1991.08 待ちに待った NeXT の日本語OS

ドクター、ワークステーションと暮らす (4)

1991-08 大橋克洋

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NeXTを購入して約2年弱、ようやくOS2.1Jが手に入り日本語OSで NeXTをドライブできるようになった。CPU も68040にグレードアップした し、その成果やいかに。わくわくして新しいOSをインストールした結果をリ ポートしよう。

○ FEPの出来栄えやいかに

まず一番気になる日本語表示を見ようとエデイターを立ち上げて日本 語を書いてみる。うんうん、フォントも奇麗だし、Clareというキヤノン製の FEPも結構頑張って作ってある。当然のことながらMacの漢字Talk初登場とは比 較にならない出来栄えである。これなら当面は Wnn をインストールする必要 もなさそうだ。最近のFEPはどれも基本的なキーの扱いが似ているので、初め てのFEPでもマニュアルを見ずいきなり打ち始めることができる。

キーバインドもモデイファイできるのでemacs風に設定できて便利だ が、バインドできる機能はあらかじめ決められていてemacsのように何でも自 由に設定しなおすことができないのは不便だ(emacsと比較すること自体が酷か も知れない)。

特に辞書登録機能がショートカット・キーにバインドできないのは不 便。新しい辞書を使う場合、最初はユーザ辞書が空なので辞書登録の機会が多 い。しかし登録の都度メニューから選ぶのではなく、ショートカットで辞書登 録ができるように是非して欲しい。

○ エデイターの使い勝手は

日本語の使えるeditというエデイターが標準装備されている。ちょっ と面白いのは「構造化」という機能があって、これを選択するとemacsの outline-modeのようにタイトルだけを残して本文を圧縮して見えなくしたり元 通りに展開したりできる。通常の文章を書いている時でもこれを上手に使うと 便利そうだ。

しかし、これはあくまでもエデイターなので、フォントのタイプ・サ イズ・スタイルを選んでも部分変更にとどまらず全文が同じフォントに変更さ れてしまう。折角フォントが指定できて奇麗に出力できるプリンターがあるの だから、Macのようにマルチフォントのテキストを作成したい。MacのDTPも最 初はお絵描きソフトの上で色々なフォントを使って文書を作ったのが初めだと どこかで読んだことがある。

幸い標準添付のソフトの中にお絵かきソフトのDrawが日本語化された JDrawというのがある。これを上手に使うとマルチフォントは勿論、罫線も書 けるし、絵を張り付けたりレイアウトを変えたりも自由自在なので簡易版DTP として使える。ただこのような方法で作成したものは、単なるテキストファイ ルとは違い余計なグラフィック情報などが入っているので、文章として再利用 する場合にはやや扱い難いのが難点である。

いずれにせよ、早いうちに本格的なDTPやお絵描きソフトが、比較的 安い価格で出現することを望んでやまない。

○ sunとNeXTをNFS

うちではsun, Mac,PC-98などがすべてEthernetにぶら下がっている。 さっそくNeXTをここに接続してみよう。すでに物理的には接続してあるので、 ソフト的設定だけである。sunにおける設定経験に比べるとあっけない程で、 極めて簡単に済んでしまった。ターミナルウインドーを立ち上げてrloginして みると一発でログインできる。

それではNFS(Network Filing System)を設定してみよう。ところがどっ こい、こいつに結構手間取った。というのは、NeXT相互を接続するには NetInfoというのを使うが、sunなど他のものと接続するにはこれを使わない。

従ってNFSでもsunと同様/etc/fstabに設定を記述するのだと思ったの だが、そうではなくここではNextInfoManagerを使わなければいけないのだっ た。ともあれ、無事にNFSできてしまえばしめたもの。NeXTの中からsunの中の ドキュメントが自由に扱えるようになる。NeXTのWorkspaceManagerは大変使い 勝手がよくsunの中にあるものを捜すにも、NeXTで捜したほうが快適である。

○ ものすごく便利なDigitalLibrary

sunの上には書きためた色々なドキュメントが保存してある(このよう な雑誌の原稿もふくめて)。このドキュメント類を入れたデイレクトリー(NFS であたかもNeXTのデイレクトリーのように見える)を試しにDigitalLibraryに 登録してみた。

やり方は簡単で、単に登録したいデイレクトリーのアイコンを DigitalLibraryまでひきづっていって放り込むだけでよい。登録されたデイレ クトリーのアイコンをダブルクリックすると、パネルが開き「インデックスを 更新する」というボタンがあるので、それをクリックすればデイレクトリー下 にある全文にインデックスを付けてくれる。

あとは検索する単語を指定してやれば、そのデイレクトリー下にある 全てのドキュメントの中から、検索キーに一致した単語を含む文書が全てリス トアップされる。そして、リストのひとつをクリックすれば文書が開いて検索 キーに一致した単語にカーソルが飛んでくれるというしかけである。

雑文を放り込んだフォルダーから検索キーに一致した文書だけをピッ クアップしてくれるシステムをMacの上に作ろうかと思っていたのだが、誰も 同じことを考えるとみえてNeXTではこれを標準装備しているところが凄い。

このようにNeXTは、むしろコンピュータと縁のない事務系の人達にとっ てこそすばらしいコンピュータであろうと思う。UNIXを意識せず使えるUNIXマ シーンということでも他と一線を画する。

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