2013.04 風に吹かれて

わーくすてーしょんのあるくらし ( 242)

2013-4 大橋 克洋

◯ BGM

診察室の BGM 装置が壊れたので新しくアンプを購入し、音源として iPod を使った話を以前書きました。HD を積んだ初代 iPod は1ヶ月もせずあっけなく壊れ、2代目として娘から譲り受けた古い iPod mini を使っていたのですが、Apple からこのシリアル・ナンバーの iPod は電池から発火することがあるので交換サービスを行うとのメールが届きました。早速交換に出すことにしましたが新品到着まで6週間ほどかかるとのこと。

音楽がないと寂しいという職員の声で自宅引き出しの中を漁ったところ外出時に使っていた四角い金属クリップ状、史上最小の iPod シャッフルが出て来ました。こいつは機能を最小限に絞ったもので、イアフォーン用の穴が充電用と兼用のため使用時はアンプに接続し診療を終えると充電という手間はあります。

新しい iPod mini が戻ってくるまで iPod シャッフルでしのいでいますが、まったく問題ありませんね。考えてみると凄いこと。私が診療所に BGM を流し始めたのは開業してすぐですから1970年頃でしょうか、医療機関で BGM の走りと思います。ある日 3M の営業さんが訪問してきて購入しました。一抱えもある大きくて立派な輸入品のテープデッキで、カセットもレコードジャケット位の面積で厚手のプラスチック製のものでした。たった3cm角のちっぽけな金属クリップが、あの頃の機械よりずっと多くの曲をいとも楽々とこなしています。当時これを見たら宇宙人が作った異次元の装置と思うでしょうね、、

◯ わが家の老犬

元気に家中を走り回ったりソファに飛び乗っていたわが家の犬も17歳、昨年あたりから完全にボケ老人となってきました。廊下の真ん中で仁王立ちになったまま、いつまでも考えこんでいたり、横向きに部屋の入口を塞ぐような寝方をしたりします。耳も目もかなり機能低下。人一倍怖がりな犬なのに、このような自然界でも危険な寝方をするのはどうしてですかね。ヨーロッパの旅番組で、店の入口を塞ぐように寝ている老犬をどけもせず、そっと上を跨いでお客が店に入っている光景を見ました。動物愛護の精神も流石ですが、動物も歳をとるとあのような寝方をするようになるのはどうしてなんでしょうね。

4,5年前でしょうか、うちの犬の歯の先が折れているのを娘が見つけました。何故だろうと話していたのですが、数日後てんかん発作を起こすことがわかりました。私の父は戌年で犬が大好き、私が小学校に上る前から何代にもわたり犬を飼ってきましたが、犬のてんかんは初めて。Web で調べてみると最近は犬のてんかんが珍しいものではないことがわかりました。考えてみれば代々の飼い犬で一番長生きしたのでも11年、昔はご飯に味噌汁をかけたようなものを食べさせていましたし、フィラリアその他で亡くなっていたためなのでしょう。人生50年と云われた人間の寿命が延びるとともに犬の寿命も延び、以前見られなかった老化による疾病が犬にも珍しくなくなったということ。

その後、喘息発作のようなものがしばらく続いたりしましたが、最近は抗てんかん剤も功を奏し疾病の方は落ち着いて、家内と娘が毎日散歩に連れて行っています。雑種ですがとても姿が良いので色々な人から声をかけられるようです。最近は、おぼつかない足取りから老犬と判るのでしょう「頑張ってね」と声を掛けられることが多くなったそうです。

◯ 劇的な電撃結婚

今朝 Facebook を見ていたらこんなのが紹介されていました。

結婚のご報告。30年彼女がいなかった僕が、秒速で結婚できた理由

事実は小説より奇なりと云いますが、こんなドラマチックなこともあるんですね。30年間彼女がいなかった彼がエイプリールフールの日 Web 上に、本気で花嫁募集の記事を発表したところ予想外に14名もの応募。その中のお一人と両者の勤務先の社長まで巻き込み会社の会議室でサプライズ・プロポーズ。彼女から「武士に二言はありません」との快諾を得て、その場で婚姻届に両社長の署名をもらい初めてのデートは直ちに区役所への届出。

初めは半信半疑だった社長も、その本気さというか潔さというかノリに圧倒され大声援。会議室でのインタビューを装ったプロポーズの場から、全社員に結婚報告。あっけにとられる社員たちも我に返り大声援というまことに出来過ぎた話ですが、どうも本当のことのようです。彼女の「九州を出て上京した時も他の企業の内定を辞退し入社した時も、自分の選んだ道が正解だったのかと考えるよりも、自分の選んだ道を正解にするにはどうすればいいかを考えてきました」という人生観もとても良いですね。武士の娘の潔さを感じます。

