2019.03 前進しないものは後退する

わーくすてーしょんのあるくらし ( 313)

2019-3 大橋 克洋

早朝散歩:「すずめのお宿」の竹藪

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◯ 前進しないものは後退する

現状維持しようとすれば、常に前進している必要がある。でないと、いつの間にか後退していることに気づきます。何もしなくてもプカプカ水に浮かんだままのものもありますが、常に手や足を動かし顔を水面に出しておく必要があったりします。百年以上の歴史を誇る老舗の味を保つには、常に新しいことに挑戦していく必要があるもの。外見上は何も変わらないように見えて、水面下では結構努力が必要なことが多いものです。

仕事をやめて2年目に入り、ほとんど書斎の椅子に座りじっとしている時間が多くなったため、身体の動きが鈍くなったことを感じます。これはヤバイなと。室内でも身体を動かせるよう、書斎を片付け中央に余裕の空間を作ったのに、なかなかこれを活用することが少ない。特に寒い冬場は椅子から離れるのが億劫だったりして、、

そのツケが回ってきて、身体を動かしても関節部分の動きがモッタリ、爺(じじい)の動きに近づいている。結局「使わないものは錆びる」を実感、何とかせにゃ。毎朝の早朝散歩で毎回平均6,7キロ歩いていますが、それだけではまったく駄目ということですね。

ということで、ここに公開し自分の尻をひっぱたいているわけです。

◯ 今月の歩術

そんなことで、今年に入ってから毎月200キロを目標に毎朝努力しています。人間というのは習慣性の生き物で(人間に限らないでしょうが)、こうしているうち短距離で散歩を済ませるのが物足りなくなってきて、自然と距離を稼げるようになってきました。

距離は延ばせるようになったものの、歩行速度は以前よりかなり落ちているように思えます。2年前くらいまでは歩いていて他人に追い抜かれることは少なかったのですが、この頃は小学生にも抜かれたりします。色々考えてみると、脚を動かす速度が落ちただけでなく、歩幅も落ちたのではないかと気が付きました。これまた爺の証拠。まずいな。

ということで、努めて歩幅を広げようとするのですが、股関節がやや強張ったような感じで、これはちょっとトレーニングの必要があるぞ、、今月で77歳、喜寿を迎えることになります。自分では若いつもりでも傍から見れば立派な爺、でも頑張りたいぞと、、

◯ え、なんでアダルト・コンテンツのアラート?

この Web サイトを開こうとすると「ページにアダルト・コンテンツが含まれる」とアラートが出るようになりました。そのようなコンテンツ載せていないはずなのですが、何で?

可能性として考えられるのは Pinterest のページのどれかなのかなと思っています。Pinterest は、自分の好きなものを自由にリンクさせ貼り付けて自分用のページを作れる、いわばスクラップ・ブックのようなもの。ここにアダルトなコンテンツを載せているつもりはないのですが、現在そこに貼り付けられている画像の数は万を超えているので、その中のどれかが引っかかっているのか、あるいはリンクを掘っていくと無限に深くなっていくのでその先でアダルト・コンテンツに行き当たることはあるはず、そんなことがアラートの原因なのかなあなどと考えていますが私には解りません。

ある時期からこのアラートが出るようになったのは、Google で行っているチェックが厳しくなって以前はスルーしていたものも引っかかるようになったのではないか、などと考えています。自分ではこんなアラート気にしていないのですが、読者の方の中にはこのアラートで引いてしまう方もあるのではないかなあと、、

◯ 日本医師会医療情報システム協議会

今月はじめの土日、日本医師会主催の「日医医療情報システム協議会」に出席してきました。全国医師会から IT に関するテーマで発表を行うシンポジウム形式のものです。医療情報学会もそうですが、最近は余り面白い演題がなくなって昨年は初めてパスしたのですが、懇親会で昔の知人の顔を見たいということもあり、今年は参加しました。

