2000.04 今年のコンピュータ事情

わーくすてーしょんのあるくらし (28)

2000-04 大橋克洋

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この原稿を書いているのは2000年1月です。 世の中を騒がせた Y2K も、予想通り「泰山鳴動してネズミ一匹」 でしたね。どこの業界も暮れから泊り込みで大変だったようです。 私のところは Y2K に対する対策はまったくしませんでした。「影響 があるとすればメール・サーバの日付あたりかな、もし問題あれば とりあえず暦を一年前に戻して運用しながら対策を考えれば良いか 」などと泥縄で考えていましたが、予想外に年が明けてもまったく 問題は出ませんでした。

電子カルテの方は、その前に MacOS X Server 環境へ移行してい ましたのでまったく心配していませんでした。現在まで私のところ では Y2K によるトラブルは皆無です。 多くの業界が Y2K に費した費用はかなりのものと思いますが、 これを機会にかなり収益をあげたところもあるはずです。風が吹け ば桶屋が儲かる、世の中さまざまですね。 この原稿が掲載されるのはもう正月をかなり過ぎた頃になります からややピントはずれになりますが、今年のコンピュータ事情に ついての予測などを話題に進めてみたいと思います。

○ インターネットはより身近に

色々な業界がインターネットにフォーカスを絞ってきています。 インターネットを利用したからといって、全てが良くなるとはまっ たく思ってはいませんが、色々な面でインターネットがより身近な インフラとして使われて行くことは間違いないでしょう。 それにしても、お医者さんだけが取り残されて行くであろうこと もまず間違いないと思います。その理由は教養が邪魔するため、そ してもうひとつ、その保守的な体質にあると思います。

多くの医者が保守的であることを、私は決して悪いこととは思っ ていません。医者が皆、革新的なことばかりやりはじめたら、危な くて仕方がないでしょう。 ともあれ、そのようなことで、世の中でインターネット利用のイ ンフラがかなり進んでも、多くのお医者さんが遠巻きに眺めている 状況は、まだしばらく続くと思います。

むしろ、その家族やスタッフなどの方が、日常の生活の中で積極 的にインターネット利用へ進むのでしょう。うちの事務職員も昨年 自宅に iMac を購入したそうですが、今年は ISDN を引いてインタ ーネットへ接続したそうです。自分では接続できないので、親戚の お兄さんに来てもらって接続してもらったそうですが、早速ホーム ページが見られるようになったので、これから電子メールだと意気 込んでいます。コンピュータのことはまったくの初心者ですが、iM ac の本を何冊か買ってきて思考錯誤でやっているようです。

○ 携帯端末

今年の末には、携帯端末もさらに使いものになってくるでしょう 。これからは、スケジュールや住所録などのデータを持ち歩くので はなく、自分のサーバに溜め込んだデータを、携帯電話程度の端末 で読み書きするのがベストと考えています。 施設内 LAN も無線によるものが増えてくると思われ、私のところ もかなり使いやすくなることを期待しています。

上に書いたのは、ワイシャツのポケットに入る程度のコンパクト な携帯端末をイメージしていますが、これとはまた別に、本格的な コンピュータとしての携帯マシーンも必要です。 昨年、買った old PowerBook は大活躍をしています。MacOS X Server と、その上で動く開発環境を載せて「どこでも開発環境」を ようやく実現できました。

今まで電子カルテ開発は、書斎のタワー型マシーンで行ってきた のですが、最近は居間などもっと居心地のよい所へPowerBook を持 ち込み、EtherNet をパチャンとつなぐだけで気楽に開発ができるよ うになりました。今までのように書斎にこもりきりになることがな くなったので、家族とのコミュニケーションという意味でもずっと 良い環境になりました。最近のパターンは、早朝起きだして朝風呂 に入りオートミールとヨーグルトの朝食を済ませ、コーヒーを飲み ながら診療前の1時間ほど「電子カルテ」開発を行います。

休みの日などは、CD でクラシック音楽やフルートの音などを BG M を流しながらやっていると、とても優雅な気分になります(本当に リキを入れる時は、軍歌や演歌の方がよいかも知れません :-) 医師会の委員会などのない昼休みの一時間、TVを横目でみながら の「ながら開発」。夕食後、眠くなるまでの開発と、細切れ開発 を行っていますが、従来のように書斎にこもって「さあーやるぞー 」とネジリ鉢巻きで意気込むのとは大部ちがったリラックスした雰 囲気になってきました。 MacOS X Server の開発環境がとても使いやすくなって、気楽に効 率よく開発できるようになったせいもあるのでしょう。

