2006.02 日本は「スポーツ立国」をめざせ

わーくすてーしょんのあるくらし (156)

2006-2 大橋克洋

まだ朝早い時刻の電車に、 年配の男女の方々がハイキング姿で乗ってこられるのを最近よく見ます。 「40代から60代の登山」が花盛りなのだそうです。 私自身がそうであるように、 最近とみに この年代の健康志向が高くなっています。

それ以前の世代は家の手伝い、それ以後は塾通いで忙しくなりましたが、 この年代は終戦後に子供時代を過ごし、家の近所の焼け跡で遊び回っていた年代です。 そのため筋肉や骨格が、しっかり発達しているのだそうです (見た目では わからない範囲でしょうけれど)。

心配なのはそれ以後の世代で、 この世代のように元気で長生きはできないだろうとのことです。 最近の子供たちは、 さらに体力・精神力、いろいろな面で低下していることが確実でしょう。

○ 日本は「スポーツ立国」をめざせ

韓国は「映画などの芸術立国(というのでしょうか)」をめざし、 それなりに成功していると思います。 最近の韓流の盛り上がりが、それを証明しています。 徴兵制もその善し悪しは別として、 韓国の若者を肉体的・精神的に鍛える効果は大きいでしょう。 これでは、どう考えても日本の社会が負けてしまうのは明らかです。

そこで、これからの日本はどうあるべきかについて、最近「強く思う」ことがあります。 日本は、絶対に「スポーツ立国をめざすべき」です。これにより、

    1. これからの日本を築く子供達の基礎体力作り

    2. 健全な精神の育成

    3. グループ活動などによる協調性の育成

    4. 老年へ向けては介護予防

のように、現代の日本に存在する数々の問題をクリアすることができます。 「健全な肉体に健全な精神が宿る」と言われるように、 もっと「明るく成長性に満ちた日本」へ導くことができるはずと確信するものです。

勉強については「勉強の仕方を教える」にとどめる程度でよいでしょう。 スポーツで鍛えられ体力・気力のある人間は、 自分で必要と思うようになれば放っておいても自分で勉強するものです。 自分の意思でする勉強ほどパワーのあるものはありません。

私の大学時代は、学生運動の吹き荒れた時代でした。 あの頃思ったことですが、火炎瓶を投げて暴れる学生の多くは文科系学生で、 体育会系には少なかったように思います。 基本的にやっていることは体育会系と変わることなく、 要するに精力のはけぐちをどこに持って行くかの違いだけに思えました。 大学当局は学生運動にさんざん手を焼いていましたが、 「学生をもっと体育会系へ誘導すればよいのに」と、 (体育会系)学生の私はさかんに思ったものです。

○ トリノ冬期オリンピック

今回のオリンピックは残念ながら、余り観戦できませんでした。 それにしても、これだけ日本がメダルのとれないオリンピックというのも、 最近珍しいですね。 前回の夏季オリンピックで、 余りにも日本が連勝したことによるマスメディアからのプレッシャーや、 多少の油断もあったのかな、などと思っています。

ハーフパイプは、 プレッシャーなど無関係に見える「(ひと昔の表現をすれば)新人類」ばかりで 期待していたのですが、一人も入賞できなかったのは意外でした。 それにしても女子ハーフパイプで、 米国選手の競技を終えノリノリの姿は良かったですね。ああでなくちゃ、、、 日本選手に感じたのは、高さやノリノリ度が大きく違うということでした。 スタートする姿までは「やってくれるかな?」と思うのですが、 パイプにドロップ・インするとどうしても萎縮してしまうようです。

スノーボードクロスは、私としては大変楽しめる競技でした。 馬術部出身でオフロードバイク大好き人間としては 当然のことですが。 最近はこのような米国的なものが、随分オリンピック種目に加わってきましたね。 女子フィギュアーには今回の冬期オリンピック開始前から 大きく期待していましたが、 あまりにも続く日本の不振に「これは期待してはいけないな」と思うようになりました。

女子フィギュアーのフリーの試合の前日のことです。 商店街の大型電気店の店先の大型液晶TVに映っていた 荒川選手の練習風景を見て、ちょっと感動しました。 非常に身体が柔らかく安定し、スムースに滑走していたのです。 まさに、私が最近凝っている中国武術の極意 「放鬆(ファンソン:全身の力を抜いて人間の持つ自然な力を最大限発揮する)」 に通ずるものを感じました。

