1998.08 私のマシーンのデスクトップ

わーくすてーしょんのあるくらし (8)

1998-08 大橋克洋

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今回は私のコンピュータ環境についてご紹介しましょう。 診療デスクの左側には17インチのカラー・デイスプレイがあります。 本体は DELL 製のいわゆる DOS/V マシーンで、机の下 にあり殆ど目立ちません(おそらく来年頃は Mac の G3 マシーン にグレードアップしているでしょう)、OS は NEXTSTEP です。

NEXTSTEP は今ではもう一世代前の OS で、現在は OPENSTEP の 時代です。Apple 社ではこれがさらに進化した Rhapsody の開発が着々と進められているようで、来年リリースされる McOS X (エックスではなくテンと発音)には Rhapsody が融合されている模様です。 仕事場でまだ NEXTSTEP を使っている理由は、受付で動いている NeXTCubeも OPENSTEP に対応させる必要があるのですが、さすがに これで OPENSTEP を動かすと、ものすごく遅くて実用的でないからです。

この NeXTCube は NeXT コンピュータの発表に当たって来日した Steve Jobs のプレゼンテーションを見て、「電子カルテにはこれしかない!」 と決断し、その帰りにゼロワンショップへ寄ってオーダーしたマシーンです。 この秋で10年目に入りますが、まったく問題なく受付で元気に働いています (やはり NeXT社のハードウエアはすばらしかった)。

余談ですが 、Apple 社は最近コロコロ言うことが変わるので 困るという話もあります。しかし、私は大様に受け止めることにしています。 大体の場合が、良い方向を取り入れようとしての転換のようですから。 暫定 CEO(いつまで暫定?)である Apple社の創設者 Steve Jobs は元々コロコロ言うことが変わる人ですから、 もう私はちっとも驚きません(クソミソに言っていたIBM や MicroSoft と突然手を組んだりするとか)。

4年ほど前、私は日本 NeXT ユーザ会の代表者として サンフランシスコで彼と握手をし、彼の好意でその後 NeXT 本社の中を 見学させてもらったことがあります。私を含め NeXT ユーザ会の仲間は NeXT 本社の正面玄関へ続く砂利道を歩きながら「この同じ石を Jobs も踏んだんだよなあ」と感慨深げでした。本社と言っても、 別荘地のような新緑の木立の中に立つ気持ちの良い建物(2階建てだったかな)で、 裏側はヨットハーバーになっているようでした。

乾燥して透明な空気と美しい緑、明るい光が印象的で、 私の好きな蓼科高原の白樺林を想いださせました(私の部屋には SUZUKI EIZIN という人の描く米国西海岸の風景がかかっています。 この人の絵はまさにこのような雰囲気を表していて大好きな絵のひとつです)。 私と仲の良い若いプログラマーが 「ここで働けないかなあ」とつぶやいたものです。 今月も、こんなところで道草を食ってしまいました。 では、先へ進みましょう。

○ ワークステーションは電気冷蔵庫?

朝外来に出ると、まずデイスプレイのスイッチを入れます。 基本的に、デイスプレイの電源は切っても本体の電源は落としていないので、 これですぐ使える状態になります。 よく「使わないのに夜中でも電源を入れっぱなしですか?」 と質問されます。これに対し「電気冷蔵庫の電源を夜中は落としますか?」 と答えることにしています。

NEXTSTEP は(Mach 版の OPENSTEP も)本来 UNIX ですから、 夜中の間でも e-mailを受けたり、 ハードデイスクの中の不要な文書を始末したりと 何かしら仕事をしていることが多いのです。 また、ファイルサーバとして他のマシーンから利用されたりすることもあります。 自宅のマシーンから何か仕事をしようとしても、 診察室のマシーンが眠っていては、そのデータや機能を利用できません。 10数年前 UNIX を使いはじめてからは、ずっとこのようにしています。

これに対し、同じネットワークに繋がっていても Mac などのパソコンの電源は落とします。使わない時は何もしていないからです。 カラーデイスプレイは非常に電気を食うし、 つけっ放しにすると画面の焼き付きも起こすので、 使わない時は電源を落とすようにしています。 画面の焼き付きといえば、15年ほど前に使っていた診察室の UNIX マシーンはモノクロ・デイスプレイでしたが、 いつも同じアプリケーション(電子カルテの前身)を使っていたので、 電源を切ってもうっすらと残像が残っていました。

おっと、そんなことを書いていたら、 このデイスプレイが「パチッ」というような音を立てて瞬断しました。 これはちょっとヤバイ兆候かも知れません。電源あたりがイカレてきたのかも、、、 ま、いいでしょう。 駄目になったら液晶デイスプレイに替える口実ができることですし。 本体やハードデイスクがイカれるよりは、ずっと気が楽です。

○ ワークステーションは空気清浄機?

