2005.08 電子カルテに病院用も診療所用もない?

わーくすてーしょんのあるくらし (95)

2005-08 大橋克洋

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相変わらず歩きに凝っています。 勝手に「歩術」と呼び、日々研究とトレーニングを重ねています。 古式歩術いわゆる「ナンバ歩き」と言われるものの研究から始まりましたが、 最近はこれを元に中国武術などの極意を取り入れ試行錯誤しています。 一旦新しい技を悟ったと思ったところが、 しばらくするとまた次の段階に移って行くのがとても面白いですね。 このようなことで、今月は「健康ネタ」から始めてみたいと思います。

○ 西洋式歩き方はアクセルとブレーキを交互に踏むようなもの

「介護予防」や「健康増進」のため歩くことが推奨されています。 そのパンフレットを見て??? と思いました。 「背筋をまっすぐ前を見て」までは良いのですが、 「後足で蹴り、前足はカカトから着く。両手は大きく元気に振る」という指導です。 これは典型的な西洋式歩き方で、 下肢の筋力や耐久力をつける効果はあると思うのですが、 やりすぎると関節その他を痛め、介護予防と逆の結果を産む可能性があります。

アクセルとブレーキを交互に動作させるようなもので、 極めてエネルギー効率が悪く、足腰も痛めやすい動き方です。 「ナンバ歩き」では、 後ろ足で蹴ったり、前足のカカトから着くようなことはしません。 「水が自然に流れるように」 「地上の風船が空気の動きで転がるように」 後足の足面を地面から水平に抜き前足もなるべく水平に降ろすという、 「平起平落」を心がけます。 両手を積極的に振ることもしません。

「平起平落により、見た目はゆっくりでも歩行速度は上がる」とあります。 確かに身体がスムースに動いた時の歩行速度は速いようです。 残った後足に力が入ってしまうことがまだ多いのですが、 後足のカカトの力が抜けると「引きずっていたサイドブレーキを解除」したように、 前進がスムースになり速度が上がります。 絶対的に違うのは、疲労が極めて少ないことです。 これについては昨年11月に書いたように、 「健康イベント、医師と歩こう」で 20Kmコースをトップグループで完歩しても、 翌日足の痛みがまったくなかったことが証明しています。

西洋式歩き方はカカトのしっかりある革靴などと密接な関係があるのに対し、 東洋式歩き方はそもそも素足やワラジで歩くのに適しているということに気がつきました。 最近は革靴でも東洋式歩き方ができるようになりましたが、 最初はなかなか困難でした。 最初から素足で歩く練習をしたなら、もっと習得が早かったに違いありません。 逆の見方をするなら、 素足で西洋式歩き方をするのは かなり苦痛でしょう。 きっと革靴のなかった頃、西洋人も東洋式歩き方をしていたに違いありません。

○ 頭で考えず自然に行う

中国武術を学ぶ人が、達人に極意を尋ねたところ 「頭で考えず自然にやりなさい」の一言しかなかったそうです。 「西洋的スポーツ理論によるトレーニングが主流なのは、西洋の文化が実践的、 すなわちコピー可能なので大勢へ一度に広めやすい」のに対し、 「東洋的思想には具体的なものが少ないためコピーしにくい」のだそうです。 「自分の頭の中で作った設計図を身体にコピーしても、 ほとんどの場合 自分の直面する現実に適していない」 「人間の本来持つ自然の能力が否定され、 頭が作り出した単一的なものに変質してしまう。 考えたとたん不自然な動きになる」からだそうです。

なるほどねえ、、、 と、私の歩術にも最近はこの教えを取り入れようとしています。 「頭で動かすのではなく、 身体の部分部分が独立して勝手に動くようにする」ということでもあるのかな とも思っています。 確かにそのような反射的動きの方が、断然スピードが速いということはありますね。 隣の人が何気なく挙げた手が顔に当たりとても痛かった、 という経験をしたことはありませんか。 このような自然の動きには意外なスピードと力があります。 中国武術ではこのような動きを求めます。 日本の空手などとは正反対のようですね。 先日も固い瓶の蓋を開ける際、力を込めてやるのではなく、 試しに何も考えず、ふと開けてみたところ素直に開きました。 なーるほど、こういうことか。

そうそう、もうひとつ良い例を思い出しました。 時々、近くの老健施設から介護の方が付き添って、 認知症のご老人が診察に見えます。 車椅子に乗って来院される弱々しく小柄な老人が、 目にもとまらぬ早業で介護の方の眼鏡を取ってしまったり、 普段の動きからは思いもよらぬ素早さと力で 身体を動かすことがあります。 われわれも熱い鍋に知らずに触ってしまい、 思わず手を引っ込める時などもそうですね。 本来の自分の意思でなく、 反射的なこのような時の力とスピードは思いもよらぬものです。

