1988.09 ワークステーションと文書作成機能 (2)

わーくすてーしょんのあるくらし (21)

1988-09 大橋克洋

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前回に続き今月もワークステーション上での文書作成機能について攻めてみ たい。最近、私のワークステーション上で、このインフォメーションの原稿の ようなワープロ的使い方からプログラム開発、電子メール、スケジュール管理、 等々と文書作成に費やす時間がかなり多くなった。

● 親指シフト・キーボード

毎度同じようなネタで恐縮だが、そうそういつも次から次へと新しいものを 導入する訳にもいかない。しかし、同じものを使っているうちに、また新しい 発見、経験を得るというのが実際の姿であるから、そこのところは今後ともご 容赦願いたい。

以前このコラムで、アスキーから出されたPCー98用の親指シフトキーボー ド「親指君」についての印象記を書いた。その後どうしているかと言うと、 「親指君」は結局はずしてオリジナルのキーボードに戻してしまった。 私のところでPCー98を何に使うかというと、イーサネットでUNIXに 繋ぎSUNのターミナルとして使う場合が殆んどなのだが、「親指君」はUN IXで使うには極めて具合が悪い。

UNIXで使用する記号がテンキーの上のとんでもない位置に割り当ててあ るし、リターンキーが小さくてそれを叩くつもりですぐその下のエスケープキー を叩いてしまうなど、とても努力なくしては使えない状態なのだ。 ところが今月の雑誌広告を見ると、早くも改良版がASkeyboardと いう名前で10月に発売されるということで、これを見て「さーすが、アスキー」 とびっくりした。

「親指君」の愛用者カードを返送する際、キーボードは机の上の占有面積を 最小限にして欲しい、そういう意味ではMac plusのキーボードは理想 的だが、やはりテンキーも無いとビジネス用には不便なのでテンキーは別付け にして欲しいなどと書いた。

またこのコラムだったか、個人的好みで言えば「親指君」というネーミング も好きではないということも書いた。 何と今度発売のヤツは私の希望した改良点を一つ残らずクリアーしてある。 勿論私個人の意見が反映された訳ではないだろうが、それにしてもアッパレ。 うーん値段も3万円少々だし、懲りずにまた買ってみようかな(それともアス キーさん、モニターで少し安くいれてくれません?、、、などとこういうとこ ろに書いてはいけないのかな?)。

親指シフトと言えば今度発売されるSONYのNEWSにはそれを装備した 機種もあるようで大変好ましいことと喜んでいる。ついでにどこかのサードパー テイーで、SUNに繋がる親指シフトキーボードを作ってくれないかなあ。ア スキーさんどうですか。

最近はローマ字変換に慣れてしまい、強いて親指シフトの必要性を感じない のだが、日本語を打つには、やはり親指シフトの方がずっと早いし、

● 情報は極力電子化を

現在複数のドクターチームで電子カルテ開発プロジェクトを行っているが、 開発に伴う様々なデイスカッション、概要設計、プロトタイプなどはワークス テーションの上で作られ、処理され、電話回線を使ったネットワークの上でや りとりされている。従って全ては電子化されて保存され、当然、PCー98の ファイルなどとも簡単に互換がとれる状態になっている。

この間、某有名メーカーと或るシステムの共同開発に当たり、作成する文書 は極力電子化しておいて欲しいとお願いしたのだが、私にとって意外だったの は、ユーザにはOAを勧めていても、こういう面で社内は全くOA化されてい ないのが現実のようである。

それではと、これも文書のOA化では最も先進的な外資系のさる有名メーカー の開発の方に内情をきいてみると、意外や意外ここでも実際には手書きのメモ が飛び交っていて、社内の実用面ではOA化は殆どなされていない由。うーん、 そうすると私達のチームはかなり進んだ開発体制ということになるのかなと思っ たりしている。

世の中、上には上があるから自惚れるには当たらないが、とにかくこうして 全ての文書を電子化しておくと、大変便利である。色々なデイスカッションの 中に、ちょっと他の文献を引用(テキストエデイターの中でファイルからファ イルへカット・アンド・ペーストするだけで良い)したり、色々な書類から必 要部分のみを抜き出して別の書類を作成したりと情報の再利用・モデイファイ が自由自在にできるし、特に便利なのは電子メールで他へ送り、そこで再利用 したりと、大変能率的に仕事を進められることである。

● 効率的なテキスト処理

文書を電子化するメリットを更に上げるためには、効率的なテキスト処理の ツールが無ければならない。 私はこれに、日本語Emacsを使っているが複数文書を同時に扱うには大 変便利にできているし、最近アウトライン・モードを覚えて、これも大変便利 をしている(Emacsには、余りにも沢山の機能が有り、一度にはなかなか 覚えきれない。必要に応じ、少しづつレパートリーを増やしていくのが無理の ないマスター法だろう)。

アウトラインモードでテキストを書いておくと、hide-bodyとする ことによって画面にはタイトルだけが残り、文章の本体は消えてしまう。 このようにしてアウトラインを概観してから、必要なタイトルにカーソルを 移動し、show-subtreeで、その下の本文が展開表示される。中身 を見たら再びhide-subtreeで消しておいて、カーソルを他のタイ トルへ移動し、同様に中身を展開して参照できる。

これらのコマンドはキーのワンタッチにセットすることができるので、使い 慣れると大きく複雑な文章でもそのアウトラインを把握しながら作っていくこ とができる。

● 効率的なテキストの取り出し

こうして作られたテキストは、通常ハードデイスクなどに収納されるが、沢 山のテキストを効率的に管理し、必要な時に必要なテキストを即座に見つけ取 り出せることも実用上は結構大事なことで、これが面倒だと結局文書の電子化 は進まない。

Emacsの場合、補完機能(completion)というのがあって、 ファイル名などを入力する場合、最初から数文字をキーボードから入れスペー スバーを叩くと、その文字に一致したものが一つしか存在しないなら、パっと そのファイルがフルスペルに展開されるし、幾つかマッチするファイルがあれ ば、ウインドーが開いてそれらをリストアップしてくれるので、それを見て更 に続きの文字を入力すればファイル名が特定される。

複雑なファイル名でもフルスペルをタイプせずに、適当な数文字をタイプし てスペースバーでポンと展開されるのはモノグサにはまたとない機能で、これ に慣れてしまうと普通のシェルのプロンプトに対してもつい補完機能を使おう としてシェルから怒られる。

とにかくEmacsの中ではこの補完機能を使うと必要なテキストの取り出 しはかなり簡単になるが、もう一つの方法はMacでおなじみのアイコンをマ ウスでダブルクリックする方法である。これもMacの良くできたマウス環境 の下で使うとやめられない。

しかし、いずれの方法もテキストの数が増えてくると、どのテキストがどの デイレクトリーにあるかという格納場所を頭の中に入れておく必要が出てきて、 しばらく使わなかったテキストを捜そうとするとあっちこっちのデイレクトリー を開けてみて、うろうろすることになる。 これに対処する最も基本的なことは、デイレクトリーにその内容を一目で認 識させるような名前をつけ、整理整頓しておくことだろう。

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