1987.03 UNIX の通信環境

わーくすてーしょんのあるくらし (3)

1987-03 大橋克洋

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○ めまぐるしい進歩

コンピュータの世界はまさに日進月歩で、 いろいろとここで書いたことがその号が発行されてみると すでに解決していたりする。

先月号では私の使っている SUN-3/50 では接続可能な外部記憶容量が足りない と書いたが、その号が編集部から送られてみると サンマイクロシステムズから SUN-3用大型ディスクドライブが発売された という記事が載っていた。 早速、伊藤忠に問い合わせてみると、 今度のドライブは SUN-3/50用ではあるが インタフェースが ESDI で私の使っているものとは異なり、 接続できないとの返事である。まったく困ったものだ。

○ ワークステーションのあるくらし

今回は私のところでWS(Work Station)をどのように使っているか、 その一端をご紹介しよう。 まず、朝、診察室のデスクに座るとデスク左側にある SUN-3 と UX-300 の端末のスイッチを入れる。

これらは夜中に約50m離れた自宅の端末から仕事でコンピュータを使うことも多く、 また先月号の「スモール UNIX マシンとネットワーク」の稿の終わりに紹介された パーソナル UNIX ユーザのための UUCP ネットワーク juice に繋がっていて、 夜中でも電話回線で情報が飛び交っているので、 UX-300 は保守の際を除き、もう2年間も電源を落としたことがない。 従来からデスクワークの殆どは UX-300 の上で行っており、 SUN が入ったので早くこちらへ移行したいのだが、 何度も書くように SUN ではまだ日本語がまともに使えないのと、 ストレージがまったく足りないので移行できないでいる。

○ デスクワークはすべて WS で

現在、電話回線は SUN に接続されていて SUN に login すると直ちにウインドーシステムが立ち上がり、 メールが来ていると「ピッ」音がしてメールボックスのアイコンに メール着信のフラッグが立つ(このフラッグは正真正銘の旗の絵である)。 大抵の場合それを横目で睨みながら UX-300 のキーを叩いては 仕事用のメインプログラムを起動させる。

UX-300 は受付事務のカウンターにある端末(中古の PC-88) につながっていて、 すでにそちらから入力された患者データを元に仕事を始める。 コンピュータの記憶のはかないことはよく承知しているので、 実際にはカルテへの手書きによる記載も併用しているが、 ほとんどの仕事は UX-300 の画面とキーボードを通して行う。

○ メールとニュース

ちょっと患者さんが途切れると SUN のメールボックスをマウスでクリックして メールを読み返事を書く。 さらに時間があれば rn (read news) でいろいろなニュースを読むが、 これは結構ボリュームがあって一息には読めないことが多く、 表示しっぱなしにしておいて診療の合間にチラチラと読むことが多い。 私のインストールした rn にはバグがあって、 日本語のニュースを読もうとすると画面にめちゃめちゃなキャラクターを表示し ブレークしてしまう。

PC-98 を端末として接続し、 CTERM で rn を使っても同じ現象が現れるので rn 自体のバグであろうが、 juice の仲間からはそのような苦情のニュースは流れていないので ここだけの問題らしい。 仕方がないので、日本語のニュースに関しては読まずにスキップしておいて、 rn を使わず直接 /usr/spool/news/* を PC-98 と CTERM で読みに行くと 大抵の場合うまく日本語で読める。

メールやニュースの便利なことは、 会合の打ち合わせやわからないことの問い合わせなどができることだろう。 キャラクターを組み合わせて表現した案内地図でも 結構用が足りるようである。 postnews では誰かがポストしたニュースを引用し、 さらにそれに対する意見を書いて再びニュースとしてポストできるので大変使いやすい。

○ パーソナルネットワーク juice

現在、日本で UNIX ネットワークとして本格的に稼働しているのは、 大学や研究機関を主体とした「JUNET」だが、 残念ながらわれわれのような個人では正式参加ができない。 そこで「エエイそれなら作ってしまえ」と、 自分たちで作ったのが「juice」というネットワークで、 これはパーソナル UNIX マシンを有するマニア達で構成され、 まさに JUNET のミニ版として運用されている。

最近はいちいち他のサイトへ remote login して手紙を読み書きする (これは結構時間を食うものである)必要がなくなり、 居ながらにして自分の端末で手紙やニュースを書いておけば、 あとはシステムが宛名を判読して勝手に相手に電話し配送してくれ、 こちらへのメールやニュースも自動的に届くのでまったくラクチンになった。

メールやニュースの配送は sendmail というプロセスが行い、 SUN の 4.2BSD のように元々システムに含まれている場合は問題ないが、 System III や XENIX を使っている PC-98 や TANDY などのマシンでは ATT のライセンスに抵触し使うことができない。 そこでメンバーの高橋究先生(彼もまた小児科医だが juice が医者の集まりであるわけでは決してない。むしろコンピュータのソフト、 ハード技術者が多い)が sendmail のサブセット版の postman という アプリケーションを自作し、 juice が本格的な UNIX パーソナルネットワークとして機能するようになった という次第である。

現在、私の SUN も sendmail をはずし、 わざわざ postman をテストランさせているが、 まったくコンパチブルに動いているようである。

○ UUCP の立ち上げ

このようにシステムがオートマチックに情報をやりとりしてくれればしめたもので ラクチンそのものなのだが、 ここまでこぎ着けるのが実際には結構大変で、 UNIX の一般化は難しいと言われるところだろう。

UUCP というのは UNIX to UNIX を略したもので、 文字通り UNIX マシーン同士を通信回線を介して接続するための仕組みである。 ソフト的なタイマーを仕掛けておいて、 時間になるとマシーンがモデムを介して相手の UNIX マシーンのモデムに電話をかけ、 両者の UUCP 同士がお話をする。 そこで相手に送るメールやニュースがあればそれを相手に送り、 相手からもらうメールやニュースがあればそれをこちらへ転送する。

これだけの簡単な仕掛けだが、 これをバケツリレー的に接続することにより、 日本国内はもちろん世界中の UNIX マシン同士が相互接続されて 自動的に情報交換されるという仕組みである。

UUCP を立ち上げるまでには色々なファイルやデバイスの設定が必要で、 ちょっとしたことがセットされていないだけでうまく動いてくれない。 このような一連の操作はシェルスクリプトとして書いて、 それをシステムの中に放してやれば 自分で勝手に UUCP の環境設定をやってくれるようにならないかと思う。

海の向こうではパブリックドメインであるかも知れないが、 UUCP をインストールするごとに自分で作ろうかと思いつつ そのままになっているものの一つである。

○ モデム

モデムも最初は 300BPS だったのが 昨年から juice では 2400BPS が主流になったこともあって、 月々の電話代も毎日何回となく結構多量の情報が飛び交っている割には たいしたことはない。 これも UUCP によるバッチ処理の利点の一つである。

UUCP と並んでモデムの自動受信やオートダイアルアップには、 いつも苦労する。国産 UNIX マシンも大分それらしくなってきたようだが、 つい最近まではマシン自体がシリアル回線を完全にコントロールできなかったり、 一流メーカーの技術部門でさえオートダイアルアップによる UUCP の経験がなくて対応できなかったりで大変苦労した。

モデム自体にもそれぞれ癖があって、 それを探り出し手慣づけるまでが結構大変なことが多いようであるが、 このあたりモデムの方がどんどんお利口になってきているので 近いうちに解消されるだろう。

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