○ 骨格が正しい姿勢に保たれるよう動く

さて話を元へ戻しますが、もうひとつ面白い表現がありました。 「筋肉に力を入れるのではなく、骨格が常に正しい姿勢に保たれるよう動く」 というものです。操り人形のように関節をブランとしたまま、 骨格だけは正しい姿勢になるような動きです。 なるほど、これをちゃんとやれるようになれば、 後足のカカトの力も抜けるはずですね。 特に武術の場合、筋肉に力が入ると動きは鈍くなるが、 力が入っていなければスピードは断然速いということだそうです。

中国武術には「頭のてっぺんから糸で吊られたイメージで身体を動かせ」 というものもあります。 私は足腰の鍛錬と、 年齢とともに低下したバランス感覚を取り戻すため、 電車の中で何も掴まらず立つ訓練をしています。 最初の頃は足を踏ん張ったり、 揺れの方向を予測し重心位置を変えていたりしていたのですが、 頭を吊られたイメージにしてから、 無意識に電車の動揺へより柔軟に対応できるようになりました。 このように心の中でイメージすることを、中国武術では「意念」と呼ぶようです。 最近実感した「意念」の効果については 他にもいくつかありますが、長くなるのでまたの機会に書くことにしましょう。

私は女子バレー(ボール)の大ファンです。 先月の世界選手権では、どの試合も惜しいところで敗退しました。 あのようなスポーツにこそ「頭で考えず自然に動く」ということが、 とても重要と思います。 複雑なチームプレーの中では、頭で考えた動きをしても間に合わないはずです。 大きくジャンプしながら、相手のどこに穴があるかを自然に察知し そこへ強烈なあるいはフェイントの効いたボールを打ち込むことが必要でしょう。 ちなみに、ナンバ歩きの極意を高校バスケットボールのトレーニングに取り入れ、 短期間で強力なチームにした話もありました。

そういえばブルース・リーが弟子にカンフーを指導している場面で、 「駄目駄目、考えては、、、相手の雰囲気をとらえ風のように動け」 と繰り返し言っていたのを思い出しました。 だから、オリンピックでも中国チームは、 体操やバレーボールのような競技で特に強いのかも知れませんね。

○ 集中管理と分散管理

「身体の部分部分が独立して勝手に動くようにする」ということは、 考えてみれば「頭を司令塔とした集中管理よりも、 身体の部分部分に任せた分散管理の方が効率が良い」 という考え方とも言えますね。 このあたりはソフトウエアの作り方にも言えることです。

電子カルテも最近は非常に多くの種類がでてきました。 しかし殆どが一体型、すなわち集中管理型です。 私の電子カルテ NOA は、 かなり前に多くの独立した部品を組み合わせて実現する 分散管理へ進化しました。 その方が色々な要望への柔軟性が高く、 開発やメンテナンス効率も高いからです。

サーバについても同じで、 集中管理でなく色々な役割ごとに独立したサーバがあって、 それらの機能を利用して目的を達成する方が 色々な面で優れていると考えています。 組織でも同じですね。 ある程度大きな組織では知識や権限を一人の人間に集中するよりも、 それぞれのエキスパートに任せ、 それらが有機的に機能する形態の方が効率が良くなります。 このような考えこそが「オブジェクト指向」でもあります。

○ 電子カルテに病院用も診療所用もない?

「電子カルテを導入した病院へ行くと、 ドクターは画面ばかり見ていて私の方を見てくれない」 という話があります。 医療は複雑多岐で、診療録の内容はもちろん その取扱いには千変万化なものがあります。 しかし病院では経済的理由などから、 一種類の電子カルテシステムに限定して導入せざるを得ません。 診療科ごと別々の電子カルテを導入するなどという 発想自体が存在しないと思います。

このような状況ですから、 個々の現場にマッチすることは現状では不可能と考えてよいでしょう。 そうなると、現場では使いにくい電子カルテを無理矢理使わされることになり、 「ドクターが電子カルテに使われてしまう」 という本末転倒になるわけです。

これは当分あきめねばならない事なのでしょうか。 私はそうは思いません。病院の電子カルテシステムを、 もっと多様性あるものにすることが可能と考えています。 中核となる電子カルテサーバは唯一で良いのですが、 ドクターごと好きなクライアント(電子カルテ・インタフェース) を接続して使えるようにすれば良いのです。

