ルネ・クレマン監督作品、フランス・アメリカ映画、原題はLa Course du Lièvre à Travers les Champs、ロバート・ライアン、ジャン=ルイ・トランティニャン主演、セバスチャン・ジャプリゾ脚本、フランシス・レイ音楽 、122分。
犯罪者が逃亡するなかでの、さまざまな人間関係を描いたサスペンス映画である。主人公(トニー)の少年期の記憶から話はスタートしている。母親から友だちをつくるよう言われた少年が、同じ年頃の子どもが集まっているところに入ろうとする。人種が異なっていることから、仲間に入れてもらえない。
気を引こうとして、ビー玉を差し出すと、ナイフを取り出して、ネットを切られて、中に入っていた無数の玉が、転がり出てしまった。別のグループでは、笑いかける少女がいるが、ここでも年長の少年が目を光らせていて、のけものにされている。
場面は切り替わり、大人になった主人公が逃げている。追ってくるのは少年期と同じく、スペイン系かメキシコ系の目つきの鋭い男たちである。彼らの殺意は主人公が乗っていたヘリが墜落して、現地の子どもたちを犠牲にしたことによるものだった。
トラウマになったように主人公がその惨状を思い起こしている。列車に逃げ込み成功したと思ったが、追手が続いて乗り込んでくるのを恐れて、そのまま反対側から飛び降りている。走り続け大都会にかかる長い橋を渡っていく。車に乗った追手に見つけられ、さらに追跡は続いていった。
アメリカでの話かと思ったが、フランス語が話されていて、場所はカナダのモントリオールだった。万博会場の跡地なのだろうか、未来都市を思わせるパビリオンに逃げ込み、長いエスカレーターに人影を見つける。叫び声が聞こえ同時に銃声も聞こえた。近づくと男が撃たれて横たわっていて、主人公に封筒と財布を手渡して、お前にやると言って死に絶えた。
封筒の中身は札束だった。ふところに隠し込んだところに、追手が現れ、手にしていた財布は取り上げられてしまった。身の潔白を主張するが、手錠をかけられて連行されることになると、警察なのだとわかり、本来の追手から逃れられると主人公は安堵した。
しばらく車が走ったところで、乗り込んだ二人の男は、警察官ではないことがわかる。主人公は途中で隙をみて、男のひとりを車から突き落とし大怪我をさせるが、もうひとりに銃を突きつけられた。ともにギャングの手下で、ボス(チャーリー)のもとに連れて行かれた。
アジトに到着すると、ボスのほかに、粗暴なもう一人の手下(マットン)がいた。大男でボクシングの選手でもあって、主人公は挑みかかられると歯が立たなかった。ボスは落ち着きをもって、手下の暴力を止めていた。そのほかに女(シュガー)もいた。連れてこられた主人公に興味を抱きはじめ、料理をふるまってやっている。玄関には閉店の看板が出ていたので、レストランを営業していたのだろう。ボスの愛人のように見えることから、距離を置いていたが、女のほうが近づいてくる。ボスも気づくが冷静に見ていて、ひとり味方ができたなと対している。
手下のひとり(リッツィオ)は芸術家で絵がうまく、主人公は手先の器用なところに感心すると、好意的な目を向け出した。ボスはふたり目の味方ができたと評価した。主人公はなぜ逃げていたのかと問われると、とっさに強盗で警官を殺して逃げているのだと答える。ボスはそれを聞いて、自分たちの仲間だと喜んで、紙幣を一枚手渡して、自由を与えた。
主人公はアジトから逃げかけると、もとの追手が執念深く待ち受けていた。あきらめて戻ることになると、ボスと手下は戻ってくるかどうかを、賭け事にしていた。ボスは戻ってくるほうに賭けていた。帰ってくると餞別に渡したドル紙幣を取り返している。女は自分の料理を食べたくて戻ってきたのだと、腕前を誇ってみせた。ボスも気を許し、仲間の一人として溶け込みはじめていく。
大人げない遊びを楽しんでいる。タバコを縦に3本立てることができるかを賭けて、ボスに勝利する。ボスは悔しげにしながらも、手先の器用なところを買っていた。4本目にも挑むが難しい。主人公がもらっていた札束は、仲間が裏切って持ち逃げをしていたものだった。
殺された仲間は元刑事だった。素知らぬ顔をして隠しもっていたのを、女が見つけてボスに知らせていた。女が男の腹にナイフによる傷痕を見つけて、包帯を替えてやったときに、見つけ出していたようである。女は主人公に惹かれたが、ボスを裏切ることはできなかった。
主人公に傷つけられた仲間のひとり(パウル)の容態が悪化した。命を落とすことになるが、妹(ペッパー)がいて誰がこんな目にあわせたのかと詰め寄っている。女は主人公をかばって、裏切って殺された元刑事によるものだと答えた。医者も僧侶も呼ぶことができず、埋葬をしてボスが祈りを捧げている。兄妹はボスに恩義を感じており、施設にいたのをボスによって救われていた。
やがて主人公によって兄が殺されたことが明かされるが、妹は主人公の誠実な対応に接し、恨みから愛情へと心を変化させていく。このときもボスは見届けていて、3人目の味方ができたとたつぶやいていた。航空券を手に入れて、二人しての逃亡計画を立てることになるが、もう一人の女に気づかれてしまう。
最後の仕事は誘拐をともなう大規模なものだったが、男たちが一塊となって立ち去ったあと、捜査の手が伸びて、一人残った女だけが逮捕されてしまった。失敗に終わり、何人かは撃ち殺され、一人は捕まり、ボスと主人公と妹が生き延びた。札束の入った2つの袋を担いでアジトに戻るが、ボスは傷を負っていた。二人の仲を知っていたボスは、金袋のひとつを手渡して車で生き延びるよう指示した。
二人は指示にしたがうが、主人公は途中で、はじめの追手に出くわし、投げられたナイフが背中に刺さり、傷を負ってしまう。妹にはそのことは知らせず、自分の分の航空券を引き取って、先に逃げるように指示した。落ち合う約束をしてボスのもとに戻り、二人してライフルを構えることになる。
フランス語と英語で「閉店」と書かれた、二枚の看板を標的にして、撃ち落とすたびにビー玉を二つずつ置きあっている。閉店は男たちふたりの今の立場を意味するものだ。男の友情と絆を暗示するもので、少年期のビー玉が散らばる映像がかぶさって、年長の友人ができたことを喜びながら、階段を降りていく少年の姿を写して、映画は終わった。
子どもの遊びが死ぬ間際まで続くが、友を得てともに分かちあえる喜びを描き出していた。二人して討死をすることになるのだろうが、二人の女から愛されながら、友情を選んだ結末に、男の美学を感じるものだった。「野をかける野うさぎのレース」というフランス語の原題と、自分たちは「年老いた子供にすぎない」というルイス・キャロルからの引用を、謎めいた日本語タイトルとともに噛みしめることになる。