第767回 2025年6月22日
アルフレッド・ヒッチコック監督作品、ヴィクター・カニング原作、アメリカ映画、原題はFamily Plot、バーバラ・ハリス、ブルース・ダーン主演、ジョン・ウィリアムズ音楽、121分。
若い女の霊媒師(ブランチ)が、老女(ジュリア・レインバード)の前で霊を呼び寄せている。突然男の声に変わり、語り出すのに驚かされる。老女は資産家であり、妹(ハリエット)がいたが今はなく、若いときに男の子を生んで手放した。その子を見つけてほしいのだという。手放した理由は、結婚をして生まれた子ではなかったからで、名門の家では、対面をまず第一に考えたのだった。
財産を受け継ぐ血筋がなく、その子を探したいのだという。姉は自身の非情な仕打ちを悔いており、見つけてくれれば報酬として、1万ドルの大金が提示された。霊媒師はイカサマ師だった。恋人のタクシー運転手(ジョージ)に話を打ち明け、儲け話に浮かれながら策を練る。これまでは25ドル程度の仕事が主だった。運転中に驚いて、よそ見をしたときに人を轢きかける。
サングラスをかけ黒いコートをきた謎めいた女だったが、ここからカメラはこの女を追いはじめる。第二章のはじまりだが、この切り替えのカメラワークが、しゃれていてみごとだ。先の話と何らかの関係があるはずだが、ここではまだわからない。女は暗い夜道を進み、警察官に導かれて建物に入っていく。厳しい顔立ちの男たちを前にして、銃を構えるが、人質を取っているので必要ないと言われている。
人質の安全を伝え、交換に大きなダイヤを手にして、用意されたヘリコプターに乗って、操縦士を銃で脅しながら去っていった。女は戻って変装した姿をもとに戻した。男がいてダイヤを受け取っている。警察だけでなくFBIもいたと言うので、顔見知りだったと言うことだ。ヘアピースとハイヒールで、ブロンドの長身の女に化けていて、犯行中はひとこともしゃべらなかった。
男は宝石商(アーサー・アダムソン)だった。霊媒師が探そうとしているのが、この男ではないかという直感が働くが、その後の話の展開は込み入っている。息子を探す手がかりは、名家の運転手だったが、すでに死んでいた。
恋人がその運転手に娘がいるのを聞きつけてくる。養子に出すとき父親が車で運び込んだのだろう、いくらか事情を知っていて、里親となった家のことを話すが、火事を出して一家は滅んだのだと言う。
恋人はタクシー運転手をしていたが、俳優志望で探偵業にも興味があり、深入りをしていく。墓を探しあてると、二基あって夫婦の墓と、息子(エドワード・シューブリッジ)の墓が別々に並んでいた。これで金儲けの話は途絶えたと思った。
ともに銘文には1950年死亡となっているが、息子のほうは新しい墓石だった。なぜなのだろうと不思議に思って、石材店を訪ねる。記録が残っていて、古い墓のことがわかるが、新しい墓についても覚えていて、評判の悪い男からの注文だった。
両親を殺して息子は姿を消したのだという噂も聞き出した。役場に死亡記録を調べに行くと、子どもの死亡は遺体がなく、証明書が出なかったことがわかる。死亡証明はなくても墓はつくれるようだ。申請を出した男の住所と氏名(ジョセフ・マロニー)が残っていたので、さらに追跡調査をする。
今はガソリンスタンドを営んでいて、ガソリンの減っていない車でやってきた男に、怪しみながら接している。息子の名をあげて知っているかと聞いてきた。自分は弁護士だと言い、調査協力に報酬もちらつかせた。
ガソリンスタンドの男は、息子の犯罪の片棒をかついでいた。火をつけて里親を殺害して逃げたが、息子も火災で死んだことにした。男は捜査の手がまわっているのだと恐れて、ながらく会っていなかったが息子を訪ねる。息子はただの宝石商だけではなく、悪党で誘拐犯でもあった。これまでも身代金にかえて、宝石を増やしてきた。