「そんな多種類のクライアント・ソフトを導入したら、 やはりコストがかかるじゃないか」と考えますよね。 もし診療所用電子カルテが、 病院用サーバシステムの端末として使えるようにすれば、 かなり幅が広がるはずなのです。 色々な電子カルテを選べますし、 極端なことを言えばフリーウエアの電子カルテまで存在します。

その前提として、診療所用電子カルテもサーバ・クライアントで動くようにし、 サーバ・クライアント間でやりとりする標準的な手順を決めておく必要があります。 診療所用サーバはこじんまりしたもので済むでしょうし、 病院用は大規模なサーバとなります。

病院用はオーダリング・システムその他、 診療所では使われない機能も沢山ありますが、 それはサーバ機能に実装したり専用クライアントを追加すれば良いことです。 このような状況になれば、 電子カルテも数が出るためコストダウンや改良が進み、 ますます良い方向へ進むはずと考えています。

これも つまりは「オブジェクト指向」です。 全て一体型でしか思考できない従来からのソフト屋さんには、 理解できない発想かも知れませんね。 特に大規模病院の電子カルテシステムを作っているベンダーさんからは 絶対に出てこない発想といえるでしょう。

○ 電子カルテのベースはまっさらな白紙?

電子カルテがどうあるべきかについて、 別の角度から最近の私の考え方を述べてみましょう。 電子カルテのベース(車で言えばシャーシ)は、 まっさらな白紙に近い最低限の機能のものがあればよいと考えています。 真っ白な紙であれば、何でも好きなことが書けますよね。 とはいえ忙しい医療の現場で、 ただの白紙を与えられて診療録を書け、 と言われても非常につらいものがあります (やってできないことはないでしょうが)。

紙の上に罫線などが欲しいですし、 定規や電卓、辞書などに相当する道具が欲しいですよね。 普通はそういうものを机の上に持ってきて使います。 電子カルテでは、 処方箋や検査伝票、紹介状の便箋、お絵描き道具、医事計算の道具など、 自分が必要な道具を持ってきてプラグインすれば良いと思います。 それらの道具は(実際の文房具がそうであるように) どこのメーカーのものと組み合わせて使っても構いません。

つまり、電子カルテの周辺ツールは 基本的に独立して機能するソフトウエアだが、 標準の接続手順が備わっていて、 どの電子カルテ(シャーシ)と組み合わせても 使える仕組みになるべきと考えています。 自動車の多くの部品がそうですよね、 タイアにしてもバッテリーにしても。 これまたオブジェクト指向ということです。

MacOS X の Dashboard 機能は、 まさにこのようなことを実現できる仕組みです (もちろん電子カルテの場合 Dashboard とは多少違って、 電子カルテと同じ階層で動くことになります)。 Dashboard が出現した時、 「あっ、 私と同じ発想を実現する人が やはり米国には居るんだ」と感動しました。 昔々、私が考えていたのと寸分違わないイメージが HyperCard として出現し、 大感激して以来のことです。

Dashboard ほど素晴らしい仕組みではありませんが、 もっとありふれた手段を使って 「独立した周辺ツール」を「不特定の電子カルテ」 と組み合わせて利用する試みを、 東京都医師会 HOTプロジェクトで実現しようと考えています。 さて、どの程度実用になるものなのでしょうか。 詳細はもう少し具体的になってから。

○ 「何でもマニュアル」化への大きな疑問

最近、メールによる医療相談で顕著な傾向が気になります。 主に若い世代で 「自分で考えてみずに安易な質問」 「教科書(おそらくインターネット情報)の ごく僅かの選択肢にマッチしないととても不安」という傾向です。 外来診療でも、当方の説明がそれにマッチしていないと、 明らかな不満をもらす方も目についてきました。

これは医療側でも注意すべきことです。 たとえば最近話題の EBM (Evidence Based Medicine 科学的根拠に基づいた医療)です。実証的な医学はとても良いことです。 一方で、多くの人間は「マニュアルに合致すれば正しい方向」 と考えがちです。懐疑的に自分の思考を加えつつ EBM に対応していた人間も、慣れるに従い自分で考えず 安易に従属してしまう危険性は高いでしょう(私も含めて)。

EBM など「西洋式」考え方と、従来の医学における「東洋式」考え方 のどちらが良いのでしょうか (ここで西洋式、東洋式は、いわゆる西洋医学、東洋医学ではありません。 上の中国武術の項で述べたものです)。 私は「どちらも正しい」と思います。 ただし「医学の初期研修や生涯研修においては 西洋の実証的方法論を学ぶべきだが、それを身につけた後は パターンにとらわれず柔軟な東洋式を実践すべきではないか」と考えます。

