2004.05 Seagaia meeting 2004 in KYOTO

わーくすてーしょんのあるくらし (80) 

2004-5 大橋克洋

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恒例の Seagaia meeting が 、 今年は京都で開催されました。 この会については、このエッセーで初回から毎回レポートしてきました。 今回は記念すべき10回目に当たります。

10年前 mailing list で活動を開始した「電子カルテ研究会」の off line meeting と研究発表会、開発会議などを兼ねたものです。 途中から電子カルテ研究会は発展的解消を行ない、 それに代わり行政や海外からも人格をもって認められるようにということで、 (NPO)MedXML コンソーシアムが設立され、ここで運営されています。

文字通り、ずっと宮崎のリゾート地 Seagaia で開催されてきたのですが、 Seagaia の経営危機によりとうとう開催困難ということで、 吉原京大教授のお世話でこの春に新装なった京大の同窓会館 「芝蘭会館」で開催されました。

○ Seagaia meeting に先立つ プログラマーズキャンプ

Seagaia meeting に先立ち、 5月27日(木)にプログラマーズキャンプが開催されました。 これは、MedXML コンソーシアムで開発・研究を続けている 医療情報交換規約MML(Medical Markup Language) について、規格の新しい提案や実装についての諸問題の 検討などを行なうことが目的です。 大きなテーブルをはさんで大勢が座り、 プロジェクターで投影された資料をみながらデイスカッション が進められました。

今回は MML の用途をもう少し広げて使えるようにしようと いうことで宮崎医大の荒木教授から提案がありました。 MML に Query のメッセージを追加して、 相手にデータを要求できるようにしようというものです。 これが追加されますと、医事会計やオーダーのシステムとの 連携もさらに便利になります。

また、今回はじめての試みとして、デイスカッションの前に 色々な XML ネイティブのデータベース・ベンダー から夫々の XML DB の紹介がありました。 事前に各ベンターへ同じ条件が与えられ、 ベンチマーク・テストの結果も発表してもらうようになって いましたが、やはり夫々の性格が異なり同列での比較は ちょっと無理だったようです。 MML は XML の拡張規格ですので、 このような DB を使った方が効率がよいはずですが、 XML DB のメリットが大きくなるのは、 もう少し先かなという個人的な印象でした。 価格が個人で扱える範囲を超えているのも大きい障害です。

○ Seagaia meeting 第1日目

5月28日(金)の 第一日目午前中は、 MML の封筒として使うことができる国際規格「HL7 CDA の解説」、荒木教授による「MML ver.3.0/CLAIM」について 前記の改定案などがありました。

午後のセッションでは、 「ORCAはどうなる? 日医認証局はどうなる?」という テーマで、この春から日本医師会の情報担当に就任された 松原常任理事から直接お話を頂きました。

日医がこの春から植松執行部に大きく変わって、 ORCA プロジェクトへも大鉈が振り下ろされ、 場合によってはお先真っ暗なども噂されていたようです。 こんなこともあり、講演の前に松原常任理事へ 「執行部が変わって、皆さんORCAの行く末を大変心配されています。 その当たりの事情について、まだ流動的な部分もありお話にくい 部分もあるかと思いますがよろしく」とお伝えしたこともあってか、 とても明瞭なお話で「ORCA も認証局も重要度は十分認識しており、 多少やり方は変わることはあっても、 両プロジェクトとも必ず継承します」とのお答えで、 胸をホッとなでおろした方も多かったはずです。

何しろ ORCA に関しては、 長年の努力が実ってようやくしっかりした実用的システムに なりつつあるところですから、ここでひっくり返ったのでは 今までの膨大な投資がほとんど無駄になってしまいます。

また、日医で各地医師会の親となるルート認証局を 立てることは、これからの医療連携システムなどの発展の ために欠かせない部分でもあります。

松原常任理事は「ORCA はユーザにとって もっと使いやすいものになるべき」と強調されました。 私もフロアーから「機会あるごとに提案してきたが、 ORCA は医事計算エンジン部分とユーザインタフェース部分とを 奇麗に切り離して使えるようすべき。 計算エンジン開発に集中すれば、開発効率向上と経費節約ができる。 ユーザインタフェース部分をベンダーの自由競争に任せれば、 ユーザごとの事情にあった使い勝手が提供される」と提案させてもらいました。

出席していた日医総研の方から、「計算エンジンとユーザインタフェースを 切り離すには、ORCAを基本から書き直さなければならない」むね後で伺いましたが、 「ORCAもしっかりしてきたので、そろそろサラから書き直すべきでしょう」と 提案させて頂きました。 引っ越しと同じで、ソフトウエアはスクラッチから書き直すことにより、 積年のゴミがなくなって奇麗なソフトになりますし、 書き直しは1,2ヶ月もあればあらかた終わってしまうものです。

松原常任理事は講演直前に大きな鞄を持ち大汗をかいて到着されましたが、 講演終了とともにまた大汗とともに帰っていかれました。 多少時間があれば、直接お話したいこともあったのですが、 一言お礼を言う時間しかありませんでした。 東京からのトンボ返りと思いますが、 都医理事の毎日午後出勤なんてままごとのようなもので、 日医常任理事っていうのは本当に大変だなあと思いました。

[懇親会] 左から皆川和史@デジタルグローブ、吉原博幸@京大教授、 田中理恵子@MedXML事務局、鈴木斉王@宮崎大、 荒木賢二@宮崎大教授、大橋克洋

○ Seagaia meeting 第2日目 午前の部

午前はシンポジウム「電子カルテの新しいパラダイム -- 原点に立ち戻って、電子カルテのあり方を考える」です。 何と、司会の吉原先生を含め6名の演者のうち5名が PowerMac でした。シンポジストの机のうえにずらっと PowerMac が並び、白いアップル・マークがバックライト で淡くゆっくりと明滅している姿は壮観でした。

