1998.04 衝動買いの液晶デイスプレイ

わーくすてーしょんのあるくらし (4)

1998-04 大橋克洋

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先々月号に「そろそろ液晶デイスプレイも価格が安くなったの で、来年くらいは一台入れたいと思っている。チラツキもないので 目にも良いはずである」と書きましたが、その後広告で 13.5万円 のものを見つけ半分衝動買いをしてしまいましたのでレポートしま す。

OPENSTEP で使いたいのでデジタル方式のものだとボードのドラ イバーが対応していなかったりする可能性もあり、また予算のこと もあり、多少の画質劣化は覚悟でアナログRGB方式で我慢するこ とにしました。13.8インチ、XGA 相当、DSTN 方式で、シャープの CE-LS14M というやつです。 電話注文して一週間ほどで届いたので、早速 OPENSTEP を走らせ ている DELL のマシーンのデイスプレイと交換してみました。

○ 結果やいかに

心配していた接続に関しては DOS/V マシーンなのでハード的にもまっ たく問題なく繋がり、心配していた画面も問題なく出ました。 初めて立ち上げた時、露出過度のように色飛びした画面でした が、これは調整で簡単に直りました。当然ながら、液晶の最大のメ リット省スペースについては文句なしですし軽いので、ちょっと他 の場所へ持って行くというのも今までのカラーデイスプレイのよう に腰を痛めることもありません。

DSTN なのでカーソルへの追従性が悪く、カーソルを素早く動か すと消えてしまうサブマリーン現象のあるのは予想していたことな ので許すとしましょう。しかしです、私にとっては予想しなかった しかも致命的な問題点があることがわかりました。

「画面のチラツキ」です。液晶なので画面のチラツキは殆 どないと思っていたのは甘かったようです。カーソルが追従しない くらいだからチラツキなどあるわけはないと思っていたのは、素人 の浅はかさでした。 この原稿を書くために NeXus(日本 NeXT ユー ザ会)の mailing listで正確なメカニズムを尋ねてみました。

早速ソニーの方から「アナログ接続タイプの液晶ディスプレイは RGB信号を Dot clock に近い周波数でA/D変換して、内部のmemory に蓄え、その内容を再度D/A変換してディスプレイのXY軸をドライ ブします。RGB outからdot clockが出ない現状のインターフェース では、H syncからdot clockを再生するため、元のdot clockとの間 での多少の誤差が発生します。この誤差が、1 dotの違いとなって 左右に揺れる原因となってしまいます」という返事が頂けました。 これに対処する方法はないことはないそうですが、低価格で作る 事は不可能ということでした。デジタルでもアナログのようにどの 機種とも標準的な方法で接続できるようになって欲しいものです。

○ 失敗から学んだこと

色々と調整してみたのですが、以上のような理由で特にグレーの 網目部分などが細かくチラチラするので、とても目が疲れます。秋 葉原の店頭で見ると最近の液晶はとても明るくて鮮明で、通常のデ イスプレイ顔負けという印象だったのですが、あれはデジタル接続 方式のものでないと得られないものなのでしょうか。

早速もう一度秋葉原へ行って見てきました。そんなことはないよ うです。RGB のデイスプレイでも、みじんもユラつかずに奇麗に表 示されているものがいくつもありました。やはり「液晶デイスプレ イの画質は値段に比例する」ということのようです。現状では20 万程度から上のクラスですとまあまあ、やはり40万前後のものは とても満足いく画質のようです。 失敗の原因はもうひとつあります。やはりカタログだけで値段を 見て衝動買いはイケマセン。最終的に電話でオーダは構わないので すが、その前にしっかり実物をいくつか見て確認しておく必要が欠 かせないということでしょう。

1998年は液晶デイスプレイ普及時代に入るとほぼ確信できそ うです。私の買い物はちょっと失敗でしたが、これにめげずこれか らデイスプレイを購入する場合はちょっと奮発しても液晶にすべき であろうと思います。 今回のデイスプレイは、本体は常時稼働していてもデイスプレイ にはたまにしか灯を入れないサーバ用に使うことになりました。最 初からダメモトという気持ちもあったので、これはこれで悪くはあ りません。いずれにせよ、この省スペース性は得がたいものです。

○ いつプログラミングをするか

よく皆さんから「大橋先生はいつプログラミングをしているんで すか」と尋ねられます。医師会や産婦人科医会の役員その他で私の スケジュールはぎっしりで、日程を決めるなら先に大橋の空いてい る日を聞いた方が早いと言われるくらいなものですから。

私の居るところにはどこでも、即ち診療所のデスクでも居間でも 書斎でもコンピュータがありますが、すべてネットワークで繋がっ ていますので、ちょっとまとまった時間があればどこでもプログラ ミングができます。外来の最中でも暇な時はプログラムのdebug を していたりしますので、暇な時は debug の合間に患者さんを診て いるような具合になってしまうこともあります(世の中子供を余り 産まなくなって、都会の産婦人科は20年前と比べるとまさに隔世 の感があるほどヒマです)。

