2016.06 体験より経験

わーくすてーしょんのあるくらし ( 280)

2016-6 大橋 克洋

京大:東京事務所から見下ろす東京駅

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◯ ブレない自信に必要なのは「体験」より「経験」

私も高校の頃までは、なかなか自分に自信がもてず、引っ込み思案で親への依存心も強い子でした。小学校の頃は級長を務めるなどそれほどでもなかったのですが、麻布中学に入ると周りにはちょっとおつにすました秀才が多く、運動でも球技や走ることが苦手で、休み時間の野球でも馬鹿にされることが多かったのがそれを助長したのでしょう。

やがて大学の馬術部に入るとともに、その状況はがらっと変わりました。廃部寸前だった馬術部で、 OB に寄付をもらいに行くと「出ると負けのお前たちに寄付なんかできるか」と断られる事が多く「何をクソ!!」という気持ちが芽生えたのです。この気持で部員たちと力を併せ、卒業間際には東日本医科学生総合体育大会で優勝を勝ち取ることができ、一般の総合大学に伍し、関東学生馬術連盟の試合にも出られるようになりました。

これを裏付ける話を読んだので、ここに書き留めておきます。「本当にブレない自信をつくるのは体験ではなく経験」という話。一見似たように思える体験と経験の違いは以下のようなものです。

体験は事実で、事実はひとつしかありません。例えば「運動会でビリになった」という事実。しかし経験はその解釈で何通りもある。例えば「自分の足が遅いから敗けたんだな」「練習不足で敗けたんだな」「他に速い子がいっぱいいたから敗けたんだな」とか「靴の紐がほどけちゃったのは運が悪かったな」とか。

自信のある人は「失敗体験の原因を考え、努力に結びつける傾向が強い」のだそうです。「もっと努力すれば勝てたかも」と、落ち込んだり自信を失うことなく、次へのモチベーションに繋げることができる。しかし逆に能力に結びつけてしまい「自分は足が遅いからどう頑張っても勝てない」、あるいは課題の難易度や運に結びつけてしまい「この結果は自分のせいじゃない。いくら頑張っても仕方がない」と、次の挑戦に結びつかない。

自信のある人のもうひとつの特徴として、成功体験の原因を「自分の能力」にあると考えることで、いつでもブレない自信となり、以後も積極的に挑戦できる。一方、成功しても「運が良かった」「環境が良かった」と考える人は、ブレない自信を身につけにくい。

つまり自分の「体験」をどう解釈し、いかに自分にとって大切な「良き経験」にするかが重要ということですね。

◯ まず身体を作らないと繊細な仕事はできない

月島の長屋の狭い間口の仕事場でやっている鍛冶屋さんのレポートを見ていて勉強になったこと。このちっちゃな仕事場で作られる刃物は、Web サイトを介し宮大工とか、ヨーロッパのバイオリン職人などからも注文がきているのだそうです。女性レポーターが鍛冶屋さんの手を触って「ん?」。皮の厚くなった無骨な手と思いきや、掌がふわふわと柔らかい。鍛冶屋さんの言葉では「手の皮が厚くなったり豆ができてゴワゴワしてしまうようでは、繊細なノミなどの刃物を作ることはできないんですよ。重いハンマーなど使うにも、いかに手に豆を作らないかに意をつくす。一見無骨な力仕事に見えても、まず身体を作らないと繊細な仕事はできないんですよ」。

宮本武蔵の「五輪の書」で、片手で大刀を扱うにはがっちり握るな。「強く握ってはならない。親指と人差指は浮かすような心持ちで。中指は締めず緩めず丁度いい力加減で。薬指と小指は締める感じで」。これを想い出しました。

なーるほどねえ、、これは歩術にも大変参考になりそう。いつも書くように目指すは「猫科の歩き」、音のしない、つまり地面と喧嘩をしない省エネのスムースな歩き。そのためにも、この職人さんの言葉は何か参考になるような気がしました。それをどう活かすかは、これから色々と試行錯誤しながら考える。

