1988.08 ワークステーションと文書作成機能 (1)

わーくすてーしょんのあるくらし (20)

1988-08 大橋克洋

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ワークステーションの使い勝手はその上で使えるツール類の有無や、その機 能の善し悪しで大きく違ってくるが、本格的 OA として使う場合、良好な文書 作成機能は欠かせないもののひとつである。

● SUN 上で動くワープロ

この間も JUNET(電話回線でつながれた UNIX マシーンによる全国規模の ネットワーク)の news で「仕事で大量のドキュメントを作成しなければなら ないが、誰か Sun の上で動くワープロを知りませんか」というのが流れてい て、これに対して何人かがレスポンスを返していたが、現状では Sun 上で走 る本格的ワープロといえるものはないようで、DTP 用のソフトや日本語の使え るエデイターが推奨されていた。

DTP ソフトも良いがかなり高価なので、現状ではエデイターを使っている場 合が多く、私のところも日本語対応 Emacs を使っていて、これが Sun の上で ドキュメントを作るには現在最もポピュラーな方法ではないかと思われる。

● 大切な漢字変換キーの使い勝手

漢字 FEP としては日本語組込みの Sun OS である JNIX を用いているが、 これは漢字変換のたびに手をファンクションキーに延ばさなければいけないの がイヤで、PDS で流れていた簡易ワープロを使っている。

こちらは、漢字へ変換するにはコントロール J、カナへ変換するにはエス ケープ Kを押す方式で、キーボードから指を離すことなくブラインドタッチで 変換できる。次候補の選択はスペースバー、リターンキーで確定というあたり は一太郎と同様である。ただし新規登録の場合だけは、一応 JNIX を用いて漢 字を画面に出し、範囲を指定しておいてその範囲の熟語をエスケープ Jで熟語 辞書に登録する。

どうしても JNIX が使いたくないというなら、PC-98 を RS-232C と MS- DOS上の通信ソフト、あるいはイーサネットと Telnet などで Sun に接続して 端末とし、Emacs を起動して、その中で ATOK その他の FEP を利用して漢字 入力や熟語登録という手もある。

● 利口なワープロは馴染んだ辞書から

この簡易ワープロは Lisp で書かれていて、Emacs に組み込んで使うもので ある。PDS で流れてきた時は辞書がほとんどカラッポで、しばらくのうちは文 章を書くというより辞書登録の連続という状況だったが、それにめげずに使い 込むうちに最近はかなりお利口になってきて、ちょっとした原稿書きにも十分 耐えるようになってきた。

JNIX の現在のバージョンでは、熟語登録には専用ウインドウを開いて熟語 登録ツールを使わなければならず、前述のファンクションキーもさることなが ら、これは非常に不便で結局やむを得ない場合しか辞書登録をする気になれな い。

これに対して現在使っている PDS のものでは、その場で随時登録ができる のでありがたい。あえて難点をあげるなら、日本語モードとアルファベット モードとの切替えにやや待たされることであろうか。これにはコントロール Rをトグル式に用いる。

● 熟語辞書を直接編集

もうひとつ便利なのは、熟語辞書は Emacs の中の裏ファイルとして働いて いて、その構造は

かんじ 感じ 幹事 漢字

ただし、熟語変換の際プログラムは頭からこの辞書をなめていくので、後ろ の方に登録された辞書を見つける際一呼吸またされることがあり、一瞬でも待 たされると文句を言うせっかち人間には不適当かも知れない。

その構造上、登録辞書が大きくなると変換スピードがかなり遅くなるのでは ないかと心配していたが、まあまあ実用レベルで動いており、まだ当分大丈夫 そうだ。

● ワープロかテキストエデイターか

普段、文章を作るのにワープロを使うかエデイタを使うかについては時々と りあげられるテーマである。

私は現状ではエデイタ派ということだが、原稿を本当に早くなめらかに書こ うとすればやはりオアシス(富士通のワープロ)を選びたい。親指シフトは抜 群に使いやすいからである。

入力のみに関してはそういうことだが、こうしてエデイタで原稿を書くよう になってみると、エデイタ特有の豊富な機能が利用でき、この環境もまんざら ではない。

まあ、いずれはワープロもエデイタもお互いの良いところを取り入れて同じ ような方向へ向かってくるのだろうが、現状では私も文書作成についてワープ ロ派からエデイタ派に傾きつつあるという次第。

● 作成した文章のアウトプット

ワープロの役目は、入力機能もさることながら、文字や行の間隔、罫線、網 かけなど、種々さまざまな出力をサポートすることのようであるが、この簡易 ワープロはあくまでも入力だけしかサポートしない。

元来 UNIX は ATT で開発され、初期のころから ATT 社内の文書処理に多く 使われたということで、本来そのあたりの機能は色々もっているが、日本の ワープロとは発想がまったく異なると言ってもいい。

UNIX の nroff などは、文章中に出力コマンドを埋め込んでおいて、プリン ターに出力すると奇麗に文字そろえがされて出てくる。慣れないと元の文章を 読んでもどのようなフォーマットで出てくるのかわからないし、文章に埋め込 むコマンドを覚えなければ使えないので、決して素人向けとは言えない。 以前はこれを日本語化した jroff で診断書など定型文書を書くのに便利を していたが、残念ながら現在 Sun の上で動く jfoff を持っていないので使っ ていない。

● 文字修飾よりアウトラインフォントを

私はワープロの入力には興味があるが、あの罫線だとか拡大文字など、文字 修飾はまず使わないし、興味もない。あのようなものを使ってもちっとも美し いと思わないからだ。

ワープロを使って原稿を書くのに、苦労して原稿用紙のます目に文字をはめ こんでプリントしているのを時々みかけるが、せっかく読みやすい文字で出力 しているのに、どうもあのセンスも理解できない。原稿用紙は手書き文字だか らこそ読みやすいのであって、あそこに印字したものはます目が邪魔してちっ とも読みやすいとは思わない。

規格化社会に毒された人々の、切替のきかない思考構造を見ているような気 がする。 しかし、アウトラインフォントをサポートした日本語ポストスクリプトには 大いに興味がある。日本語もあのように美しいものが出力できるようになれば 是非使いたい。実際 Macintosh を使える欧米人がうらやましいと思う。

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