1987.02 SUN-3 の使い勝手

わーくすてーしょんのあるくらし (2)

1987-02 大橋克洋

○ SunView によるアプリケーションの作成

より良いマンマシーンインタフェースを備えたソフトの出現を待っていても きりがないので、昨年導入した SUN-3 の上で走るウインドウ・システムや プルダウン・メニューなどを駆使したアプリケーションの作成にとりかかることにした。 清水の舞台から飛び降りるつもりで(高級車ベンツを買うようなつもりで)SUN-3 を購入したのも、 UNIX の BSD 版の上で Mac の環境が使えるというのが一番のポイントだった。

しかし、これまで4年近く UNIX を使っていたとはいえ、 システムが変わると勉強するところが多く、 ウインドウ・システムを使ったアプリケーションの作成にとりかかれるようになったのは、 導入後半年を経てからということになる。 毎度のことながら、またまたマニュアル頼りの独習なので、 本格的なアプリケーションが動き出すようになるのはいつのことやら。

現在 SunView(SUN のウインドウ・システム)に関して 詳細かつ具体的に説明した文献は少ないので、 (医者のくせに)英語の不得意な私が英文マニュアルだけを頼りに 一つ一つの機能を理解するにはかなりの根気が必要である。

○ 百の説明は一の例文にしかず

幸い SUN のマニュアルには簡単な例文が載っているのが 大変参考になった。マニュアルに関して、 いつも思うのだが説明に百言を労するより簡単な例文一つの方が どれだけ理解を助けるかわからない。そう思っていたら、 先月号に阿久津氏の SunView の記事が載った。もう少し早ければ 時間を無駄にしなくて済んだのだが、、、

仕事に使う本格的なアプリケーションにとりかかる前に、 まず SunView を理解するための勉強を兼ねて 簡単な小道具を一つ二つ作ってみた。

一つは Mac でおなじみの電卓である。 アイコンをマウスでクリックすると、 電卓のウインドウがオープンされて、 テンキーをクリックすることにより四則演算ができるというものである。 どうせ作るなら実用的にと思い、 計算結果はジャーナルプリンターならぬジャーナルウインドウへ表示するようにした。 スクロールして画面から消え去った部分も、 ジャーナルウインドウを逆スクロールさせて いつでも呼び戻すことができる。

もう一つは毎日仕事に使う道具で、 最終月経の年月日をマウスでポイントすれば、 現在の妊娠週数・日数およびお産の予定日が即座に計算されるという 「妊娠暦」である(先月号に自己紹介したように、 筆者の本業は産婦人科の医者である)。

SUN のウインドウ・システムは使い方さえわかってしまえば プログラミングは意外に簡単で、 今後しばらくはかなり楽しめそうに思っている。

○ ウインドウシステムはデカイ

SunView を使ってアプリケーションを作ると、 このようにごく簡単なものでもコンパイルすると、 どえらい大きなオブジェクトができあがるに驚いた。 考えてみれば当然で、 見かけは簡単でもウインドウ・システムをコントロールするには 膨大なライブラリーをリンクしてくるわけである。

このような方法は開発の容易さや メンテナンスのことを考えれば、 オーバーヘッドは大きいが現状では補って余りあるメリットと考えてよいのだろう。

○ ワークステーションには大きなストレージが必要

私の所で購入した最廉価版の SUN-3/50 では 目一杯ハードディスクを拡張しても 140MB。 イーサネットでディスクレスノードを一台ぶらさげると システムが大きなエリアを食ってしまい、 残ったユーザエリアはたったの 40MB になってしまう。 ウインドウ・システムのアプリケーションを作った後は、 必ず strip をかけ、さらに不要なファイルを消しておかないと、 あっという間にディスクがオーバーフローしそうになるのには参っている。 SUN の 10MB は MS-DOS の 1MB に相当するような感じと思って 頂ければよいだろうか。

ディーラの伊藤忠に聞くと「サンマイクロシステムズはアーキテクチュアを オープンにしているので、そのうちどんどんサードパーティーから 安いファイルサーバが出るでしょう」と言う。それを首を長くして待っている。 いずれにせよ、ワークステーションとして使うには大きなストレージの確保が 絶対に必要というのが、現在の感想である。

最近は PC-9801 に接続する 100MB 以上のハードディスクなども ようやく登場したようなので、 どなたかこのシステムで 100MB 以上のディスクを かなり安いコストで使える方法をご存知あればお知らせください。

○ NEWS のニュース

SUN-3 を購入して間もなく、 SONY から NEWS が発売されてガックリ来た。 値段は SUN より格段に安く、 SUN を目標に開発されただけあって必要な機能はほぼ満たしている。

しかも現在使っている SUN で最大のネックであるディスク容量の拡張性と、 日本語のサポートを解消している。唯一不満な点は SUN の特徴の一つである 大型ディスプレイを持たない点であるが、 NEWS の開発チームのことだから いずれこれも解消されるに違いない。

私の所では開発マシンとしての SUN の座は当分揺るがないと思っているが、 開発したアプリケーションを本格的に仕事に使うためには どうしても日本語とストレージの問題をクリアしなければならない。 現在 SUN-3 上で走る日本語システムもあるにはあるが、 変換のたびにファンクションキーへ手を伸ばさなければならず、 とても使い物になるような代物ではない。なにしろ私の所は SUN ワークステーションを OA に使おうというのだから。

ATOK5 を SUN にのせてもらえれば大助かりなのだが、 だれか「一太郎」を SUN へ載せてくれる人はいないものだろうか。

○ Mac の開発環境

一方、もう一台の愛機 Mac の上では もっぱら MacPaint などを使っている。 Mac のソフトの勝手の良さに、 自分でアプリケーションを組もうなどとは毛頭思わなかったのだが、、、 というより Mac 上のアプリケーションは最良の環境だが、 その開発環境は最悪と聞いていたのが本当の所かもしれない。 最近ようやく Mac の上でまともに使える開発環境が出現したと聞き、 Lightspeed C を手に入れた。

これまた英文マニュアルしかなく、 現在悪戦苦闘している。 もう一歩というところでコンパイルしたオブジェクトが走ってくれない。 しかしとにかくわかったことは、 どうも Mac のウインドウ・システムも SUN のそれも、かなり似ていて扱い方も同じようだというのが現時点での感想である。ルーツをたどれば元は同じなので当然のことかも知れない。

さすが Mac と思うのは、 コンパイルからライブラリのリンク、 UNIX の make に相当する過程のほとんどをマウスのクリックだけでやってのけることだ。 これは使いこなせるようになれば、やめられない環境だなーと思う。

現段階ではまだまともに操れるところまで行っていないので、 もう少ししたら次の段階のレポートをしたいと思っている。 SUN の開発環境にもこのようなものが早く現れて欲しい(願わくば ディーラから提供される目玉の飛び出るような高価なものではなく、 パブリックドメインソフトウエアで、、、 というのはちょっと虫が良すぎるかな)。

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