名護嘉陽層の褶曲

名護市嘉陽層の褶曲

種別:地質

指定年月日:(底仁屋の褶曲平成4年11月1日/市指定、国指定に伴い指定解除)平成24年9月19日

所在地:天仁屋前原825番22・ほか

底仁屋の褶曲

名護市嘉陽層の摺曲

現在の日本列島の骨格は、3億年ほど前からの海洋プレートの沈み込みに伴う地層の付加作用により形成されてきたことが明らかになってきた。サンゴ礁に縁取られた沖縄地域も例外ではなく中生代三畳紀以降、おおむね西側から東側に向かって次々と堆積物が付加されて成長してきたことがわかってきた。こうして付加された堆積物のうち一番新しいものが沖縄本島の東海岸に分布している。

名護市天仁屋からバン崎にかけての海岸には、今から4000万年ほど前の新生代古第三紀始新世という時期に付加された嘉陽層と呼ばれる地層が典型的に分布する。 嘉陽層は、当時の海溝付近の深海に堆積したタービダイトと呼ばれる砂岩と泥岩の互層からなる地層が、プレートの沈み込みに伴い次々と陸側に付け加わった付加体の地層を主体とする。嘉陽層の中には、地層のさまざまな堆積構造、海底地滑りによる地層、沈み込むプレートの圧力により形成された逆断層、ことに地層の摺曲現象が典型的に発達する。逆断層、摺曲軸面ともに北西方向に傾いたものが卓越する。 砂岩層の堆積構造としては、平行葉理を主体とするが、砂岩層上部にクライミングリップルを伴う場合もある。厚い砂岩層の最上部には、泥岩層の同時礫(rip-up clast)を含む場合もある。また、砂岩層の下部には、砂岩層堆積時の荷重による下位の泥岩の注入構造もみられる場合がある。 また、泥岩を基質とし、砂岩層の礫を含む乱雑な構造を示す海底土石流と考えられる堆積物が、下位の砂岩泥岩互層を削り込んで堆積している様子も観察できる。 砂岩泥岩互層にみられる摺曲構造の波長は、互層する砂岩層が厚いほど大きくなる傾向があり、20センチメートル以下の厚さで砂岩層と泥岩層が繰り返すような場合は、教科書的な摺曲が発達する。ことにバン崎周辺では見事である。また、よく観察すると摺曲から逆断層に移行するような構造も普通にみられるし、摺曲に伴う砂岩層の伸長や引きちぎれが起こっていることが確認できる。 また、比較的厚さの薄い砂岩層の下底面には、深海に棲息する底生動物によって形成されたと考えられる生痕化石がしばしば観察される。中でも、蜂の巣状模様のPaleodictyon、規則的蛇行を繰り返すHelminthoidaやCosmorhaphe、そして同心円状のSpirorhapheなどが代表的であり、いずれも水深2000メートルを越える深海底の環境を示すものとされている。 嘉陽層の地質年代を直接的に示すデータはないが、礫岩層に含まれる、前期始新世を示す有孔虫化石を、嘉陽層堆積時の浅海域からの流入したものと考えて、5000~4000万年前と推定される。 嘉陽層の地層は、地質学の基本的な現象である摺曲構造が見事に発達するほか、砂岩層の堆積作用を示すさまざまな構造、嘉陽層が堆積した深海底の環境を示す生痕化石、さらには、プレートの沈み込みにより付加された堆積物から形成された日本列島の成り立ちを示すさまざまな現象が保存されており、極めて重要である。(『月刊文化財』第588号 平成24年9月号 文化庁文化財部監修・第一法規株式会社)