それでも連日の日本選手の成績から、期待することはやめていました。 しかしどうでしょう。翌日の報道を見ると「荒川静香選手、金メダル!!」ではありませんか。 前日の練習風景から思ったのですが、 このオリンピックの大舞台という人生の中のほんの一瞬のタイミングへ向けて、 心身ともにベストな状態へ持って行けたということは凄い事です。 本人やサポートメンバーの並々ならぬ努力と、 彼女へ幸運の女神の微笑みの結果だろうと思いました。

安定度ということから言えば、 私としてはむしろ村主章枝選手に期待していました。 ショートプログラムの VTR はまだ見ていないので 村主選手がショートプログラムで大きなミスをしたかどうか知らないのですが、 フリーの演技をノーミスで完璧にこなした村主が4位で、 2度もコケたサーシャ・コーエンが3位というのは 私としては非常に解せないものがありました。 ちなみに地元イタリアでは、村主選手は開始前からもの凄い人気だったそうです。

ベテラン、スルツカヤにもまさかの転倒がありましたが、 氷上の女王としての美しい笑顔を終止絶やさず動揺することなく演技を終えました。 演技終了後の表情を見ていても失敗に悔いる表情はまったくなく、 さすが人生の大きなトラブルや難病と戦いながら、 これだけの厳しい座を守れる人だなと思ったものです。

そうそう、安藤美姫選手にも拍手です。 4回転ジャンプのリスクを十分理解しながら、 この大舞台で果敢に4回転に挑戦し見事コケました。 その後のジャンプで何度もコケましたが、 めげることなく挑戦した姿に感動です。 この際失敗しても構いません、ジャンプに挑戦しない安藤なんて価値がありません。 4年後には、荒川・村主・スルツカヤのような精神力・しぶとさを期待しましょう。

今回は少ししか観戦できませんでしたが、このように大きな感動を得ながら、 荻原兄弟達が活躍した頃を懐かしく思いつつ、 とうとう今年の冬季オリンピックも終わってしまいました。

○ いつも自分本位のマスメディア

インターネットが新聞社、出版社、雑誌社の事業を利用して来たことに対し、 これら既存のメディアが連合し 「検索エンジンに対価を支払え」と要求する動きがあるそうです。 確かに Google News が許可なく写真や記事を掲載していることに対しては、 その要求も妥当と思われますが、全体の動きとしてはどうなんでしょう。

いつもけしからんと思ってきたことは、 新聞社などが取材にきても、まず絶対に原稿料や取材料を支払うことはありません。 「他人の情報や成果を元に自分は商売しているのに、 正当な対価を払わない新聞社ってのは何だろう」とつねづね考えてきました。 「自分がちゃんとやらない者に限って他人を非難する」という、 世の中の嫌な法則の見本のようなものですね。

「わかりました。あなた方の言うことは誠にごもっとも。 それじゃあ、新聞社も取材先へ情報提供料を払うようにしてください」となったら、 どうなんでしょう。新聞社は青くなるに違いありません。 今回の話は「目クソ、鼻クソを笑う」ようなものですね。

それよりも、もっと重要なことがあります。 Google のような検索エンジンが発達したからこそ、 世の中の人達は極めて便利で快適な生活、仕事をすることができている面が大きいのです。 今ではどんなものでも、まず web の検索エンジンで探せばみつかることが殆どです。 百科事典とは比較にならない広い分野を深くカバーしています。 このような、かつてなかった機能を抑制する動きだけは無しにして欲しいものです。

もうひとつ、インターネットが実現した、かつてなかったものは、 人為的なフィルターをかけることなく、あらゆる情報が自由に誰の手にも 流れる仕組みです。これが東西の壁を壊し冷戦を終了させた一因にもなったでしょうし、 ある面での公正化に果たす役割は極めて大きいと思います。 つまりインターネットは基本的に「清濁合わせてのむ」スタンスであるべきです。

清濁をどう受け入れるかは受け手の責任であって、 「汚いものを流したからけしからん」の意見は インターネットでは無しと考えるべきです。 嫌なら見なければよいだけなのですから。 これにより、今まで「汚い」と思われていたものが、 実際には極めて「奇麗」なものであったことがわかるかも知れないのです。 もちろん、その逆もあります。

○ 3年振りに本格的プログラミング

今月はじめから「ほっとライン」で使える付加価値サービス第一弾 「Web処方箋」の試験運用がはじまり、実際に外来診療で使っています。 これは東京都医師会の「ほっとライン」へ登録さえすれば無料で使えるサービスで、 インターネットに接続した web browser で利用できるものです。

私の電子カルテ NOA の脇に web browser を立ち上げ、 そこで処方箋を発行しています。 テスト版なので、まだユーザインタフェースが未熟ですが、 肝心の薬剤 DB 周りや処方箋の出力周りはよくできています。 使い勝手がいまいちなので、最初は能率が悪かったのですが、 毎日使っているとそれなりに慣れてくるものですね。 結構便利に感ずるようになりました。

