1988.11 ワークステーション環境をより良く

わーくすてーしょんのあるくらし (23)

1988-11 大橋克洋

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わたしのところでは、現在SUNー3が2台イーサネットでつながっており 合計280Mの外部記憶を持っているが、システムだけでかなりの容量を喰っ てしまうので、安価で大容量ハードデイスクが欲しいと前から何度もここに書 いてきた。最初は片方のSUNをデイスクレスで使っていたのだが、やはり何 かと不便で、こちらにも140MのHDを接続して使うようになった。

といってもその140Mが丸々使えるようになった訳ではなく、スワップエ リアだとか何だとか大きくとらなければならないし、やはりOSもそれぞれに 搭載した方が便利ということで、たいしてユーザエリアが増えることにはなら なかった。新しいSUN OSはオブジェクトがかなり小さくなるようで、こ れに載せ換えればデイスクの空きもかなり出来るのではないかと考えているが、 どうせそれ位のエリアは確保できてもすぐに一杯になるに決まっている。

○ 念願かなったHD拡張

ということで、安価で大容量HDの手に入る日の来るの首を長くして待って いたのだが、念願かなってこの程ようやく増設することが出来た。裸の300 MのHDを友人が手に入れて来て、自分で増設してくれた。見ていると必要箇 所のケーブルをちょいとひっこぬいて新しいものに差し換えるだけで、ストリー マの増設ならびにインストールを含め30分もかからず簡単に終わってしまっ た。彼も本職のハード屋さんではなく、内科医院を開業しているお医者さんで ある。

これを本来のSUNのハコに収めることもできないではなかったが、ちょっ と細工が必要なので別のハコを買ってきて収めてくれ、カサが大きくなり見て くれはスマートでない面もあるが、何せ実用性が第一と十分満足している。

○ 放熱効果

ケーブルを通す穴を開けるのを省略して前面のストリーマ用めくら蓋をはず し、そこからフラットケーブルを引き出しているので、ぶざまと言えばぶざま だが、放熱効果は良いはずである。

そう言えば今から20年以上前、トヨタのパブリカという空冷2気筒の車に 乗っていたことがある。これはまさにシンプル・イズ・ベストというヤツで、 今でも大変名車であったと思っているが、冬になるとフロントのラジエータ (おっと、空冷だからラジエータはないんだっけ)の前にダンボールでフタを して走ったことを思い出した。エンジンが冷え過ぎて咳こんでしまうのである。 SUNの話にもどるが、床から近い位置に大きな穴を開けたままというのも ホコリが入るので、いずれホコリよけの簡単なフィルター位は手製で付けてや らねばなるまい。

○ 大きいことは良いことだ

df(デイスクの空きを調べるコマンド)をやってみると、今まで使用状況 98%などという状態に慣れてきた目には、5%だとか8%だとかいう表示が 出ると何か変な感じがする。

うさぎ小屋に慣れた人間が急に大邸宅を与えられ、自由に使っていいよと言 われて当惑するような気持ちだが、人間なんてものはゼイタクであるから、そ の内すぐに慣れて、これでも狭いと文句をいうことになるのだろう。 考えるに、最近SONYから発売されたMOデイスク(読み書き可能の光磁 気デイスク)などというもっと安価で大容量のメデイアが出現して来たので、 この300MのHDを有難たがる期間も意外と短く、1年位かなとも思ってい るが、それでも今回のHD増設はおおいに意義あることで、この世界は待って いてはきりがない。早くより良い環境を実現した方が勝ちである。

○ NeXT

Appleをウオズニアックとともに創設し、その後Appleを追い出さ れることになったジョブスが開発していたNeXTの詳細が発表になった。 うわさの段階では、それ程魅力も感じなかったのだが、発表されたスペック を見ると大変エキサイテイングなマシーンで、実現されたものの殆んどは、こ んな機能があったら良いのになあと日頃から思っているものばかりである。私 の理想は、UNIXのようなOSの上でMacのようなユーザインターフェー スを使いたいということで、3年前に大枚はたいてSUNを買おうと決心した のもこのためだった。

しかし、現状のSUNはようやく日本語環境が使えるものになったとはいえ、 残念ながらMacのHyperCardのようなものは実現されていない。そ ういう点ではSONYのpopNEWSには今後期待している。ところでNe XTであるが、まず感心するのは、ハードウエアの技術的なものよりも、マシー ンそのもののコンセプトとそれを短期間のうちに実現してしまったことである。 日本からこのようなオリジナルの製品が出現するのにあと何年かかるのだろう か。

○ 自動車にたとえれば

日本の自動車産業は、ヒルマン、ルノー、オースチンなど外国車を自社で製 作する形で盛んになったが、今や日本の車のオリジナリテイーは世界をリード する面も多くなった。

私のところは子供が5人と家族が多く(自分が産科医なので、種まきから刈 り入れまで自給自足の結果である)、セダンでは全員を乗せ移動できない。そ こで10年程前から8人乗りワゴンのタウンエースを利用してきた。しかし、 最近は上の子供も大学に入り、家族全員で移動することも少なくなったので、 これを下取りにして普通のセダンに買い換えることになり、結局私の好きなH ONDAの車であるコンチェルトを購入した。

10年ほどの間の国産車の進歩には目を見張るばかりである。何から何まで 電動で、バッテリーが上がったらどうしようと思うのだが、ということはバッ テリーが上がることはないということかなとも思っている。パブリカや初代ブ ルーバードSSSの頃は車の下にもぐり、サスペンションをチューンアップし たり、エンジンルームの中をあれやこれやといじったりしたのだが、HOND Aのエンジンルームはまさにぴっかぴかのメカのかたまりがびっしりと美しく つめこまれていて、ああこれは手を出すもんじゃないと思ってしまった。

○ コンピュータ文化

大分トシの判る話をしてしまった。コンピュータの世界もいずれ同じ道をた どって、日本の製品が世界をリードすることになるのを期待しているが、現在 は車に例えればどのあたりだろうか、もうヒルマンやルノーの時代は過ぎ、パ ブリカの時代も過ぎつつあるのか、、、 ウーン、しかしTRONが動きだす まではOSを始めソフトウエアに関するかぎり、まだヒルマン、ルノーの時代 だなあ。日本の車がこれだけの位置を占めたのは、日本の車文化が西欧に追い ついたということであり、一方NeXTはまさに、米国のコンピュータ文化を そのまま実現しているマシーンであろう。

コンピュータに関して日本と米国の大きな差は、技術の差ではなくコンピュー タ文化の差で、これを最も如実に表して来たのがMacの世界である。 うわっつらだけをまねしたものは日本でも見受けられるようになった。まね をするならオリジナルを越えるものであって欲しいと思うのだが、残念ながら 美しいと思うものは一つもない。これも文化の差から来るものであろうと思う と悔しくもある現状の環境の中で、私は私なりのコンピュータ文化を築いて行 きたい。

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