ORCA の実験に参加して

ORCA プロジェクトに望むこと

2002.03 東京都医師会 医療情報委員会副委員長 大橋 克洋

この講演を行った昨年秋の時点に比べ ORCAは格段に安定し機能も充実して きたが、まだユーザインタフェースなどの面で改良の余地が多分に あると考えいている。

今回はORCA の今後の発展への願いを込め、長年電子カルテを開発 してきた立場、またエンドユーザの立場から、ORCA の目指すべき方 向性について私見を述べることとしたい。また講演で述べなかった いくつかの点についても補足したい。

なお ORCA がどんなものであるかについての具体的説明は、他 の講師の方からあると思うのでここでは省かせていただく。

○ 現状報告

歯に衣きせず感じたままを述べれば、ユーザインタフェースは か なり昔のオフコン当時のもので極めて使いにくい、現場で使うには まだかなり非能率というのが第一印象である。ユーザインタフェー スは抜本的に見直し近代的なものにしない限り、使いやすくならい ないであろう。

もっともこれは ORCA に限ったことでない。従来のレセコンの多 くについて言えることであり、それが17年前に著者を電子カルテ 開発に走らせた動機のひとつでもある。現在のソフトウエア技術を 使えば、もっとわかりやすく能率的に入力できるインタフェースが できるはずである。

一方で開発にたずさわる方々のご苦労と、その成果が着実に上が りつつあることはよく理解している。最初から多くを要求するのは 酷であり、 基本的なところから固められることを期待している。

従来のレセコンに慣れた現場では、ユーザインタフェースについ てもこんなものという感じでかなり使い込んだ施設もでてきたよう である。すなわち、レセコンのエンジン部分はかなり実用化が進ん だと考えてよいのではないだろうか。

ここで苦言を呈したユーザインタフェースや使い勝手については 、 後述するコンポーネント化が実現すればどのようにでもなる。現 状ではまったく悲観していない。

○ ORCA によりもたらされるもの

  1. オープンソース(設計図公開)によるメリット

    1. 有用な技術を皆で使える

    2. 有用な技術が特定のメーカーに占有されず、皆で共有できる。

    3. 開発コストが下がる

    4. メーカーごと開発費をかける必要がなくなり、コストが下がる。

    5. 進化が早く使い勝手がよくなる

    6. 従来の数倍の人間の知恵が改良に反映され、ソフトウエアの進化 が早くなる。多くの厳しい目で磨かれ、使い勝手が良くなる。

  2. 日本医師会リーダーシップによるメリット

    1. メーカー主導からユーザ主導へ

    2. 従来のメーカーによる「ユーザの囲い込み」が進化を妨げ、医療 への経費を圧迫してきた面は否定できない。これが改善される意義 は大きい。

    3. また、国内の多くのレセコンがオープンソースの良い影響を受け る。これはレセコン・メーカーにとってのメリットも大きい。

    4. 電子カルテの普及への引き金の可能性

    5. 電子カルテとのデータ互換性の仕組みの普及と、それが電子カル テの普及への引き金になる可能性がある。

以上のような効果は、レセコンのユーザである日本全国の医師の 団体である日本医師会だからこそ挙がるものであって、国や企業が やっても効果は期待できない。

○ ORCA の進むべき方向性

レセコンは、従来のような入力装置・計算部分・出力装置一体型 だけでなく、オーデイオ機器のように各部分が独立したコンポーネ ント型があるべきと考えている。医療のように複雑な世界で便利に 利用出来るシステムの実現には、このコンセプトは重要である。

医療システムにあてはめてみると、電子カルテ、医療で必要ない ろいろな周辺ツールやME 機器、データベース・サーバ、診療費計算 サーバなどのコンポーネント(部品)が存在する。

これらを「標準化された接続方法」で組み合わせることができれ ば、各施設に適した部品を集めてシステムを構成できるので、医療 は極めて効率化され、コストもずっと安くあがる。

メーカーは自分の得意分野に集中し、不得意分野を抱え込む必要 がないので、 コストダウンだけでなく製品の質もずっと高まる。

このような考えで ORCA が計算サーバとして位置すれば、ネット ワークを介して色々な電子カルテシステムやその他のシステムと連 携し、全体として効率的で有機的なシステムを構成できる。比較的 安価に得られるメリットも大きい。

現在のORCAのユーザインタフェースも、このような連携機能で一 挙に解決される。電子カルテ側で入力を行い、ORCA が得意の計算機 能を分担できるからである。ORCAはこの中で「計算サーバ」として 重要な位置を占める。 計算ロジックに注力し、ユーザインタフェー スは 他に任せてしまう割切りも必要ではないかと考えている。

今後いろいろな電子カルテが市場にでてくるはずであり、ユーザ は自分の施設にあったものを選び使うべきと考えている。そうなれ ば、自分の手慣れた使いやすい環境から ORCA の機能を利用するこ とができるようになる。

○ いつ ORCA を導入すればよいのだろうか

会員の皆様の関心は以上述べたような技術的部分よりも、具体的 に自分の施設に ORCA を導入すべきなのか、もしそうだとすればい つ導入したらよいのかという点であろうと思う。このあたりについ て私見ではあるが補足したい。

従来のレセコンでとりあえず不満がほとんどないのであれば、さ し当たり ORCA 導入は考えなくてもよいであろう。ただし将来 ORC A が発展し、ORCA ならではの付加価値が大きくなった場合は買い換 えを考える時かも知れない(日本医師会としては単なるレセコンとし てだけでなく、医師会や会員をつなぐネットワークとしての機能を 重視している)。

ORCA が実用化されても、ある面で従来と何も変わることはない。 ORCA はオープンソース(設計図を無償公開)であるが、自分でそれ を元にコンピュータを購入し組み立て動かすことのできるドクター は稀であろう。ほとんどの場合、メーカーが ORCA を実装したシス テムを用意、販売、保守するということで従来と何も変わりはない 。変わるのは既に述べたようなことである。

ということで、積極的に使ってみたいのであれば、レセコン・メ ーカーやベンダーから ORCA 仕様のレセコンが提供されるようにな った段階で導入してもよいだろう。ただし、成熟するまで1,2年 待つというのも一つの考えである。

○ おわりに

ORCA に期待するところは大きく、構想通り機能すれば日本の医療 への貢献度は大なるものがある。

一方で、レセプトの算定方式ほど複雑怪奇なものはない。 そのよ うなシステムを完全なものに組み上げるには、多くの試行錯誤が必 要で容易なことではない。電子カルテを開発してきた立場からみて 、ORCAの安定稼働の時期は、当初の目標を少なくとも2,3年は上 回るであろうと推測してきた。嬉しいことに開発チームの奮闘によ り、私が考えたよりスムースに熟化は進んでいるようなので、私の 予測も前倒しの形ではずれるかも知れない。

もっとも大切なのは、その間決してこのプロジェクトを見捨てる ことなく、 皆で暖かく支援することである。それを維持できさえす れば、 必ず充実した内容を伴うようになることは間違いない。 誰 もがそれぞれに納得する好みのシステムで快適に仕事ができるよう になる。