このようにウチのマシーンの殆どは、 買ったその日からメインテナンス時以外は電源を落とすことがありません。 たまに本体を開けると、中はホコリの山となっています。 フィルターにはホコリが厚く積もって、 空気清浄機の役目も果たしていることになります。 ホコリはこのような精密機械にとってトラブルの元で、 まめに掃除するべきなのですが、 こういうことには結構モノグサな私はホコリをためてしまう方です。

幸か不幸か、20年にわたるコンピュータとのつき合いの中で、 ホコリによるトラブルは殆ど経験していないので、 この悪癖は直りそうにありません(医者にあるまじきこと)。 しかし、突然動かなくなったマシーンをあけて 中のホコリを電気掃除機で掃除し組立てなおしたら、 元通り動くようになったというのはよく聞く話です。 私のようなモノグサはお勧めできません。

私の書斎では OPENSTEP マシーンが2台 (ネットワークのサーバと開発用マシーン)、 Sun が1台(データベース・サーバ)、 それにモデムが3台(インターネット専用線、 NeXT ユーザ会の node のひとつを務める ISDN に通常のアナログ)、 Ethenet hub などがいつも電源をいれたまま微かなうなり声を響かせています。 これらも空気清浄機や暖房器具のひとつかも知れませんね (そんなことで私の書斎は他の部屋より数度は温度が高いのです)。

デイスプレイに負けず電力を食い熱を発するレーザ・プリンターが これに加わっていることもありますが、 こちらはなるべく使わない時は電源を落とすようにしています (これも、他のマシーンから利用できるようにしておくには 電源を入れておく必要がある)。 机の下でグリーンやオレンジの LED をまたたかせている Ethenet Hub は、 クリスマスツリーのイルミネーションのようでもあり結構奇麗です。

○ 私のワークステーションのデスクトップ

私のコンピュータ画面には、 右端にずらっとアプリケーションのアイコンが縦に並んでいます。 これは OPENSTEP では見慣れた風景で、 ここをアプリケーション・ドックと呼びます。 一番上は NeXT ロゴのついたアイコン。 これはワークスペースと呼ばれるファイル・ビューアです。

その次の、日めくりカレンダーのアイコンは Mac のコントロールボックスに当たるものです。 次は FAX モデムで受信した FAX を読む FaxReader。 FAX の送受信はワークステションの中でできるので、 FAXのために紙を使う頻度がずっと減りました。 プリントアウトする場合も省資源のため、 不要になった紙の裏側にプリントしています。

FAX の送受信はネットワークに接続されたどのマシーンからでもできるので、 1F の診察室で受信した FAX を自宅で読むことができるので、 とても便利です。 「FAX 画面の一部を切り取ってワープロに貼り、 コメントを付けて FAX で送り返す」という、 電子メールでよくやる手法もとれます。

更に便利な使い方は、 私の方では通常の電子メールとして文章を書き、 相手のアドレスとして FAX サーバのアドレスを入れて投函すると、 e-mail は相手に FAX として届くというものです。 つまり私の方が扱うのは全て e-mail だが、 相手への転送手段は「e-mailを受けられるものへは e-mailで」 「FAX しか受けられないものへは FAX で」と、 自動的に切り分けることができます。

このために、こちらの e-mail 転送システムにちょっと細工をして 切り分けシステムを仲介させました (新しい OS にバージョンアップしてから、 この機能は作動しなくなってしまいましたが)。 次にならんだアイコンは、 Edit と呼ばれる OPENSTEP 標準添付のテキストエデイター。 これが見かけはシンプルながら大変優れものなので、 私は文書作成にワープロは使わず、すべてこれで済ませています。

一番下のグリーンのアイコンは Mac のゴミ箱に当たるリサイクラー (初代 NeXT の頃は何でも呑み込むブラック・ホールだったが、 途中から緑色のリサイクラー・アイコンに変わった。 私の好みはブラック・ホール)。 ここまではどの NeXT ユーザも殆ど同じ景色と思いますが、 それ以外のアイコンにはユーザの好みが反映されることが多いと思います。 私の場合をご紹介しましょう。

上から MailWatcher。メールが届くと、 ポーンという音がして赤い旗を振りはじめます。 これは、メールをはじめとして色々なアプリケーションを立ち上げる ランチャー機能や、 文章を決まった文字数で折り返して右端をそろえる機能など持っていて、 私がフリーウエアで配布しているツールです。 電子カルテで診療中も、メールが届くと画面の右上で赤い旗を振っているので、 患者さんがとぎれた合間に返事を書くことができます。 返信操作や過去の送受信内容の参照など FAX よりずっと便利です。

次が住所録その他のデータベースのビューア。 スケジュール管理用アプリケーション。 妊娠週数などを計算する妊娠暦。 以下、電子カルテ WINE 関連のアイコンが並びます。 OPENSTEP 標準添付のアプリケーション以外はすべて自分で作成したものです。 「欲しいものは作ってしまえ」主義の私にとって、 OPENSTEP は何でもかなえてくれる素晴らしい開発環境を提供してくれます。 アラジンの魔法のランプのように。

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