1989.10 ワークステーションとコミュニケーション

わーくすてーしょんのあるくらし (34)

1989-10 大橋克洋

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ワークステーションはネットワークに接続されているのが当たり前だから 「電子メール」や「電子ニュース」を使っているのが普通である。 更に過激に「電子メールやニュースが使えないのはワークステーションとは 呼べない!」とまでこだわってしまうほど、「わーくすてーしょんのあるくら し」にメールやニュースが切りはなせなくなっている。 朝起きて顔を洗うぐらい、毎日の暮らしに入りこんで来ているのである。

○ 電子メデイアによるコミュニケーションの特徴

メールは特定の個人宛で、ニュースは不特定多数宛という違いがあるが、基 本的にはメールもニュースも同じようなものと言ってよい。 これらには従来のメデイアになかった幾つかの特徴がある。 この電子メデイアの特徴の一つは、全く見ず知らずの人にも気軽に声をかけ られることである。町中で見ず知らずの人にいきなり声をかけたりしたら、余 程相手に警戒心を与えない人でない限り変な顔をされるのがオチだが、電子メ デイアではそんなことはない。

何せ相手は電話線を伝わったずっと遠くの方に居るのだから、殴られたり噛 みつかれたりする心配は絶対にない。たとえ変な顔をされても、こちらはそれ を知らないで済むのである。 またニュースの場合は不特定多数の人に話かけることができる。 街頭に立って、あたりかまわず話かけたりしたら、これまたおかしなヤツと 足早やに逃げられるのがオチだ。 しかし、便利なこれら電子メデイアにも問題点はある。

○ メールの言葉はキツクなりやすい

相手と意見の相違がある場合など、ともすると「電子メール」の言葉はキツ クなりやすいのが欠点である。書く方ではそんなつもりがなくても、余程気を つけた書き方をしないと、相手の胸にグサっとくることがある。 言われた方は「コンチクショー」と思うこともしばしばで、ネットワーク上 のやりとりを見ているとこのような原因によるスッタモンダがあって、それを なだめる人が居たり、第三者で見ているうちは面白いのだが、当事者となると 実にシャクにさわるものである。

従って、この気軽に話せるという利点に甘えてはいけない。電子メールにも 相手へのそれなりの気遣い、マナーというものがなければならない。 自分がそういう思いをしてから、メールやニュースを書く時は一字一句、気 をつけて書くよう努めている。 ここで意外と威力を発揮するのが、JUNETなどで使われているニコニコ マーク

:-)

である。 ご存じない方は頭を左に倒して、左側が上になるようにして見てもらいたい。 ほら、ニコニコマークになったでしょう。マークには

:-| キッパリ :-( :-< 残念 X-< ダアー :-p 舌出し :-O アングリ

など色々あって、出したい雰囲気により使い分ける。「これを一つ入れておく だけで、読み手の印象が変わってくる」とN氏が言っておられたが、本当にそ の通りである。 電子メデイアによるコミュニケーションでは、相手にウインクしたり、身振 り手振りをすることが出来ないが、このような方法で補うことができる。

○ メイルは問題提起の場、解決は実際のミーテイングで

仲間と進めている共同プロジェクトは夫々各都県にまたがった所に住む者達 で行なわれているので、その開発に関するデイスカッションの多くはメールで 行なっている。 電子メールは相手を直に呼び出さないので、深夜だろうと何時だろうと相手 の都合おかまいなしにやりとり出来るのは便利である。

しかし電子メールは万能では決してない。やはり込み入ったことになると、 メールにして送るのでは時間がかかってかなわない。 そこで、前もって問題提起や基本的デイスカッションをメールでしておき、 月に一回集まって一気に問題解決という方法が、このような場合のメール活用 法として最も実際的のようだ。

○ ノミニケーションは最高のコミュニケーション

また、JUNETのサブセット版としてやっている我々のパーソナル・ユニッ クス・ネットワーク juiceも、毎月例会を楽しみにしている連中が集まっ てくる。 この会は2時間程皆でjuiceのネットに関すること、コンピュータに関 する情報交換など色々のことを討議した後、今度は場所を変えてメシを食いな がらアルコールを傾むけながらワイワイとやり、更に残った者は南青山の夜の 町を大勢入れる喫茶店を捜してうろつき、喫茶店での三次会へとなだれ込むの がいつものパターンである。

これをノミニケーションと称するが、ノミニケーションこそ最高のコミュニ ケーションの場であるようだ。

○ ネットワーク上での共同執筆

現在開発中の「電子カルテ・システム」を来春の「医療情報学連合大会」で 発表しようと、その原稿を共同研究者と共同執筆しているが、これも勿論ネッ トワーク上のメールで行なっている。相手の書いた原稿をそのままこちらに取 り込めるので、必要箇所に加筆、訂正して送り返したりできる。 このような用途にはどうせワープロなどを使わなければならないので、大変 能率的である。

もう3,4年程前になると思うが、このようにネットワークだけを介して機 関誌を発行したことがある。全ての原稿をネットワーク上のメールだけで集め、 これにマッキントッシュのマックペイントで描いたイラストをつけて印刷し配 布した。

SF作家のアーサー・C・クラークが「2001年宇宙の旅」だったかな? いや、あれはもうかなり前の作品だからきっと違うな。ゴメンナサイ:- p

、、、を執筆するに当たり、地球の裏側に居住したまま原稿を衛星中継のコン ピュータ通信で米国に送り続けたというのは有名な話である。

○ たまったメール

このようにやりとりをしたメールや、ニュースの中の後で役に立ちそうなも のをストックしておくと、たちまちファイルが一杯になってくる。 以前はデイスク容量が少なかったので、メール類は全てプリンターで打ち出 してハードコピーとしてファイルし元ファイルは消していたのだが、最近はそ のまま電子ファイルとしてハードデイスク上に残している。このようにしてお くと、後に何かで引用したりしたい時には再利用できて便利だ。

文書の電子化の最大のメリットは、この再利用にこそあるのだから。 しかし、中にはたいしたものでないものや時間が経過すると保存する意味の 無くなるものも有り、そろそろハードデイスクの余裕も心細くなってきたこと もあり、メール類は読んだ時点で判断し、必要なもの以外はハードコピーを取っ て元は消去した方が良いようだ。

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