今までは日医会館で開催していましたが、一般向け公開で行うということで収容人員の多い「文京シビックホール」で開催されました。ここは地下鉄「後楽園」駅直結で便利ですし、席もぎっしりでなく余裕があって快適でした。

講演はオンライン診療やAI活用などのテーマでしたが、私にとって目新しいものはありませんでした。やや興味を引いたのは「胃カメラでのAIを使ったガン早期発見」。専門医でも見のがすような胃壁の小さな変化をAIは速攻で捉えてしまうのは凄い。このためにはAIに沢山の胃がんの写真を見せ学習させておく必要があります。AIには大量のデータを食わせることが必要。中国では街頭の監視カメラで人民を監視し、特定の人間を顔認識で捉えてしまうというニュースをネットで見ましたが、これと同じ技術ですね。

後述する特別講演の坂村健先生によれば、このようにAI技術が爆発的に普及したのはほんの5年前からなのだそうです。現在ではそれらAI技術がオープンなものとして公開されているので、AI技術の利用がどんどん容易になっているのだとか。へえ〜、それは知らなかった。javascript で電子カルテなどのアプリを書いていて、公開されたライブラリーの利用は極力避け自作ライブラリーだけ使うよう心がけてきたのですが、もうそろそろ そんな時代は終わりつつあるのかなと、、

◯ 坂村健先生の講演に、まったく同感

今回のシステム協議会、一般演題に興味を引くものはありませんでしたが、坂村健先生の特別講演は私にとって凄く面白いものでした。

坂村健先生といえば、30年ちょっと前に私が電子カルテ開発の構想を始めた頃、国産OSのTRONを発表された方。私も東芝製ハンドヘルド・コンピュータにTRONを移植してもらい、しばらく使ってみたことがあります。

TRONの考え方はなかなか面白いものでしたし、よく出来ていると思いましたが、私にとって残念だったのは快適な開発環境が整っていないことでした。この機械語のような環境でアプリを作るのは、とてもじゃないがやってられないなと。もう一つは、当時UNIXを使っていて必須になっていたネットワーク環境も当時のTRONには整っていませんでした。

しかしTRONは機械への組込みOSとして現在も生き残っており、最近打ち上げられた宇宙探査のハヤブサ2にもTRONが載っているとのことでした。

でTRONの話はさておき(坂村先生の話にもTRONはまったくでてきません)、坂村先生の話は私が今まで考えてきたこととまったく同じものばかり、とても感激しました。それらをピックアップし、要点をここに残しておきます。