その他の時間帯としては、医師会などの会合がない日の夕食後か ら就寝までがプログラミングの時間になります。なかなか虫がとれ なくて、午前3時位までやっていることも珍しくありませんでした が、昨年からこの生活パターンを変えることにしました。

眠い目をこすりながら一晩中コンピュータとにらめっこしても解 決できなかった問題が、産婦人科医会の会議に向かう電車の中で パッと解決できてしまったりします。夜中の2時、3時まで一生懸 命やっているつもりでも、集中力などというものはそう続くもので はなく、結局頭はカラまわりしている証拠です。それに年とともに 脳細胞数の減少というような問題もあります。 で、夜型から朝型に変えることにしました。夜は早めに休むこと にし、朝早く起きて1時間か可能なら2時間程の時間をプログラミ ングにあてることにしたのです。これが結構正解でした。

○ 下手な考え休むに似たり

朝やるべきことは前日の診療の合間などにメモしておき、問題点 などをピックアップして整理しておきます。これを朝の限られた時 間にやるのですが、夜中一晩粘ったグチャグチャのプログラムとは 違って、とても奇麗なプログラミングができるようになった気がし ます。まさに「下手な考え休むに似たり」で、ひとしきり考えてわ からない時は、一旦投げてしまった方が良いアイデアも浮かぼうと いうものです。前に述べた「見かけ上のムダ」と「本当のムダ」の 一例かも知れません。

暮れから正月にかけての休みは「電子カルテ」開発に没頭しまし た。なかなかこのようにまとまった時間がとれることは少ないので す。私の過去の歴史を見てもまとまってプロジェクトが進行するの は大抵5月のゴールデンウイークで、初代の電子カルテが動きはじ めたのもゴールデンウイーク明けのことでした。

世の中の優れたプログラムを見ると、非常に優れた天才がそれも 比較的短期間のうちに一気に作ってしまったものが多いことがわか ります。彼ら天才といえども、プログラムを頭のメモリー上に展開 しておいて一気に作ってしまうのが最も効率が良いということのな だろうと思います。インターバルが空くと自分の書いたソースコー ドでさえ、すぐには理解できなくなったりするからです。 「ぶつ切りプログラミング」の効用と大変矛盾するように感ずる かも知れませんが、そうではありません。全体の流れについてデザ インする時には一気呵成に書く必要があり、そのパート、パートに ついてプログラミングする場合は細切れでも良いのです。

実はこれは困ったことでもあります。本当はすべての面で「ぶつ 切りプログラミング」ができれば、もっと効率的な開発ができるは ずなのです。 オブジェクト指向は「ぶつ切りプログラミング」を大きく支援し てくれます。しかし、何ごとにも万能というものはありません。オ ブジェクト指向でこんがらがったスパゲテイー・プログラムを書く ことも容易なのです。

○ 電子カルテの開発

初代の電子カルテ WINE はテキスト・エデイターの中に組み込ん だ文字しか扱えないものでしたが、現在外来で使っているものはこ れを NEXTSTEP という OS に載せ大幅に機能アップしたものです。 私は前者を第一世代 WINE、後者を第二世代 WINE と呼んでいます が、現在は第三世代 WINE を開発しています。

日常の仕事の道具として誰にでも使えることを目的として、ある 医療関係大手のソフトウエア・ハウスと共同開発を行っており、 1998年後半には世に出したいと考えています。私自身はこれで メシを食おうというような大それた考えはないのですが、 WINE を フリーウエアとして無償配布してみてわかったことは、やはり個人 のボランテイア・ベースでは限界があるということでした。 Do it myself 精神のパワーユーザはよいのですが、通常はしっ かりしたサポートがないと仕事には使えないことがわかりました。

そのようなことで、第三世代はしっかりしたサポートつきの誰で も現場で使えるものになる予定です。もちろん商品版が沢山売れて くれれば、私も少しはお小遣いが入って嬉しいな、ということもな いではないですが、そうなっても私自身は道楽に徹したプログラミ ングを維持したいと考えています。メシの種になってしまうと、本 当に良いものは作れないと思っているからです。

このようなものは商売となると、色々な事情から理想と離れ妥協 せざるを得ない面が必ず出てくるものです。道楽であれば自分の納 得のゆくまで理想的なものを追求できます。 このように、道楽とビジネスそれぞれの良い面を生かした形で行 ければ、皆がハッピーに楽しく仕事ができるツールを世の中に提供 できるかなと考えています。 「電子カルテ」は私のライフワークですので、これからも追々触 れてゆくことになると思います。詳しいことは文末にある私の Web サイトで公開していますので御覧ください。

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