こういうセッション、是非アップル社に PR で使ってもらいたい ものですが、残念ながら今年はアップル社の人の 姿は見えませんでした。 一時アップル社は医療に力を入れていた時期があり、 何度か Seagaia meeting に参加していたのですが、 最近は医療の方へ積極的でなくなったのは非常に残念です。

医療の世界ではアップルの製品が過半数を占めて いた時代がありましたが、その後 Windows に席巻されて しまいました。ようやく MacOS X もパワフルで安定してきた ことですし、 是非アップル社も医療の世界へ戻ってきて欲しいものです。

永田啓@滋賀医科大学病院

JAVA により開発された電子カルテシステムの話ですが、 永田先生らしく GUI にこだわったなかなか私好みの 内容でした。メニューなどにユニークなアイデアもあり、 実現が期待されます。

久島昌弘@沖縄県立中部病院

新しい院内システム導入にあたり、 3社ほどのベンダーから1社を選定したという話ですが、 その審査方法が久島先生らしく大変ユニークです。

事前に各社のDBにデータ入力しておいてもらい、 審査会場で出された検索条件などに基づいて その場でプログラミングを行ない、 簡単なアプリケーションを作るというものです。 審査員がその開発環境などを見ながら評価するのですが、 結局、与えられた条件を規定時間内にクリアーできたのは1社のみで、 この会社はさらに追加の課題も難なくクリアーし、 文句なしで採用されたということです。 この辺りで、そのようなことのできる会社というとサイバーラボだな、 そういえば久島先生の病院にサイバーラボが入ったという話を 以前聞いたことがあったけと、 逆の方向から思考して思い当たった次第です。

皆川和史@デジタルグローブ

宮崎・熊本のドルフィンプロジェクトで、 診療所用として使われている ASP 型電子カルテ eDolphin の話です。このたび openDolphin と改名したそうです。 私の電子カルテ WINE 改め NOA と同じようなことですね。 電子カルテの画面のデザインもなかなかシンプルで好ましい ものです。私も機会があれば一度使ってみたいと思う電子カルテ のひとつですが、私も HOT project に関わるようになったので、 ますますその必要性がでてきました。 これも JAVA で書いたソフトウエアです。

高橋究@キワム電脳工務店

私とともに長年 WINE project で電子カルテの研究開発を してきたパートナーです。偶然、私の大学の後輩でもあります。 最近は両者のプロジェクトは独立した形になり、 それぞれに独自の進化をとげつつあります。

彼は先月、直腸癌の手術を受けたばかりですが、 早くも現場復帰です。 彼の web site では直腸癌の発見から、 検査所見、手術中の写真、摘出物、 そして自分の病室へネットワーク端末を設置し、 現場からのレポートを公開してきました。 手術の翌日、まさかと思いつつ彼の web をのぞくと、 もうレポートがアップされているのには驚きました。 私も彼と共通する性格があって、もしこのような状況になれば あっけらかんと過ごすであろうと思っていますが、 手術翌日の辛さをこらえてまで端末に向かう根性は きっとないだろうと思い、脱帽です。

この記録はおそらく世界的にも空前絶後の貴重な記録ではないでしょうか。 幸運にも自分が副院長をしている病院で手術を受けられたため、 病室にネットワーク端末を持ち込んだり、 手術中の写真を看護師さんに撮影してもらったりしています。 このような恵まれた環境は、なかなかないでしょう。

前振りが長くなりました。本題のシンポジストとしての彼のプレゼンです。 「ジャジャーン、私は直腸癌でこのたび手術を受けました」 で始まり、まず会場に大きな衝撃を与えます。 さらに両側からかじられ芯だけ残ったリンゴのような 大腸がんに浸食されたレントゲン写真、 内視鏡の写真、摘出標本、手術に先立ちトレードマークの ヒゲを全部そりおとしたスッピンの顔、人工肛門をつけた姿など、 で講演は始まりました。

本題の方は現状というよりはこれからの夢を語ってくれました。 「いつでもどこでも一生使える電子カルテ」というテーマです。 勤務医が別の病院へ行っても、 いつも使い慣れた電子カルテのテンプレートを 持って歩けば(あるいはネット越しに取り寄せれば)、 いつもと同じ環境で仕事ができて快適だよね、 という話でした。 そのため共通APIを提供できるような仕組みを MML に追加しては、という提案もありました。

この「いつでもどこでも同じカルテ」は、 このエッセーの昨年1月号にも書いているように、 まさに私も暖めて来たアイデアで、 このような考えが今後必ず実現されてゆくのでしょう。

大橋克洋@大橋産科婦人科

私の話は、「医療の世界は、施設規模、運営状況、診療科目、 ドクターの出身校や個性など複雑多岐なので、 画一された電子カルテは現場の役に立たない」 「共通のインフラへ自分の用途にあった電子カルテを接続して使うべき」 「処方箋やオーダリングなどの周辺ツールを、 プラグインあるいはASP形式として提供し、 自分の好みの電子カルテから使えるようにすべき」 「東京都医師会の HOT project の紹介」 「電子健康ノート実現のアイデア」などです。

周辺ツールの共有化は大分前から学会発表などでも提案してきたものですが、 HOT project で色々と想いをめぐらすうちに、 最近その実現方法についてかなり具体的なイメージが固まりつつあります。 これが、これからしばらく私のテーマになりそうです。

○ Seagaia meeting 第2日目 午後の部

 

○ 今回の Seagaia meeting で感じたこと

今回 Seagaia meeting に参加して痛切に感じたことがあります。

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