんどんになるのも無理はない。中にはおかしくなって看護婦から患者へなんて人もいるが、笑い事じゃない。キックは一人一人をていねいに診察し、寄り添う。たぶん彼は家族を持つことはあきらめている。いつだって身なりはきちんとしているし、夜だって何だっていやな顔もせず疲れた顔もせずいらだつこともなく現われる。眠りも食事も休養も必要としないように描かれるが、実際問題として人間にはこんなこと無理だ。レオ・ゲンはフランク・ランジェラ風味。マーク・スティーヴンスはふてぶてしさのないアラン・ラッドというところ。セレステ・ホルムは最初の方しか出てこない。キックの同僚テリーが「呪われた城」で見たばかりのグレン・ランガン。キックが好きで、ヴァージニアに嫉妬する看護婦デイヴィス役ヘレン・クレイグがいい。でも一番インパクトがあるのはヘスター役のベッツィ・ブレア。美青年と言ってもいいくらいの中性的な美しさに驚く。甲冑をつけた中世の騎士をやったら・・と思わず想像してしまった。