・Cloud Computing により高価な装備を自前で持つ必要がなくなった

このコラムでも2010年10月「クラウドへのシフト」で述べています

・オープンの意味

何時でも、何処でも、誰でも、何にでも、公開されたルールに従ってアクセス可。

私の電子カルテNOAも誰でも自由に利用できるよう2009年からオープン・ソース

として公開しています。

・「オープン」マインドにより世界はますます加速する

色々なアプリのソース公開で、誰でもそれを利用できるようになり、それが進歩を加速

これは30年以上前、私が感激しつつ浸っていたUNIXコミュニティの世界の再現

1990年2月「インストールは力仕事」で公開されたソースの利用を書いています

・AIの劇的進歩も「オープン」の力

AI技術のソースの多くがオープンになっており誰でも利用できる

それを使って開発されたソースが再びオープンにという良循環

・Google のミッションは「AIの民主化」

AI技術を基盤から誰でも使えるようにすることが Google のミッション

・オープン性において日本は出遅れ

米国で新しいものを始めるには「やってはいけないこと」だけ決め後は自由

日本では「やっていいこと」だけ決め後は原則「やってはいけない」

日本はクローズ社会、米国のようなオープン社会には何歩も遅れをとる

そのため日本では物事が進展し想定外のことが起こると停止してしまう

これは2011年5月に書いた「オプトイン・オプトアウト」の考え

・オープンなAPIの確率

何にでもオープンAPIが標準実装されていれば、医療機器もすべてネットに繋がる

1998年7月「すべての医療機器はコンピュータ周辺機器...」に書きました

・インターネットの世界では「弱い標準化」が機能する

がちがちの「標準化」では途中で腰砕けになってしまう

ほどほどの「標準化」こそが現実的で物事が前に進む

2008年7月で「電子カルテ標準規格なんて必要ない?」と書いています

・統一コードは非現実的、紐付けによる「相互運用性」が大切

がちがちの「統一コード」は結局実現まで辿り着けない

夫々に使い慣れたコードを、紐付けにより相互運用するのが現実的

・オープンなIDでモノの同定こそがIoTの基本

皆が使えるIDがあってこそ無駄な労力や時間を大幅に省略できる

・連携のためのオープンな相互運用プラットホーム

紐付けして運用するためのプラットホームがあると効率的

・セキュリティとガバナンス

不正に使わせないことがセキュリティ、適切に使わせることがガバナンス

この辺のことは1996年6月「医療とセキュリティ」で述べています

・オープンIDによるオープンアクセスとガバナンス管理

IDはオープンであっても、ガバナンス管理がないと不正使用につながる

・ベンダーがユーザ情報を管理しユーザが自らの情報とその提供先を管理

自分の個人情報は自分で管理、ベンダーが知るのはユーザ名のみ

2004年8月「電子健康ノート」の最後の方で述べています

・プライバシーと公共の概念の再構築を

ネットワークでは事業者がユーザ個人情報を受取り利用するのは当然の時代

オープンデータ化に向けた社会通念の再構築へ

・日本の課題はクローズ指向、それをどうするか

日本の有料道路では現金も扱えるよう人員配置その他のコストが必要

日本のETC を取り入れたシンガポールでは全自動車にETCを義務付け大幅に簡素化

このようにオープン化を国全体で法制化することにより無駄な税金は激減する

・米国の My Data Initiative

自分のデータを自分で主体的に管理しデータを標準化すること

そこに大きな行政的可能性を見出している

簡潔に書いたので舌足らずのところは多々ありますが、以上はこのコラムでも度々書いてきたことでもあり、かねてからの私の考えと一致するもの。その他にも述べられた以下のような内容にも大いに納得。

・AIのためのIoT

AIの情報源として各種情報の大量なデータが必要

これを実現するのが「モノをネットワークに接続する」IoT

・AIがユーザになる時代

IoT により得られる多種多様の大量のデータの利用者は人間の前にAI

・日本におけるイノベーションの誤解

技術面と最終利用イメージばかり注目され

社会に実現するため必要な制度面での改革が行われない

すなわち技術が完成しても社会で活用される場面がない

◯ インターネット初期からあったIoTの考え

IoT とは Internet of Things すなわち「モノのインターネット」。様々なモノがインターネットに接続され情報交換することにより相互制御する仕組みを言います。これによるデジタル社会の実現を目指すものです。

インターネットが一気に広まりWebシステムが使えるようになった初期の頃、面白い映像を見つけました(当時は動画でなく写真でしたが)。

Web ページにコーラか何かの自動販売機の写真が貼ってあります。どこの大学か忘れましたが、米国のどこかの大学生協に置いてある自販機で、その時点その時点でのコーラの販売数がわかるようになっているものでした。これは写真がネットに上がっているだけで、自販機が直接ネットに繋がっているわけではありませんが、まさにIoTの考えだったと思います。

もっとIoT直結なのは、日本のインターネット稼働に大きな力を尽くされた(当時は東京工大におられた)村山純先生が「IPの数はじきに足りなくなっちゃうよな〜、そのうち冷蔵庫・洗濯機・その他あらゆるものがネットに繋がってIPを消費するはずだから」と言われていました。インターネットがまだ世の中に普及する前、大学・企業の研究部門や私達好きモノがインターネットの実験をやっている頃でした。

