2015.03 玄人は欲せざるに作り素人は欲して初めて作る

わーくすてーしょんのあるくらし ( 265)

2015-3 大橋 克洋

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◯ 玄人は欲せざるに作り素人は欲して初めて作る

川喜田半泥子 (1878-1963) は、日本の陶芸家・実業家・政治家。東の魯山人、西の半泥子とも称されるそうで、趣味でやっていた陶芸を当初は陶工に作らせていたものの納得が行かず、50歳を過ぎてから本格的に自分で作陶するようになったそうです。

半泥子は自分が素人であることを誇りに思っていた。 そして素人こそすぐれたものを作ることができるという信念を持っていた。 「玄人は欲せざるに作り、素人は欲して初めて作る」 。まず何かを作りたいという衝動や動機付けがあるから面白い。 だからいい物が生まれると信じた。 自らの心が欲したものを作ろうとしたときこそ 表現されたものが生き生きとするという考え方。 芸術の世界に生きた先達達の中にも 仕事を持ちながら素晴らしい作品を残した人は多い。

この言葉に非常に共鳴しました。私の電子カルテ NOA がまさにその通りと思ってきたからです。私の電子カルテを WINE と呼んでいた頃から商品化の話があり、大手の業者さんからの要望で協同プロジェクトとして進めたことも何度かありました。結局それらは実現しませんでしたが、その後も自分のライフワークとして電子カルテ開発を続けてきました。そのうち「商品化すれば、販売戦略上どうしても妥協せざるを得なくなることも多々起こる。自分の道楽としてやるなら、自分がベストと思うものにこだわったもの作りができる」ということで、商品化の色気はまったくなくなりました。「本当に良い電子カルテを作るには道楽に限る」と思っているのですが、これがまさに半泥子の貫いたこと。

半泥子の作った陶器を手に入れることは困難ですが、電子カルテ NOA はオープンソースで提供しており、誰でも無償で、居ながらにして手に入れることができます。

◯ Apple 社の新製品発表イベント

Apple 社は3月10日の発表会で、遂に iWatch のリリースを発表しました。おっと違った、iWatch ではなく Apple Watch でした。日本でも4月から手に入るそうです。アルミ筐体の Apple Watch Sport、ステンレス筐体の Apple Watch、ゴールド筐体の Apple Watch Edition の3種類。もっとも安い Sport が 42,800 円から、通常の Watch が 66,000 円から、そして Edition は何と 1,280,00 から。Edition は IT 機器というより、完全に宝飾品の位置付けですね。Jobs が居てもこれはアリだったのかも。

腕に時計がまとわりつくのが嫌いで、もう20年ほど腕時計をしない主義の私。前に書いたように Apple Watch を身につけようという気は、とりあえずありません。

しかし、毎朝のウオーキングの測定機器として、また今後どんどん進化するであろうウエアラブルな健康測定機器としての Apple Watch には、いずれ気をそそられるのかも知れません。

時計のベルトには、ありとあらゆる材質・デザインのものが用意されており、ベルトの着脱は極めて容易な仕組みなので、TPO により交換できます。

今回の発表の目玉のもうひとつは MacBook。MacBook Air より薄く軽いノートブックで、Air を廃版にしても良さそうにも思えますが、今回の MacBook が 12インチなのに対し、Air には 13インチがあることと Air の CPU の方がクロック数が早いとのこと。しかし MacBook には遂に Retina Display が載りましたし、最新の USB-C ポートやバタフライ・メカニズムのキーボード、感圧タッチパッド、そして何より Apple が過去に出したノートブックの中で最も軽く薄いということから、今後多くのユーザが Air から MacBook に流れるであろうことが推測されます。私としては Apple Watch より、この MacBook にちょっとヨダレが出そうですが、最近はノートブックを持ち出す機会も年に1度あるかないか。無駄な衝動買いはせず眺めるだけになりそうです(オトナになったということかなあ、、いやいや財布が薄くなってオモチャを買う余裕もなくなったということ)。

◯ 新しい MacBook

それにしても今度の MacBook の構造すごいですね。内部を開けると、殆どを占めるのがバッテリー。基板は下の写真の宙に浮いた部分で、占める面積は 1/10 以下、嘘のように小さい。iPhone や iPad で培ったノウハウによるものとか、そうでしょうねえ。HD も最近は SSD に変わりましたが、その SSD どこに載っているんだろう。基板かバッテリーの後ろにひっそり隠れているのか。それともまさか、あのちっぽけな基板の中? このような構造から発熱も少なくなり、ファン・レス。かつてファン・レスにこだわった Jobs も満足なことでしょう。

最近のスーパーカーの製造工程を見ると、外皮も金属ではなく曲面ごとの形に切り抜いたカーボンファイバーを型の上で貼り合わせ、巨大な圧力チャンバーに入れ高圧・高熱で整形、エンジンなどもアルミ・ブロックから削り出したパーツを精巧に組み立てるなど、非常に精密に作られていますが、MacBook も似たようなもの。わずか十数年のうちに凄いことになったものだなあと、、