今月初旬、ほっとラインのサーバ類の大々的な引越しに伴う大幅な改良工事があり、 4、5日 web 処方箋が使えないことがありました。その間、 結構不便な思いをしました、、、ということは、結構便利だったと言うことでもあります。 添付書類を気軽に見られるので従来使わなかった薬剤を気軽に使えますし、 配合禁忌などのチェックがかかるのも便利です。 約束処方の登録が増えてくると、さらに便利になってきます。

しかし、テストバージョンでユーザインタフェースがこなれず、 使い勝手が良くないので、せめてレイアウト・サンプルを作り、 これを開発者に参考にしてもらうことにしました。

ということで、久しぶりに WebObjects プログラミングを始めました。 まったく久しぶりなので開発環境の Xcode からして使い方を忘れてしまった部分もあり、 その他 Java や WebObjects のリファレンス・マニュアルを開きっぱなしで、 web application 開発に手を染めた次第です。

やっているうちに、結構面白さにはまってしまい、 気がついてみると開発をはじめてもう1ヶ月になろうとしています。 サンプルのレイアウトだけ作るつもりだったところがイレこんでしまい、 そこそこ実用に使えるところまで作り込んでしまいそうです。 このエッセイの更新がしばらく止まっていたのも、 こんな事情によるものです。 昔から開発に没頭していると、 メールのレスポンスなどがグンと悪くなることがよくありました。

そこで、ハタと気がついたのですが、 「一応復活したとは言え、以前ほどの開発パワー回復は無理だな」 と思っていたプログラミング・パワーが、9割方もどったようです。 これも筋トレ・ダイエットのお陰でしょうね。高脂血症の解消や運動による 脳循環の改善によるものでしょう。還暦すぎても結構プログラミングが いけそうだという嬉しい発見です。 筋トレ・ダイエットしてから3年にして、ようやく回復してきたようです。 この調子で、しばらく「頭の筋トレ」も続けるとしましょう。

○ はじめての金沢

今月中旬の連休の2日間、 以前から日本医師会の IT問題検討委員会でご一緒の石川県医師会の小森理事のお招きで、 石川県医師会館で「HOTプロジェクト」の講演をさせて頂くことになりました。 小森先生には、何とお知り合いになる前から この「わーくすてーしょんのあるくらし」をお読み頂いているそうです。

(雪の苦労をあまりしていない)東京育ちの私としては雪が大好きです。 学生時代、馬術部合宿で通いつめた秋田の角館で雪を堪能しましたが、 今回も雪景色を見られるのがちょっと楽しみでした。 例年にない大雪で北陸地方は大変のようです。 飛行機で小松空港経由の方が早いのですが、 万一雪で予定変更があってはということで、 往復とも陸路で切符の手配をしました。 通販でみつけた北欧製の凍結でも滑らない靴を履いて行ったのですが、 到着した日の金沢市内に雪は見られませんでした。

トンボ帰りのつもりだったのですが、 小森先生から前の晩にご一緒したいので前日から是非どうぞとのお誘いで、 お言葉に甘えさせて頂きました。 前夜は奥様もご一緒で、生きの良い魚や地元の日本酒など、 とても美味しくいただかせて頂きました。

「私は居酒屋のような気楽なところが好きなので」と申し上げておいたところ、 「ではそのような所を」とご用意頂いた小料理屋の二階の床の間には、 色鮮やかな暖簾風のものが掛けてありました。 生まれて初めて見たのですが、 金沢では婚家先(?)の入口に掛けておき、 これをくぐって嫁入りする縁起物なのだそうです。 あとで家内に写真をみせると「加賀友禅でしょう」ということでした。 これは若女将さんの嫁入時のものとうかがいました。

到着日、全日空ホテルから見下ろす雪のない金沢駅

翌日、雪の降りしきる金沢駅

翌日は待望の(?)雪になり、金沢の繁華街をぶらぶらすることはできませんでしたが、 帰りの列車を待つ間の駅ビル内の賑やかな店がまえなどを見ても、 期待通り加賀藩の伝統を感じさせる「品の良いカラフルさ」が、 金沢の印象として私の心に強く残りました。

観光旅行とは違い、 ゆっくり市内をぶらつく時間はありませんでしたが、 いずれまた家内とプライベートで訪れたいと思っています。 小森先生ご夫妻、本当にありがとうございました。 本日の石川県医師会総会で、小森先生が石川県医師会長に選出されているはずです。 おめでとうございます。

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