◯ バレーボール男子 世界最終予選

日本バレーボール女子は先月、粘りに粘ってリオ・オリンピック出場権を見事勝ち取りました。数日後、今度は男子の最終予選。女子の長岡・迫田・木村に対応する男子の石川・柳田・清水、かなり健闘し切れ味のよい技を見せてくれましたが、初戦ベネズエラに勝利した後は中国・ポーランド・オーストラリア・カナダと連敗し、とうとうオリンピック出場権を落としてしまいました。最終戦のフランス、初めて日本はストレート勝ちで予選を締めくくることができましたが、これも場合によっては既にオリンピックの切符を手にしたフランスの本気度の問題があったかも知れません。

全試合を見ていて、石川・柳田・清水のスピーディーな素晴らしい攻撃だけでなく、出来田・米山・栗山・傳田・富松・福澤・山内らのスパイクや小気味良いクイックも随所に見られましたし、リベロ永野・ベテラン酒井のレシーブに見られた根性、セッター深津・関田の配球、特に関田のまんべんなくバラけたうまい配球が目につきました。外国チームの強烈なサーブもしぶとく拾いラリーに結びつけています。

しかし幾つかの試合で、エース石川・柳田のサーブが相手コートを大きくオーバーしてしまうことが何度もあり、これが大きく得点を減らしたように思えました。これが無ければ何とかオリンピック出場権をとれたのではないかと思います。石川・柳田が相次いで負傷しコートから出たのも痛手ではありましたが、その代わりに入ったベテラン米山の働きはそれを充分補うもので、彼のパワフルなスパイクは素晴らしかったですし、強烈なサーブも安心して見ていられるものでした。しかし、最終でストレート勝ちしたフランス戦では、復活した柳田の強烈なサーブが相手レシーバーを吹っ飛ばす場面を何度も見られました。

女子バレーも数年前までは、今回の男子のように個々には素晴らしい技を見せてくれるのに試合結果としては惜敗ということが続きました。しかし最近の女子は終盤で点差をつけられても粘りに粘って連続得点で逆転勝利という、外国チームに敗けない安心感あるチームへと成長しました。男子も個々には女子に敗けない技を持つようになっていますので、違いはチーム力ではないかと感じました。具体的にどこがどうとは私にもわからないのですが。4年後の東京オリンピックでは、主催国ということで男子チームも出場できると思いますので、それまでに女子並みの打たれ強いチームになって欲しいと願うものです。

◯ F1 復帰のホンダが好調

2015年 F1 にマクラーレンと組んで復帰したホンダ。初年度は期待されるような成績を残せなかったが、今年は好調とのことです。昨年うまく行かなかった理由は、すべて時間に追われ、新しい部品を投入するに当たっても事前に十分な耐久テストをする余裕がまったくなかった。またパワーユニットが継ぎ接ぎだらけで、ターボを外すのに10時間もかかったりして、そこの部品だけに問題があってもパワーユニットごと交換になってしまった。1年に使用できるパワーユニットの基数がレギュレーションで5つに決まっているが、昨年は11基ものパワーユニットを使用してしまうというように、信頼性に苦しんだ。

しかし今年はレイアウトが改善され、3分の1ぐらいの時間で交換出来るようになった。モナコGPを終えた時点で、今シーズンもっともパワーユニットを使用しているのは、メルセデスとルノー。マクラーレン・ホンダは開幕戦でアロンソが大クラッシュし全損した時のみ。また昨年はパワー不足にも苦しんだが、今年は大きく改善し、メルセデスのロズベルグをアロンソが抑えきった。その他にも、制御系ソフトウエアのたゆまぬ改善など、いくつかの改善があった。

やはり何事も「信頼性」というのは非常に大事ですよね。信頼性が増し余裕のできたホンダのさらなる活躍を期待します、、と書いたのですが、今年もホンダの成績がかんばしくないというような記事も、どちらが本当なのかな、、