◯ オブジェクト指向な車両の組み立て

上記スーパーカーでは、このようにして組み立てたカーボンファイバー製の車室の前後に金属パイプフレームをボルト締めし、そこにエンジンを組み込むなど、車の筐体もパーツ化されています。そこでさらに感心したのが、動力性能・射撃管制装置・武装や装甲などで、現在、世界最高水準に位置するとされる、米国の M1エイブラムス戦車。

この戦車は開発当時世界の主流だったディーゼル・エンジンではなく、航空機用ジェットエンジンと同じ燃料を使うガスタービン・エンジンを積むが、トランスミッション・補機類も含めパッケージ化され「パワーパック」と呼ばれる。万一エンジンが故障した時は、パワーパックごとごっそり交換すれば良い。1970年当時、第二次大戦時代の M60 パットン戦車をリプレースするにあたり、発展余裕に富んだ設計を採用。1981年に正式採用されてから、改良を重ね現在に至るというのも凄いですね。そんなことで、パワーパックが壊れても新品の補給はできないので、古いパワーパックをオーバーホールして使っているとか。

エンジンだけでなく、装甲その他についてもこのようなコンセプトが貫かれているようで、まさにこれはオブジェクト指向ではないかと。このように緊密に関連するパーツ類はひとつの塊として管理・メンテし、必要なら塊ごとごっそり交換するという考えは、私の開発する電子カルテ NOA で昔からとってきた考えでもあります。

蛇足ですが、ガスタービンはコンパクトで強力なパワーを始め多くの利点を持つ一方、極めて燃費が悪く停車時のアイドリングだけでも多量の燃料を消費するのが大きな欠点。従って作戦にあたっては、巨大な燃料タンクを積んだ燃料補給車を用意するとか。米国なればこそ運用できるシロモノでもあるようです。

◯ 今月の脳トレ

電子カルテ NOA の iOS 対応改良ができたので、早速今月から外来で使ってみています。NOA のユーザさんの中には数年前から在宅診療などで iPad 上で NOA を使っている方がおられますが、私自身は使っていなかったのです。家内に譲った初代 iPad を最近の iPad と交換し、その初代 iPad を外来で使ってみることにしました。

初代 iPad も NOA を使う分には速度も遅くないし、まったく問題ないですね。バッテリーの保ちの良さにも今更ながら驚きました。放置していてもバッテリーの放電が極めて少ない。最近のバッテリーとの違いを感じました。

私は妊婦健診の際、エコー・マシーンの脇に置いて測定値をカルテへ入力するのに使っています。予想通り iPad だとちょっと大きい、iPad mini の方が扱いやすそうです。今度の iOS 対応 UI の使い勝手はまあまあですが、Web アプリそのままだと入力欄がちょっと小さい。本来の iOS アプリのようにもう少し大きい方が入力しやすいですね。ここは更に工夫を必要とするところ。

今までは USB にダウンロードしたエコー画像をデスク上の iMac の USB に刺して、NOA の画像ツールで画像を開きながら測定値を NOA へ入力していました。この操作が1段省けるのが今回のメリット。ベッドサイドでエコー画像を iPad で妊婦さんに見せられると良いのですが、うちのエコー・マシーンは USB 経由でしか画像を運べないので残念ながらこれはできません。その代わり iMac の大画面一杯にエコー画像を表示し、ご自分の携帯のカメラで撮影してもらっています。

◯ 当院 IT システム構築のあけぼの

古い書類を整理していたら、とても懐かしい貴重な資料がでてきました。パーソナル・コンピュータが世の中に現れて3年後、1980年のもの。その2年前に PET2001 というパーソナル・コンピュータを手に入れたのをきっかけに独学で BASIC を学び、職員の給与計算や財務会計などのソフトを自作してきました。しかし BASIC にはハードウエアごとに方言が大きく、ハードを替えるたび移植には大変な思いをしていました。月刊「ASCII」で、そのような問題を解消できる Pascal 言語を知り、Apple II で UCSD Pascal を走らせ今までの自作ソフトをそちらへ移植しました。Pascal はコンパイルしなおすだけで別のハード、例えば NEC PC8001 などでも、Apple で作ったソフトがそのまま動くのには いたく感動しました。

当時は入院施設があり毎月10例程度のお産を扱っていたのですが、外来での妊婦健診などをコンピュータ化したい、そして自宅のコンピュータともネットワークで結び経営管理などもしたいと考えました。たまたま当院を訪れた H & M というソフトウェアハウスにソフトの製作を依頼することにしたのです。今回出てきた提案書を見ると、中央に DATA BANK(今でいう Data Base)を置き、自宅で経営管理業務や保険請求・分析を行う SORD システム、外来で診療管理業務を行う ABC システム、そして将来的には病棟の院内設備管理システムや病棟管理・検査管理システムと接続を行うという提案でした。