以下は彼女の同僚による裏側からのブログ

弊社にて軌跡が起きた件 〜秒速で結婚できた理由〜

「人生にはノリが必要」と思うものですが、プロポーズの行われた彼女の勤務先の雰囲気もとてもノリのある職場のようでした。もちろん彼の会社も同様に違いありません。

ノリと云えば先日行われた各国対抗フィギュアスケート、鈴木明子のノリノリの快走に比べ浅田真央の顔の冴えないのがとても気になりました。それでもさすがの真央、点数の方はそう悪くありませんでしたが、試合終了後の会見で来冬のソチ・オリンピックを最後に引退をほのめかしたそうです。デビュー当時あれだけ安定した滑りを見せ、その後もノリノリの演技を見せてくれたのですが、長いスランプにめげてしまったのかなあと残念。まだ若いのだから、今年中にもっとしぶとい気持ちを獲得してくれると良いのですが、、

< 2013.03 数息観 | 2013.05 ファッションかアートか >

早朝の目黒川沿い桜のトンネル

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◯ 風に吹かれて

今年初めから先月までの淡いブルーな気分は、春の訪れとともにほぼ消えてゆきました。70歳という節目に生ずる軽いウツ症状だったのだろうと思います。まだ時にふっと不安感のようなものがよぎることもありますが、その時は先日も書いたように、不安感の去来をあるがままに受け入れ右から左へ流れてゆくにまかせるのです「あるがまま」の精神ですね。風に吹かれても逆らうことなく、そよそよとなびく吹流しのように、、

精神的なものだけでなく、いつの間にか肩に力が入っていたりすることがあるのに気が付きます。このような時は自然体で力を抜いてやればよい。これに気づかず長時間を経ると「何だか知らないけど肩が凝ったなあ、何でだろう」ということになるわけですね。普段の生活の中で、ふっと去来する楽しくない思いも、たんぽぽの綿毛のように風に吹かれて飛んでゆくにまかせる、知らず知らず嫌なことを心に残してしまうから気分もブルーになる、、ということを理解しました。

人生の中で色々なもの、あらゆるものが、やって来て、また去ってゆく、、

◯ 今月の歩術

先月も書いたことですが、もう少し詳細に述べると「前足を足裏全体でなるべく衝撃少なく着地、体重移動しつつ足底で踏みしめる大地の感触を十分あじわう」というような意念で右・左と足を出しながら歩く練習をしています。中国武術の心意六合拳の鶏行歩という歩き方で「前足は毒虫を踏み潰すように踏みしめる」という意念がありますが、なるほど、このようなことを云っているのだなと、、

昨日も東京産婦人科医会の常務理事会に向かう途中の電車の中で「ちょっとまだ早すぎるな、時間調整のため歩くか」ということで途中下車し溜池山王から市ヶ谷まで 3km ほど歩きました。この意念で歩いてみたのですが、思わぬ効果を発見しました。履いていた靴は足の甲がちょっと窮屈めで「歩くうちに足の甲がきっと痛くなるぞ」と思っていたのですが、気がついてみると全然大丈夫。すなわちこの意念で歩くと足の甲が屈曲しないのです。長年トレーニングしてきた「平起平落」つまり「後足を水平に抜き、前足を水平に降ろす」がほぼ完全にできているということ。

帰りも短距離ですが、その感触を試しながら歩いてみました。なーるほど、踝から爪先にかけては、ほとんど力が入らず歩いています。操り人形の足が踝だけで歩いているようなもの。無理な力が入らないので当然疲れも違います。よーし、この意念が無意識に身につくよう続けてみよう、、

月末の日曜日の早朝から、第2京浜を下り多摩川大橋を渡って川崎側の河川敷を歩き、丸子橋を渡って中原街道を帰ってくるコースを歩いてみました。多摩川の河川敷は少年野球の花盛り、川崎市の月例マラソン大会のテントもありました。なるほど毎月マラソン大会をやっているんですね。家を出る時はまだうすら寒く薄手長袖スポーツシャツ姿でしたが、帰りは袖まくりしてもやや汗ばむほど。18km ちょっとで予想より早く帰着しそうなので、中原街道から住宅地へ入り東京工大の方へ大回りをして丁度 20km ほど歩いて来ました。

今朝の新聞を見てびっくり、ウクレレ漫才「あーやんなっちゃった」で有名な牧伸二がそれから24時間もしないうちに多摩川大橋から身を投げて亡くなったそうです。

◯ 今月の脳トレ

電子カルテ NOA の ML はここのところ、シーンと静まり返っています。長年の経験則から「便りのないのは良い知らせ」「きっと皆さんそれなりに安定して使えているのだろう」と思っていたところへ久し振りに K 先生からリクエスト。丁度私もそれに近い機能を付加したばかり。K 先生のリクエストはその機能をさらに汎用性を高めれば良いだけ。早速そのようなツールを追加してリリースしました。

NOA では新規ページを追加すると、前回の記述が透けて見えるようになっています。これにより毎回同じことを書かなくて済むわけですが、数年振りにみえた方の場合は古い記述が不要で記述欄ごとに消していました。これは考えてみれば面倒。そこで、「必要な欄のみ残し不要な欄すべてを一発で空欄にする」機能をつけましたが、K先生のリクエストによりコントロールしたい欄を自分なりに設定できるよう拡張した次第。