◯ スバルWRX STI もマン島で最速記録の快挙

スバルの米国販売子会社のスバルオブアメリカが英国のプロドライブ社と共同開発したWRX STI がマン島TTコースで最速記録を樹立したそうです。マン島といえば、かつて本田宗一郎氏がホンダを世界に送り出す舞台となったオートバイレースで有名な所。

2011年にスバルの先代WRX STI が19秒56秒というタイムで走り切り、当時の最速記録を樹立。2014年には現行モデルを投入して19分26秒と記録更新。さらにその2日後には、これを上回る19分15秒というタイムを叩き出している。

そして今年、かつてスバルとともに世界ラリー選手権を制したプロドライブ社が、車両の設計と製作を担当、スバルのモータースポーツ部門STIから技術支援を受けサスペンションやエンジンなどのセットアップを行った。プロドライブがこのタイム・アタックのため開発した WRX STI は2.0リッター水平対向4気筒エンジンの最高出力が600馬力まで引き上げられ、リア・ウイングに空気抵抗低減システムを組み込む。これにより、強いダウンフォースを必要としないストレートでは空気抵抗を下げスピードを稼ぐことができる。

その結果はなんと、前回の記録を2分近くも上回る17分35秒というラップタイムを達成。前回のタイム・アタックに使用した車両は、基本的にエンジンもエアロダイナミクスも市販車のまま、サスペンションのダンパーとスプリングを変更しただけだったいう。

ワールド・ラリーの名前を冠した WRX STI、WRC に復活しその勇姿を世界に見せつけて欲しいなあ、、

◯ ル・マン、余裕で優勝しそうだったトヨタまさかの、、

ル・マン24時間耐久レースに出場した中嶋一貴の駆るトヨタ5号車、誰よりも速く誰よりも多くの周回数を重ねていた。誰しもがポルシェをぶっちぎり余裕で優勝と思っていたが、最後の3分間にまさかのスローダウン、そしてストップ。その脇を通りすぎていったポルシェ2号車が優勝という、とても悔しい結果となりました。その後を追っていたトヨタ6号車が2位に入ることはできましたが。

今回のトヨタは常勝ポルシェのマシーンより速く燃費もよいため、1回の満タンで走行できる周回数がポルシェより多く、余裕でレースを戦えていたということですが、原因はターボチャージャーとインタークーラーを繋ぐ吸気ダクト周りの不具合によるもの。これによりターボチャージャの制御が失われたのだそうです。

優勝を目前にした最後の3分間に起こったアクシデント、勝負というものはこういうものなんですね。何とも言い難し、、

来年のル・マン、当然ポルシェもさらに性能アップしてくるはずですが、今度こそトヨタ優勝の勇姿を見てみたいものです。

◯ ついに MacOSX を macOS へ改称

毎年待望 Apple 社の開発者会議 WWDC 2016 が開催されました。以前から噂になっていたところですが、ついに Mac の OS である MacOSX が macOS へ改称になりました。その macOS 最初のバージョンは Sierra、シェラネバダ山脈からとった名前のようです。macOS のバージョン名は猫科から景勝の名称に変わって数年になりますが、これからしばらくそれを継続するのでしょう。猫科と違いその数はいくらでもありますからね。いずれは、シスコとかネバダとかフロリダとか出てくるのかな、、

私としては Jobs が Apple に復帰するとともに Mac OS から改称した MacOSX に NeXT の血脈を強く感じることができたのですが、Jobs の痕跡も次第に風化され消えていくのですね。まあ、やむを得ないこととは思いますが、個人的には寂しいことではあります。macOS への改称は、iOS、watchOS、tvOS など一連の OS 名にそろえるということです。

今秋には iOS、macOS ともに新しいバージョンがリリースされるとのこと。しかし、その内容については余り見るべきものはなく、特に私の印象に残ったのはこの OS 改称くらいしかありませんでした。成熟化とともに大きな変化がなくなっていくのは自動車その他の世界でも見られたこと。これもやむを得ないとは思うものの、Jobs の居た頃のようにドキドキ・ワクワク胸躍らせることがなくなったのは、とても残念。