○ 機器はよりコンパクトに高速に

昨年あたりから液晶デイスプレイの設置されているのを、色々な ところで目にするようになりました。値段も下がり、性能も良くな ったからですが、今年からは新規購入するデイスプレイの半数以上 は液晶になるのではないかと思います。 設置面積が小さいので机の上を占有しないのは、何といっても大 きなメリットです。iMac はとてもコストフォーパフォーマンスが良 いのですが、今となっては結構場所をとるのが難点です。おそらく 今年中に液晶デイスプレイを備えたもっとコンパクトなiMac が発売 されるのではないかと期待しています。

Mac 環境になってから、いろいろな作業が気持ちよく進むように なりましたが、CPU の高速化もさることながら、ハード・デイスク やネットワークまわりのスピードが上がったことは大きいようです。 私のところでは、いろいろなマシーン上のファイルをネットワーク 上にリンクを張って使っていますので、特にそのように感じます。 最も場所をとるデイスプレイや本体はかなりコンパクトになる傾 向にあるのですが、キーボードが結構机の上で巾を効かせています 。これももう少し小さいのが欲しいと思います。初代 Mac のキーボ ードは厚みはありましたが、テンキーを持たずとてもコンパクトで 好きでした。数値入力を頻繁にやる場合はテンキーが欲しいのです が、通常の作業ではなくてもそう不自由は感じません。実際 Power Bookなどはテンキーを持たないわけですし。

秋葉原などでは DOS/V マシーン用のテンキーなしのキーボードを 見かけますが、デザインがねー 診察室や書斎には、まだ OPENSTEP を載せた DOS/Vマシーンがネ ットワークの裏で動いており、時々そちらへ切り替えて使うことが あります(UNIX系のマシーンはこのように、第一線から退いても裏 方として十分使えるのが強みです。Mac も MacOS X になれば UNIX が裏で動いていますので、同様の強みを持つことになるでしょう)。 これらと Mac とはデイスプレイを共有しているのですが、キーボ ードとマウスがそれぞれ別なので面倒です。キーボードとマウスも 切替器で切り替えられないかななどと考えています。そのようなも のもあるようですが、OS 自体が多少違っていたりすると、うまく動 作しなかったりするのでしょう。

○ MacOS X により Mac 環境が大きく変わる

1月に米国で行われた MacWorld Expo 2000で、MacOS X について発表がありました。新しい技術を使った OS と従来からの MacOS 路線の二本立てでしばらく行き、数年を経て統合すると Apple 社は言っていたのですが、今年の夏頃からから一気に MacOS X に統合することにしたようです。

OPENSTEP を継承した MacOS X は従来とはまったく違った、より 先進的で安定した技術を使っています。Apple 社は、その実用化に かなりの自信を持ったのでしょう。私が現在使っている印象でも MacOS X Server はかなり安定していて、まず落ちたり凍りつくこと はありません(以前から OPENSTEP を使ってきたユーザにとって、こ れは当り前のことなのですが)。

今後 MacOS X がメインとなり、それにサーバ機能を付加したもの を X Server として発売するようになるのではないかと思われます 。Jobs が NeXT 社創設とともに、私が NeXTStep、OPENSTEP と使っ てきたのはまさに正解だったと思っています。現在電子カルテ WIN E を走らせているのは MacOS X Server ですが、MacOS X でも同様 に動くはずです。

Apple 社の Web を見ると、MacOS X のデスクトップ・インタフェ ースは Aqua と呼ばれる「水」をテーマにした透明感のあるとても 美しいものです。NeXT 社が Apple 社に吸収合併されて、両社のイ ンタフェースの統合ではいろいろと確執があったようですが、いずれ とも異なる Aqua を新しく打ち出すことによって、両者とも満足す るのではないでしょうか。 従来のどちらのインタフェースよりも、明らかに美しく優れてい ます。まさに Jobs らしい美しい変身と思います。彼の英断には美 しい外見だけでなく、必ず革新的技術の裏付けがあるのが常なので 、その面もとても期待されます。

WINE もその上に移行すれば、さらに効率的に楽しく診療ができる ようになることは間違いないでしょう。 問題はいつ手に入るかです。MacOS X は今年の夏にリリースされ 、来年出荷するハードウエアには標準で搭載されるということのよ うですが、こういうものは遅れるのが常なので実際に MacOS X を皆 が享受できるのは来年の今頃でしょうか。とても楽しみです。これ につられて Windows 環境が向上することも間違いないでしょう。も っと楽しくコンピュータを使えるようになりますよ。

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