話は変わりますが今年5月に開催される恒例の Seagaia meeting も今年を最後にひとまず閉幕と決まりました。私も「非構造データの取扱い」というセッションで話すことになりました。NOA では検査センターから送られた HL7 フォーマットの検査結果を、より簡潔な NOA フォーマットでカルテ内に収納してきました。この辺りの仕組みを話そうと思っています。MedXML の ML における非構造データについてのディスカッションの中で、愛媛の小林先生から HTML5 のマイクロデータを教わりました。私も昨年から NOA の色々な部分を HTML5 で実装してきましたが、恥ずかしながらマイクロデータというのは知りませんでした。

そこで早速 Web site を漁りながら勉強。おー、なるほど HTML のタグの中に属性を埋め込んでセマンティックな処理をできるようにするわけね。そこで「まてよ」と、思いついたことを ML に投げました。以下はそのメールから、、

小林先生に教えて頂いた HTML5 のマイクロデータについて読んでいます。

読んでいるうち「医療データは今までのように DB 構造に合わせるのではなく、セマンティックに解釈できるタグをつけたテキストとして取り扱い、それをダーッと一気に読んで解釈してしまう方式の方がこれからは良いかも」と思うようになりました。

メモリーや CPU 速度制限のある時代ではなくなったので、平文を一気に読んで解釈する方が早いし、はるかに柔軟な取り扱いが可能になります。

これで電子カルテも一気に変わる可能性があるなあ、、

◯ そして

そろそろ「外観のシェイプアップはこの位にして、性能のチューンアップを」ということもあり、上記の実現を考えてみました。現在使っているデータベース MySQL もかなりパフォーマンスは上がっているのですが NOA が重装備になるとともに重くなってきました。そこで DB に頼らない方法を模索しようとしたのですが、つらつら考えるに DB にまったく頼らないのはやはり得策ではない。特に全カルテの串刺し検索などは DB の独壇場。

そこで、カルテデータは従来通り DB に格納し、一気に読み込みメモリー上にオブジェクトとして展開、それを自在に料理するのが効率良かろうという結論に至りました。iPad に至るまで最近のマシーンは動画など従来から考えれば途方も無く嵩張るデータを楽々とこなすので、電子カルテのテキストデータを一気にメモリー上に展開しても何の問題もないはず。とりあえず一度に保持するのは、基本的に一人分のカルテということにして、、

で、その新しいバージョンと格闘中。いつものことで最初は簡潔な仕組みでスコン・スコン小気味良く動いていたものが、すべての機能を実装してくるとそうでもなくなってくる。動作を鈍らせる部分をいかに削って行くかがこれからの課題。しかし、こういうのと格闘するのが一番面白いんですよねえ、、

その新しいバージョンをテスト・モードで1週間ほど使ってみました。うーむ、動作は早くなったものの、どうも他の不具合が取り切れません。やはり DB のしがらみによるもの。格闘にも疲れたので元のバージョンに戻し、また構想を練り直すかなと。しかし、それに伴い色々と細かいところの改良ができたので徒労ではなかった。

◯ 呑兵衛のはなし

このエッセイを長年書いてきましたが、考えてみると一度も書いたことのない事柄が結構ありそうです。私のお酒好きについては書いたことがありませんね。そもそも両親ともお酒は弱い方ではなかったので遺伝と云えます。両親も私もお酒に呑まれる方ではなく楽しむ方。アルコール好きの人間には2種類あると思っています「雰囲気が好きな人」と「お酒そのものが好きな人」。前者はクラブなどで女性に囲まれるのが好きなタイプと思いますが、私は付き合いで行くことはあっても自分から行こうとは思いません。行くなら独り縄のれんをかき分けカウンターで美味しい突き出しを肴にぬる燗の日本酒をちびりちびり。お酒そのものが好きなのです。

外出先で独り昼飯を食べる時はビアホール、夕方の時間調整には喫茶店ではなく居酒屋、まだ時間が余るようなら喫茶店でコーヒーというような具合。もちろん周辺を歩いて時間調整というのもアリ。私は呑んでも色に出ない方なので、会議前の時間調整を居酒屋ですることもあります。自分では判らないつもりでもきっと喋りや目の動きなどからバレているのかも知れませんね、誰にも指摘されたことはありませんが。毎日晩酌は欠かせません。最近は缶ビール1本か、日本酒1合程度(時に両方)にとどめています。

初めての秋田角館の馬術部合宿。騎兵あがり酒好きの教官に合宿初日から「落馬祝いだ」と夕食の卓にデーンと置かれた一升瓶を前に呑んだのが人生初めてのアルコール、18歳でした。その後も馬を借りる農家でドブロクの味を教わったりと刷り込みをされたせいか、一番好きなのは日本酒。最近は冷酒ばかりで燗酒が少なくなりましたが、美味しい日本酒をぬる燗で呑むのは至福のひととき。四畳半の小さなコタツ、雪見障子からは降積もる雪景色、美味しい肴でちびりちびり小さな酒盃を傾けるのが理想ですね。まだその夢は実現していません。私の好きな剣客商売でも、主人公の秋山小兵衛が美味しそうに杯を傾けています。

これは日々の生活で感じたことを書きとどめる私の備忘録です