2001.09 SeaGaia meeting 2001

わーくすてーしょんのあるくらし (45)

2001-09 大橋克洋

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大変だった gateway(インターネット向け外部サーバ)再構築騒ぎ も一段落して、ようやく再び電子カルテ WINE の開発に勢力を向け られるようになりました。 恒例の電子カルテ研究会年次ミーテイング SeaGaia 2001が、今 年も南国宮崎のリゾート地 SeaGaia で開催されました。美しいリゾ ート地に立派なホテルや国際会議場をそなえ、緑の中に点在するコ テージに宿泊し夜を徹して議論できます。会場も豪華でインターネ ット・リーチャブルで、またとない環境です。

歩くのが趣味の私にとって、会議場とコテージ間の遊歩道を回遊 バスに乗らず、朝早くあるいは涼しい夜風の中、緑の草木を見なが ら20分ほど歩くのが楽しみなところでもあります。 SeaGaia は数年前から、経営不振を噂され存続が危ぶまれるとこ ろですが、他の企業が肩代わりして運営は継続されています。日本 全国を探しても、これほど条件のそろったところはまずない、と思 うので今後が心配ではあります。

今年の SeaGaia meeting は5月31日(木)、6月1日(金)の 2日間でしたが、その前日30日(水)に MedXML コンソーシアム の Programmer's camp が、そして後の6月2日(土)には電子カル テWINE(高橋版)の User's camp がありましたので、全部に出席する と4日間を通しての長丁場となりました。

○ MedXML programmer's camp

MedXML コンソーシアムとは、電子カルテで扱われる医療情報を施 設間でやりとりするための交換規約のひとつ MML(Medical Markup Language) について研究・開発などを行うことを目的とした組織で す。

昨年から日本医師会で開発の始まったORCA(ネットワーク対応のレ セプトコンピュータシステム)プロジェクトでも、レセコンと電子 カルテ間を接続するための交換規約として MML の中のひとつのモジ ュールである CLAIMが採用されました。現状ではそのような目的で 研究・実用化が進められているものとしては、CLAIM しかないため と思われます。

Programmer's camp には、MML を実装しようとする色々な施設の メンバーが集まりました。宮崎医大の荒木先生からの逐一の解説に 続いて、いろいろな質問や意見交換をするという形式がとられまし た。昼過ぎから始まったミーテイングは、夕食をはさんで会場の閉 鎖されるギリギリの夜遅くまで、和やかにかつ熱心に続けられまし た。参加メンバーにとっては疑問点の解消や、新知識の吸収など、 実り多きものだったと思われます。 MedXML は今後非営利組織 NPO として登録し、医療の場へより良 いものを提供すべく活動を続けていく方向になりそうです。

○ SeaGaia meeting 2001

翌日から2日間にわたって開催された SeaGaia meeting の今年の メインテーマは地域医療における電子カルテの利用です。昨年の森 首相の「IT化」政策により、経済産業省などから地域医療をIT化す るために大きな予算がでました。演題はこれに関連したプロジェク トが多かったようで、今回は私どものような診療所ベースでの話題 は余りありませんでした。

以前からこのコラムでも書いたと思いますが、「電子カルテの発 達段階においては、小回りの利く診療所における電子カルテの発達 が大きいが、いずれスタンダードが決まってくれば、圧倒的な資本 力とマンパワーでまさる大規模施設に話題の主体は移ってゆくであ ろう」と予測してきました。

私の予測通り、この1,2年を境にその変化が現れはじめたよう に思います。 私が座長を仰せつかったセッションも、地域でのセンター施設と 周辺医療施設との連携を主体とした事例でしたが、ほとんどの病院 がまだ電子カルテを導入して2年以内ということでした。

このような多施設間の連携を行うためには、電子カルテ研究会発 足当初から検討されてきた「診療記録の交換規約」が重要なポイン トとなってきます。やはり今後もっとも頭を悩ますことになるのは 、セキュリテイーのことであろうと考えています。当面このあたり は頭を柔軟に保って運用することがコツでしょう。

○ WINE user's camp

電子カルテWINE には、大橋版と高橋版があります。どちらも同じ 部品(MacOS X 上の Framework と呼ばれる Object 指向開発環境ラ イブラリー)を使っていますが、それらで組み上げたユーザインタフ ェースはまったく異なるものです。 WINE のネーミングや開発開始時期は大橋版が先だったのですが、 最近は高橋版が主流となっています。このため、私は自分の思うよ う存分に開発を進められるというメリットを得ています。

