医療の実情を社会へ正しく伝えるには

1998.01 東京都医師会雑誌 大橋 克洋

「健保改訂は医療費への大きな抑制効果をあげた」と新聞は大々的に書きます。「受診者激減で医療機関の経営も大変だ」などとは一言も触れません。「看護婦は激務なのに給与が低い」と書いても、医師はカスミでも食って生きていると思っているのでしょう。

しかし、こんなことを仲間内でぼやいてみても何も好転しません。「そうではないんだ。医療の現場はこうなんだ」ということを社会にもっと伝えるべきと考え、わたしは患者さんとの対話にそれとなく医療の実情を折り込んでいます。素直に話せばよく理解してくれます。「疑心暗鬼」は情報の少なさから起こります。

医師会のような団体として一般社会に訴えようとすると、マスコミを通さざるをえません。しかし、マスコミは口では「社会の公器」などと言いつつ、「収益事業」としての自分達の理屈、すなわち「会社の方針」で動きます。

インターネットと情報開示

コンピュータ先進国だけあって、米国では「マル秘」の親分であったはずの軍関係、FBI, CIA などが大量の情報をどんどん公開しています。

「情報公開」が、デメリットを補って余りあることを確信するからに違いありません。「情報開示を求める社会」にいち早く対応し、さらにそれを逆手にとるだけのしたたかさもあります。

インターネットの情報は産地直送です。誰でも情報を発信し、誰でも直接読むことができます。途中で色眼鏡がかかることもありません。まさに「これからは情報を公開した方が勝ち」です。

清濁合わせて何でも通す情報の流通経路

いわゆるHな情報を規制すべき、という意見があります。それはそれで妥当ですが、「いや、待てよ」と、「清濁合わせ何でも通す情報の流通経路こそが大切なのではないか」という考えもあります。それをどう利用するかは利用者側の責任であって、情報の流通経路を規制するのは間違いという気がします。

インターネットは、コンピュータの研究者達の間で昔から利用され、彼らのボランテイア精神と自由な発想でここまで発達してきました。彼らはインターネットへの規制は大反対です。

見せたい情報より、利用者が見たい情報を

医療の現場の声をホームページで伝える場合、発信者の自己満足だけを公開しても意味はありません。便利で有用だからこそ多くの人が見てくれ、信頼もしてくれるのだと思います。そのような中で、それとなく医療の実情を広報することこそ上手なホームページの利用法と思います。

米国でも、発信情報は選別されているはずですが「それを感じさせず何でもどんどん公開している」ように見えます。暗証番号で会員にしか見せないページを作るのは私は反対です。ただでさえ「医療は閉鎖的」と見られているのに、その印象を確たるものにするだけですから。

場合によっては内部的な情報でさえ、公開してしまうだけの度量を持つことにより、本当の広報効果が上がります。会員だけの情報交換には、電子メールによる「メーリング・リスト」などの手法を使うべきです。「ホームページは完全にオープンで、利用者にとって便利なものにすべき」が私の意見で、このようにして「国民の健康」と「われわれ自身の生活」を守りたいものです。