1989.01 ヘルプ ミー

わーくすてーしょんのあるくらし (25)

1989-01 大橋克洋

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○ ヘルプが大事

新しいアプリケーションを手に入れると、当然のことながら使い方を会得す るまでに結構苦労する。最近は市販のアプリケーションは殆ど購入せず、もっ ぱらGNUのようなUNIX上で動くPDS(パブリック・ドメイン・ソフト ウエア)を使うことが多いが、これらには簡単な説明がREADMEなどとい う名前のテキストファイルで付いてくる。

インストールするまでは、いやでもこれらを読まなけらばならないが、何と かソフトが立ち上ってしまうと元々英語には堪能でないせいもあって、それ以 上詳しいマニュアルを読む気がなくなり、とにかく動かしてしまえということ になる。そうして行きづまったところでヘルプを求めれば、直ちにその場に応 じた適切なヘルプ・メッセージが欲しい。

○ ソフトは類推で使えるべし

理想を言えば、ソフトは「こうやれば、こうなるかな」と類推で操作すれば 思う結果が得られるべきであろうと思う。この点で良くできているのが、Ma cなどのアイコンによる操作で、鉛筆、消しゴムなどは誰に教わる必要もなく 用途が直感的に理解できる。しかし全てのソフトをこのような形で実現するの はまだ難しいし、類推だけで動いているうちは良いのだが、途中でどうしても マニュアルを読まなければならない立場に追い込まれることは必ずある。

UNIXの場合、アプリケーション中からオンライン・マニュアルとして読 めるようになっている場合が結構多いのだが、これも実際にはアプリケーショ ン毎にやり方が違い、使い慣れないとなかなか思うようにいかない。 いつも例に挙げるEmacsなどのマニュアルは良くできているのだが、こ れでさえも慣れないと知りたい情報がなかなか出てこなくて、途中で「ええい、 クソ」と思ってしまったりする。

○ オンライン・マニュアルをもっと使いやすく

Macの如くユーザインターフェースを統一し、一つのアプリケーションを 使えるようになれば他のアプリケーションへも比較的容易に移行できるように なるという考えは、まさにマトを得ている。

オンライン・マニュアルなどにもスタンダードな方式が現れてくれるとエン ドユーザにとっては非常に有難たいことであろうし、メーカーにとってもユー ザサポートへの労力を大幅に軽減できるはずだ。これもMacのHyperC ardなどを使えば、直感的に実にわかりやすいマニュアルを実現できる。

○ 切り口は皆同じに

TRONで有名な坂村先生が提唱されるように、パソコンも自動車のように 最初一定の教習は必要だが、覚えてしまえばどこのメーカーの車に乗ろうとア クセルやブレーキの位置は統一されていて誰でも運転できるべきだという考え 方には大賛成である。

これと同時に、10年前BASICしか走らないパソコンを使っていた頃か ら考えていたことがある。すなわち、コンピュータと周辺機器とを接続するた めの切り口は絶対に統一するべきで、オーデイオの世界のように、アンプはど こ、スピーカーはどこと色々なメーカーの製品を集めて自分の好み、あるいは 用途に合ったシステムを自由に組めるべきということだが、ようやくUNIX が広まることにより、日本のメーカー側にもこのような姿勢が現れつつあるこ とは大変嬉しいことである。

ちなみに、私の所のパソコンシステムでは、EPSONのPCー98互換機 本体、NECのデイスプレイ、アスキーの親指シフトキーボード、関東電子の ハードデイスク、プリントアウトはCANONのレーザーショットなどという 組み合わせを気分により組み合わせて使ったりしているが、ちょっと前には夢 のようなことだった。

SUNワークステーションの方にもこのような比較的安価で手に入り安いペ リフェラルが簡単に付くようになって欲しいとかねがね思っているが、最近は 東芝、富士通、ゼロックスと色々な所もSUNを扱い始めたので、サードパー テイーがこのような対応をしてくれる可能性が強くなってきたことに期待して いる。

○ パソコン通信とネットワーク

私がパソコン通信を初めて行ったのは、昭和58年頃だったろうか、晴海の ビジネスショーあたりで実験的にホストを置き、電話回線で自由にアクセスで きるようにしたことがあった。

手順も通信ソフトを使うような高級なものではなく、今やクラシックな音響 カプラーとPCー98のターミナルモードを使って接続しただけだったが、自 宅のパソコン画面に会場案内の文字データが出現した時には「わー、遠くのコ ンピュータの出力を自宅に居て見られるんだー」と、いたく感激した。それか ら数か月も経たないうちに、雑誌でComComというBBSが始まったこと を知り、早速入会した。

ところが、ホストへ電話をかけメールやニュースを読み書きしていると、す ぐに30分や1時間はかかってしまうし、まして回線が混んでいる時間帯など では何度もリトライしなければならないと来ているので、とても時間を喰われ て仕方がない。

それからまた半年も経たぬうちに、友人との間でUUCPを繋ぐことに成功 し、やがて、UNIXによるネットワークであるJUNETにも繋がるように なると、メールやニュースも電話回線はオフラインのままワークステーション の中で自由に読み書きできるようになった。

このため電話代や回線の混雑を気にする必要もなく、仕事の合い間に、こま ぎれの時間を使ってワープロやテキストエデイターでニュースやメールを書け るので、仕事で中断しても何も気にすることは全くなくなった。電話回線のオ ンラインで繋がっていると思うと、メールを書いたりするのにえらくあせって しまうのは私だけではあるまい。

○ パソコン通信はすべてゲートウエイで接続されるべし

最近パソコン通信は会費を払うばかりで、さっぱりアクセスしなくなってし まったのだが、数あるパソコン通信の中には有用な情報も沢山あり、決して捨 てたものではない。

そこで、「全てのパソコン通信はゲトーウエイを介して接続されるべき」だ と思う。現在、JUNETは日本国中に張りめぐらされ、日本のどこに居よう とも皆で共通の情報にアクセスできる。パソコン通信でも北海道から九州のB BSへアクセスすることは可能だが、JUNETのようにどこそこ大学のだれ それからどこそこ株式会社のだれそれへと、複数のツリー構造同志でのやりと りを柔軟にできる訳ではないし、自分の所属しないネットとは通信できない。 どこか一つのパソコン通信かネットワークに所属さえすれば、JUNETのよ うに相手のアドレスを書くことにより日本国中どこのネットに属する相手とで も通信できるようにするべきである。

すなわち、私の場合ならjuice(前に紹介したUNIXのパーソナルネッ トワークでJUNETのサブセット版)からJUNETを介して、ASCII や日経MIXなどのネットと通信したいという訳である。 ただ、商業ベースのものでは、このように複数にゲートウエイされたネット ワークのユーザに対し、どのように課金したら良いかという問題が起こって来 ると思うが、この辺は何とかうまい方法で解決をはかって欲しい。いずれにせ よ、今後の世の中は必ず何らかの形でこのような情報共有化の方向へ進んでい くのは間違いない。

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