今回のミーテイングは残念ながら帰りの飛行機の時間の関係があ り、私は朝9時から1時間ほど大橋版のプレゼンテーションをした 後会場を後にしました。その後ミーテイングは、WINE のインストー ル大会に始まり、プロジェクターで投影された WINE の動く画面を みながら、夜遅くまで熱心に続いたようです。

今回は、発売されたばかりの iBook を誰かがもって来るに違いな いと思っていましたが、SeaGaia meeting では遂に目にしませんで した。しかし、こちらの会場では持参した女性を見つけることができ ました。なるほど女性が持ってもぴったりのデザインですね。 高橋版WINEは最近急速にユーザを増やしています。今回も20名 前後が集まったでしょうか。私も顔見知りのかなりのパワーユーザ も数人出席しており、今後の発展が期待されます。

○ 大橋版 WINE

SeaGaia meeting でデモするために、もっと GUI を改良し、つい でにチューンアップもしようと、meeting の2週間前に一念発起し 、大橋版 WINE を最初から作り直しました。 といってもすでにしっかりした部品群がそろっているので、最初 から作り直したにもかかわらず、2週間でまったく新しいWINE がで きあがりました。Object 指向開発環境を使い始めてから10年、よ うやくそのコツをのみこみ、再利用に向けて効率よい部品作りがで きるようになってきたということです。

こうして一度バラし再構築してみると、以前書いたコードの中に いくつかツギハギで効率の悪い箇所のあるのに気付き、綺麗に書き なおすことができました。気分もさっぱりしましたが、WINE 自体が 見違えるようにテキパキ動くようになり、とても気持ちよく診療が できるようになりました(まだ2,3遅い部分もありますが)。

今回の大改装にはもうひとつ目的があります。大橋版WINEのコン セプトのひとつが、「電子カルテはユーザごとに使い勝手を自由に カスタマイズできるべき」ということで、従来もそのような仕組み になってはいたのですが、かなり細かい設定ができるようになって いるので、実際にカスタマイズしようとすると結構複雑でわかりに くいものでした。

そこで今回は、ぐっと簡略化することに意を注ぎました。ユーザ がレイアウト設定文を書き換えることにより、WIINE のレイアウト を自由に変えることができるようにしました。このレイアウト設定 文書は XML で書かれていますので、XML Editor で編集することに より細かい部分まで比較的簡単にカスタマイズできます。 使ってみるとこれはかなり便利で、受付事務用にまったく異なる レイアウトの電子カルテを作ってみましたが、ほんの30分ほどで できあがりました。これなら初心者でも提供されたレイアウトを元 に、自分用にカスタマイズすることができるでしょう。

○ 最近の MacOS X 環境

MacOS X 正式リリースから2ヶ月ほどを経ましたが、その後2度 ほどインターネットによるソフトウエア・アップデートがあり、か なり軽快に動くようになってきました。 標準添付の日本語入力環境「ことえり」は辞書があまり賢くなく 不便でしたが、MacOS X 対応のATOKが正式発売となったので、こう して原稿も快適に書けるようになりました。

ただ、時々アプリケーションが立ち上がる途中で凍り付いてしま ったりと、MacOS X にはおかしな挙動もあるようです。まだ OPENS TEP 時代の安定性には届きませんが、OS 9 以前と比較すればずっと 安定していると言ってよいでしょう(NeXTSTEP、OPENSTEPの頃、一 年中電源は入れっぱなしでしたが、アプリが死んだりOS が落ちると いうことは、停電以外まずないという抜群の安定性を誇っていまし た。この血を受け継いでいるので、これからが期待されます)。

ぼつぼつと MacOS X 対応のフリーウエアも出はじめました。メニ ューバーの時計に時刻とともに日付表示がないのが仕事をしていて 不便でしたが、wClock というフリーウエアと入れ替えることにより 解消しました。

ターミナルのウインドーを半透明にするフリーウエア TinkerToo l を本日入手しました(このツールでは他にもいろいろな設定がで きます)。どんな利点があるのかなと思っていましたが、何かを参 照しながらターミナルでコマンドを打つ場合、参照するテキストの 上にターミナルを重ねたまま、下に透けて見える文章を参照しがら 使えます。なるほど狭い画面で仕事をするには良いアイデアと思い ました。WINE でもこのアイデアを生かせるところはないかと思って います。 いずれのツールも、検索エンジンを使って探せばすぐにみつかる と思います。MacOS X お使いの方は、お試しください。

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