現代では、司法や社会もマニュアル第一主義です。 結果が正しくても 「途中経過がマニュアルに沿っていなければ正しいとは判断しない」 可能性は大きいと思われます。 うーむ、そうなると医療もどんどんマニュアル化へ進みそうですね。 叱責覚悟で述べれば「どんどん人間が馬鹿になる方向性」 と嘆かざるを得ません。 これからの教育やマスコミに お願いしたいのは、 「自分の頭で考え判断する習慣を身につける」方向へ ぜひ向けて欲しいことです。

コンピュータに「マニュアルは不可欠」に近いものです。 しかし「マニュアル通りにやってもうまくいかないことは、 いくらでもあるのが当たり前」で、 「マニュアルは自分で考える時のヒント集」でしかありません。 不確定要素のとても多い医学において、これはさらに顕著ですよね。 「マニュアルの本当の意義」を理解する現代人になって欲しいものです。

○ iTunes Music Store ついに日本上陸

8月4日の日経新聞朝刊1面に「iTMS 本日オープン」の大きな記事を見つけました。 日経新聞だけが数ヶ月前に Apple 社が8月に iTMS をオープンするという記事を載せていたのですが、 ほかの記事では真偽のほどを云々するものもありました。 朝刊を見て早速 iTunes を開きミュージックストアのところを見てみましたが、 まだ相変わらず米国版しか表示されません。 「あれ?もしかして、ガセネタ? そんなことないはずだよなあ」と思いつつ、 夜帰宅後に再び開いてみると、ありました、ありました。

上のように、ミュージックストアが日本語版になっていました。 100万曲提供と記事にはありました。 これにぶつけるように、 有料音楽配信サービス各社が楽曲の値下げを発表したようです。 こんな意味でも iTMS の影響は大きいようですね。 当日は有楽町の東京フォーラムで、 このために来日した Apple 社の CEO ステイーブ・ジョブスのプレゼンがあったようです。 8月6日には「Apple Store 渋谷」がオープンするそうですから、 ジョブスはここにも現れるのでしょう。

日本の iTMS がオープンして4日目にして ダウンロードされた曲数は何と100万曲を超え、 これは米国などのペースを大幅に上回ったそうです。 「このようなエンターテイメントを最も利用したがるのは、 そもそもマックユーザに多い。 iTMS を待ちこがれたマックユーザが堰を切ったように 押し掛けたこともあるだろう」 と面白い意見もありました。 うーん、それはある程度 言えるかもね。 ゆっくり探したら結構懐かしい曲も見つかったので、 私も早速10曲ほどダウンロードしてしまいました。

○ Mighty Mouse

Apple Store に注文した Mighty Mouse がようやく届きました。 発売直後なので、オーダーしてから1週間くらいかかりました。 マニュアルを読まずに、いきなり使い始める私です。 いそいそと USB 接続し使ってみました。 あれ? クリックしても反応しないぞ? おかしいな、、、 いくらやってみても駄目。仕方なく付属の薄いマニュアルを開きます。

あ、そうか、、、付属の CD からドライバーをインストールしなければいけないんですね。 あれ? ドライバーがインストールできないぞ? あ、そうか MacOSX 10.4.2 にアップグレードが必要なんだ。 まだ 10.4.1 でした。急いで Internet 越し upgrade します。 reboot したところで、再度ドライバーをインストール。 やっと「環境設定」の「マウス」の項目で Mighty Mouse 用設定が表示されるようになりました。 やあ、評判通り良い仕上げです。 人差し指の当たる位置にある可愛いトラックボールもとても良い感触。 さすがアップル、良い仕事しますねえ、、、

縦横スクロールバーの出る画面で、 トラックボールを使ってみます。 おお、斜めスクロールもバッチリ。 デフォルトではトラックボールを下へ押し込むと Dashboard が表示されます。 これも便利、便利。今までより頻繁に Dashboard を使うようになりそうです。

他にもいろいろなことができますが、 このミニ・トラックボールが一番重宝しそうです。 電池内蔵の重量感ある Bluetooth マウスを使い慣れていたので、 このマウスの軽いこと。動作まで軽快に感じます。 でも、Mighty Mouse の Bluetooth 版がでたら、 やはりそちらへ移行するんでしょうね。

ということで Mighty Mouse はお勧めの一品。