◯ オープン・マインド

坂村先生はオープンの利点について繰り返し強調されていました。これも私とまったく同じ考えです。電子カルテNOAをハードウエアやOSに依存することなく誰でも何処でも何を使っても使えるよう Web アプリにしたこと、オープン・ソースとして公開したこと、電子カルテを基本部分と周辺ツールに分け共通APIにより異なる製品とも自由に相互接続する仕組み、自前HDではなくクラウドの活用(医療データではまだ行っていません)、などなど枚挙に暇はありません。

講演では、医療機器がネットに繋がる仕様になっていないので、折角収集された医療データも電子カルテなどに集約して使うことができないことなどが述べられました。これは1987年1月のこのコラム1回目の「ハードとソフトの互換性」で述べていたことと同じ話です。当時はプリンターなどの周辺機器をメーカーごと囲い込んでいて、他メーカーのものは繋がりませんでした。ところが UNIXを使ってみると、設定ファイルをちょっと書き直すだけでどの周辺機器も簡単に繋がってしまうことに感激しました。

やがて診療室で超音波断層装置や心電図などを使う時代になると、それらがコンピュータに接続できないことを嘆くようになりました。これはメーカーにそのような発想さえあれば簡単に実現することなのですが日本のメーカーには囲い込みの頭しかないため、いくら叫んでも実現されませんでした。坂村先生も同じことをおっしゃっていました。

◯ マイナンバーと医療ID

国ではマイナンバーカードに保険証機能を持たせることを考えているようですが、日本医師会では患者さんの個人情報を守るため、これに頑なに反対してきました。マイナンバーでは個人の医療情報など紐付けされてしまう危険があるので、マイナンバーとは別の医療IDを作り運用すべきとの主張です。

私はこの考えには最初から首を傾げてきました。どんなに別のIDを作ろうと今の時代それらを紐付けすることはAIを使えば造作もないこと。別ID運用にかかる労力やコストを考えれば、最初から統一されたマイナンバーを使ってしまった方がずっと効率的で大幅に無駄なコスト削減をできると確信するからです。

ここがまさに坂村先生の講演の中でも繰り返し主張されていた「日本が変わるべきクローズな考え」と思います。確かに悪いことをする人間はいますが、それは統一コードを使おうと個別コードを使おうと防げるものではありません。防ぐならコード云々ではなく、コード運用上での不正利用防止策です。この辺り、医師会員の一員として大きな声では言いにくかったことですが、坂村先生の話を聴いて自分の考えが間違っていなかったことを確信。

◯ IDカードはスマートフォンで扱いたい

日本医師会では医師資格証を発行しており、日医医療情報システム協議会でも、より多くの会員が医師資格証を持つよう推奨されました。資格証はキャッシュ・カードと同様のプラスチック・カードで顔写真入りの身分証明となり、ICチップが埋め込まれ研修会などでの受付業務が効率化されます。またHPKI電子証明書として使えることもメリット。

最近はキャッシュ・カードの他にも、免許証、マイナンバー・カードなどなど、多数のカードを持ち歩かなければなりません。すべてのカードを持ち歩こうとすると分厚いカード入れになってしまいます。

このような状況になると、私としては是非にと希望することがあります。それはこれらのカードをモバイル・スイカのようにスマートフォンで扱えるようにして欲しいということ。そうすればスマートフォンひとつで全てのカードを扱えるので、ポケットが無駄に膨らむこともなく非常に便利になります。

そうなるともちろんセキュリティの心配や、スマートフォンを落とすと困るという問題があります。スマホを落としてもカード原本はあるので、使えなくなるということはありませんね。セキュリティの問題を別にすれば。

スマートフォンで扱うかどうかはユーザの意思で自己責任で行えるようにしておけばよいでしょう。世の中が是非このような方向に進むことを切に望んでいます。

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これは日々の生活で感じたことを書きとどめる私の備忘録です