犯罪に手を貸したことから、何度もせびりに来ており、共犯の訪問は歓迎されていなかった。息子は両親を閉じ込めただけで、火をつけたのは共犯のほうだったと釈明しているが、たがいに持ちつ持たれつの関係にある。ガソリンスタンドの男は殺害をほのめかすが、宝石商は自分に任せてくれと引き取った。
ガソリンスタンドで車のナンバーがメモされていた。車の持ち主は女霊媒師だった。宝石商は住まいを見つけ、タクシー運転手と恋愛関係にあり、自分を探していることを知る。手がかりをなくした二人が、次に目をつけたのは、息子が生まれたときに洗礼を施した司祭(ウッド)だった。話を聞こうと教会に乗り込むと、宝石商が一歩早く手を回していた。
司祭を誘拐して連れ去ってしまう。女との共謀は鮮やかだ。セレモニーの最中だった。女が倒れ込んだのを司祭が起こそうとしたとき、僧服を着た宝石商が駆け寄り、司祭にすばやく注射針を刺す。両脇をかかえて司祭が運び去られるのを、信者たちは何が起こったのかと呆然と眺めていた。
麻酔剤を使った手口は、先の犯行と同じで、監禁したのは邸宅の地下にある隠し部屋だった。防音で何日も閉じ込められる。共犯も動きはじめる。電話を入れて、探している男の情報を提供すると言って、離れたカフェを指定してくる。二人で行くが、いつまでたっても男は姿を見せない。
諦めて帰ると車のブレーキが効かなくなっていた。暴走する場面がながらく続き、助手席で大慌てをする女の姿は、ドタバタ喜劇の様相を呈している。事故に見せかけようと、細工がされていたようで、死にかけるが何とか難を逃れる。
男が姿を現して、平気な顔をして、遅れたことを詫びている。生き延びたことを確かめると、今度は轢き殺そうとするが、交わした途端に対抗車が来て、避けきれずに谷底に落ちて炎上した。事故に見せかけようとしたほうが、事故死をしてしまったのである。
男の死亡が報道されると、宝石商は笑いを浮かべていた。葬式には家族思いだった、生前の美談が語られている。妻は参列者のなかに弁護士の姿を認めると、逃げるように出ていくが、追いかけて問い詰める。夫を殺したと言って怒りをぶつけている。ことの真相を伝えると、女は宝石商の名を明かした。
タクシー会社の欠勤が続き、恋人が出ていくと、霊媒師は単独で宝石商を探す。電話帳から一軒一軒を訪ねるが、姓名と年齢が一致する家には、なかなか辿り着かない。電話帳には名前についてはイニシャルしか出ていないことも多く手間取った。暮れかけた頃に宝石店に行き着くが、女性店員しかいなかった。住所を聞き出して、自宅へと向かう。
自宅では拉致した司祭を使った、大きな仕事に出かける直前だった。この時間にぶつかるように、ガレージで霊媒師と、顔を合わせることになる。遺産が相続されることを告げると、これまで自分を探していたのは、この理由だったのだと知ることになる。
このとき後部座席のドアが開き、眠らされていた司祭が、死んだように転がり出る。目撃されたことで、霊媒師に身の危険が迫る。注射をされて眠らされて、隠し部屋に監禁され、宝石商と女は車を急がせた。恋人が遅れてやってきて霊媒師を見つける。
二人は申し合わせて、宝石商が宝石を手に入れて帰ってきたとき、タイミングよく入れ替わりに、犯人二人を隠し部屋に閉じ込めてしまう。安堵した霊媒師は放心状態になって、階段をあがりシャンデリアを指差している。指先には大きなダイヤが紛れ込んでいた。
霊媒能力はホンモノだったようだ。これで大金持ちになれたと思ったが、恋人は犯人逮捕と宝石発見を警察に電話連絡していた。霊媒師もさわやかな笑みを浮かべて、映画は終わった。たぶん依頼主への報告は、見つけ出した墓に眠る、息子のことまでになるのだろう。それでも報酬はおそらく手にするはずだ。
* 画像は「ヒッチコックの1000フレーム」参照