そうそう、もうひとつありました。Apple が提供するようになった iOS の開発言語 Swift が iOS で扱えるようになるとか。いや、よく読むと、ちょっと違ったか。Swift のコーディングを学習できる Swift Playgrounds という iOS アプリが発表されたということのようです。以前は MacOSX の開発環境 Cocoa でバリバリ開発していた私も数年前から Web アプリになってしまい、すっかり Mac デスクトップ環境でのアプリ開発を忘れてしまいましたが、Swift については興味を持っています。iOS で扱えるようになったら、簡単なサンプル・プログラムでも書いてみたいなと、、また iOS 上でコーディングする Playgrounds のユーザ・インタフェース自体も NOA の進化の参考になりそうで、そういう面でも楽しみです。

さらに、もうひとつ。macOS に Auto Unlock 機能が搭載され、パスワードを入力するかわりに、近くにある iPhone により Mac のロックを解除できるそうです。iPhone の指紋による unlock 機能が実現された時、このコラムにそのような要望を書きましたが、ついに実現ですね。Apple 偉い。いずれは Mac のハードウエアにもパスワードを解除するためのボタンのようなものが増設されるのではないかとの噂。もしそれを実現するなら、マウスかキーボードにでしょうが、やはりマウスの側面あたりに実装するのが使いやすいかな、、

Jobs が自分の死期を悟り Apple のその後を Tim Cook へ移譲するにあたり、Cook へ伝えたことは「Jobs ならどう考えただろうなどと思うことなく、自分のやり方でやれ」とのこと。Apple から Jobs の痕跡が消えてゆくのもやむを得ないかなと。理屈としては納得していても、心情的にはなかなか名残りの失せない私の心です。

◯ MacBook シリーズの行方

今回の WWDC 関連記事の中で「今回の WWDC を見ればわかるように、これからは MacBook に期待してはいけない。Apple の向かう方向は明らかに iOS 」「Apple で利益の出ているのは、明らかに iOS ということを考えればわかる」というような意見を見ました。

私も iOS と macOS とがどんどん近づいて行くであろうことは予想しますし期待もしますが、だからと言って MacBook シリーズが無くなる方向にあるとは思っていません。それはそれで存続する意味もあるし、それが無くなっては絶対困るという人も少なからず居るはずと思っています。

かく言う私自身は最近ノートブックを持ち歩くことはなくなり iPad で十分と思うようになってきています。「私にとって唯一 iPad でできないことと言えばプログラミング」と書いてきました。もっと具体的に言えば、開発環境 Xcode が iOS で動くようになってくれると嬉しいということです。今回の WWDC で Swift 言語による開発が iOS 上でも行えるようになるということで、いずれは Xcode も iOS で動くようになることを期待しています。しかし、もしそうなっても MacBook の存在意義がなくなることはないとも思っています。

◯ Apple の Thunderbolt display がディスコンに?

Apple のサンダーボルト・デイスプレイが、在庫がなくなるとともに販売終了になるという噂があります「サードパーティから色々良いディスプレイが出ているので」というコメントが Apple からあったとか。

もし Apple がディスプレイ販売を辞めるのなら、代わりに是非お願いしたいことがあります。それは「 iMac を単なるディスプレイとしても使えるようにして欲しい」ということです。現在でも iMac を外付けディスプレイとして使うことはできるのですが、iMac の OS が生きている状態でないと画面に出力できません。つまり OS の機能で外からの出力を画面へ振り分けているのですが、そうではなく単純な外部ディスプレイとしても使えるようにして欲しいのです。

以前も筐体やデイスプレイはまだとても綺麗なのに基盤が駄目になったため廃棄せざるを得なくなった iMac や、iMac が故障し Mac mini を接続して使おうとしたところ iMac の OS が生きていないとディスプレイとして使えないことを知りガックリしたことがあります。

もしこれを実現してもらえば、Apple からのディスプレイ販売がなくなっても、古くなった iMac を外部ディスプレイとして使えるので無駄がなくなります。Apple 製のように高品質で綺麗なディスプレイは他を探してもなかなかありません。Apple さん、是非お願い!!

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