とりあえずは診療管理業務のソフトウエアを発注したのですが、見積額は百万以上もしました。「私もソフトの勉強を兼ねて同じものを作ってみるが、プロの貴方はそれよりずっと良いものを作ってね」と申し渡し開発が始まりました。彼は毎月打ち合わせに来ましたが、実際にデモするようなものは出来てきません。それから半年以上経たでしょうか「私が Pascal で書いたものができたので、ちょっと見てね」と、サンプルのつもりで見せると「先生のソフト速いですね」。この一言で「こりゃ駄目だわ」と悟り、即座に契約をキャンセル。「自分の欲しいものは自分で作るっきゃない。ソフト・ハウスにべらぼうな開発費を払うのは金をドブに捨てるようなもの」という貴重な教訓を得ました。そうして、35年を経た今日に至るまで「欲しいものは自分で作る」に徹してきました。

H & M 社の提案書を見ると、メイン・マシーンは 4MHz の Z-80A PU と 64KB のメモリーを搭載した ABC-26 というマシーン。12インチ・ディスプレイ、40MB の HD と 1.15MB の8インチフロッピー・ドライブ2台を内蔵していました。幸いなことにこのマシーンでも UCSD Pascal が走り、以後しばらくはこのマシーンが外来で稼働、その後の電子カルテの素地となる簡単な妊婦管理ソフトを動かしていました。私も若さあふれる懐かしい時代。

◯ 書斎の開発マシーン iMac27 インチを修理に出す

書斎で電子カルテ開発に使っている iMac 27インチは前面ガラスに大きくヒビが入り、透明ガムテープで補修してあります。4年前の東北大震災における我が家唯一の被害。書斎の机の上から転がり落ちた iMac27インチが本の津波に埋まっていました。恐らくカーペットの上に転落した iMac の上に、本棚から次々と書籍が落ちてきて割れたのでしょう。

大きくヒビ割れた前面ガラスを透明ガムテープで補修し「どうせ修理に出しても震災後で混み合っていて、かなり待たされるかも」と、しのいできました。iMac の画面が明るく透明テープもさほど邪魔にはならないので、そうして過ごしているうち4年も過ぎてしまったのです。修理の間の代替マシーンとして、遊んでいた Mac mini をあてることにしました。しかしディスプレイがありません。ネットで探すと Iiyama の 20インチ・ディスプレイが2万円もせず、予備ディスプレイとして居間などでも使えるかなと早速購入。発色など iMac には及びも尽かないものの、それなりに使えます。

ファイル類をそちらへコピーし使い始めたのですが、どうにもトロく使ってられません。メモリーを見ると 2GB、このマシーンも以前は開発マシーンとしてバリバリに使えたのですが、OS とともに Web ブラウザーなどが潤沢にメモリーを使うようになり、とても間に合わないようです。昨年、外来のマシーンにメモリー増設した際、はずしたメモリーがあったのを想い出し、それと差し替え 4GB になりました。4GB あるとまあまあ使えますね。最新 Mac mini のスペックを AppleStore で確かめると通常は 8GB、一番安い mini は 4GB でした。

そして3日後 iMac が修理から帰ってきました。ガラス交換だけなのに2万8千円もしました。ガラス自体は1万3千円程度ですが技術料が同じだけかかり、それに送料。iMac27 インチ復活、画面は明るく広いし動きもサクサク、やはり快適だなあ、、

◯ 今月の歩術

2月は寒気で歩きにでる頻度がやや少なくなりました。それでも週に2,3日は歩きに出ていたのですが。3月も半ばを過ぎるとようやく空気も少し春めいてきました。この冬を通してジャンパーを着たのは北風の吹いた2回のみで、あとは軽く袖まくりしたスポーツシャツにダウンのベストで通すことができました。今年は雪らしい雪も降らなかったし、北風の吹く日も少なかったような。

歩きの技術について最近は特に書くこともなくなりました。何事も枯れてくるとそうなるのかも、、ただ淡々と腰の周りを柔軟にと心がけながら歩くのみ。日曜など 10km を越えて歩いて帰ると股関節がやや強張ったように感ずるので、それなりの動きはしているのかなと。しかし、久々に 10km 近く歩くとやや歩度が落ちてくるのは寒期のさぼりのせい? それとも歳のせい?

それにしても日の出時刻が早くなりました。先月号の表紙のように、2月初めには夜明けが6時頃だったのに、3月も末になると5時にはもうかなり明るくなっています。これに同期して気温も次第に春めいてくるわけですね。目黒川の桜の蕾も大分ふくらみ、一部ピンク色がのぞいている蕾も見えはじめました。3月最後の日曜と4月最初の日曜あたりが見頃になりそうです。早い時は4月に入ると葉桜という年もありましたが、今年の新入生は桜に出迎えてもらうことができそうですね。

そして3月最後の日曜、予想通り桜は満開に近くなりました。その前の金土あたり寒さも大分緩んだので、この頃から開き始めたのだろうと思います。日曜はちょっと足を伸ばし第1京浜のあたりから目黒川沿いに遡りました。遊歩道から見上げる満開の桜はとてもみごとですが、写真に撮ろうとするとなかなか映えるように撮れません。目黒川をのぼって目黒雅叙園ホテルのあたりに来るとまだ朝8時頃だというのに急に人が増えました。皆さん桜目当ての散歩のようです。目黒不動の桜も満開でした。

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Macbook に搭載された信じられないくらい小さな基板

これは日々の生活で感じたことを書きとどめる私の備忘録です