2004.08 電子健康ノート

わーくすてーしょんのあるくらし (83) 

2004-8 大橋克洋

例年にない酷暑ですが、東京都医師会は役所などとの折衝が多く 毎日午後からスーツ着用で出勤です。 学生時代から夏は半袖にノーネクタイだったのに、、、

こう暑い時は、薄い生地のスーツは日差しや暑さを通し 身体にまとわりつくのでかえって暑く、 しっかりした生地の方が楽なことがわかりました。 ワイシャツも長袖の方が汗でべたべたしません (サラリーマンにとっては常識のことなんでしょうけど)。 なーるほどねえ、クソ暑い時、涼しげにきちんとしたスーツを 来て歩くのも気持ち良いものだということを知りました。

何歳になっても自分にとって新しい知見はあるものです。 だから人生は面白いですね (とは言え、都医会館に到着すると滝のように汗が流れ出します。 上着を脱いでしばらく身体をクールダウンしなければなりません)。

○ 筋トレで夏バテなし

今のところまったく「夏バテ」なく快調です。 しっかり汗をかくことと毎朝の筋トレが効果を上げているようです。 お陰でウエストはコカコーラボトル状になってきましたが、 若い頃と違ってたった一日油断すると目に見えてお腹に脂肪がつきます。 減食はてきめんに体重を落とせますが、 お腹ではなく顔から痩せて貧相になるのが悔しいですね。

それに、やはり適当に栄養源を補給しないと 体力・気力を保てませんし折角鍛えた筋肉も落ちてしまうので、 仕事の都合で食べる暇がない時「これ幸い」と一食抜く程度です (時には二食続けて抜くことになることもありますが)。

○ ちょっとしたネットワーク・トラブル

超音波断層(エコー)装置をネットワーク接続するため (この装置のレポートはまた来月にでも)、 業者さんがエコーに IP アドレスを振り設定作業を始めた時 ネットワークの接続が不安定になりました。 ping を打ってみると ping の返りが非常に遅かったり不安定です。

診療中だったので、 これが切れると電子カルテがサーバと接続できなくなってしまいます。 とりあえずエコーから来ているイーサネットケーブルを ハブからはずし色々やってみましたが駄目です。 そのうち完全にネットワークが繋がらなくなってしまいました。 関連するマシーンを再起動したり色々とやってみましたが、 どうもうまく行きません。

それぞれのコンピュータは問題なく動いているし、 単にエコーを接続しようとしただけで、 それを外してもネットワークトラブルが快復しないとは???

そのうち東京都医師会へ出勤する時間になってしまいました。 夜は横浜で講演があり帰りが遅かったので、 翌朝早くトラブル解決に向かい、 障害の切り分けをして行って結局原因がわかりました。

何とスイッチング・ハブが死んでいたのです。 ハブの電源を入れ直すとすべて生き返りました。 なーるほど、こういうことでハブが死ぬなんて発想はなかったのですが、 こういうこともあるんですね。

業者さんがエコーに設定した IP アドレスが間違っていたため、 スイッチング・ハブが処理しきれなくなって気が狂ってしまったのかな と思っています。 トラブル快復後1時間くらいのうちに再度同じ現象があり、 ハブの電源再投入で快復しました。 「まだ購入して2年にもならないハブなのに、買い換えかよ」と思いましたが、 その後3日以上経て一度も症状はでていません。 IP の混乱がまだハブの中に残っていたんでしょうかね。

普通のハブはおバカさんなので IP で狂い死にするなんてことはないはずですが、 なまじ多少の知能を持っているためのトラブルだったようです。 「教養が邪魔をする」ってやつですね。

○ 東京都医師会の HOT project

東京都医師会の HOT project を進めています。 昨年一杯で仕様を固め暮れにかけてシステムを発注、 この4月から受け入れ準備が整いスタンバイしました。 東京都医師会の会員の方々へ接続をお願いしているのですが、 皆さん様子見のようでなかなかそこから進まないのが 担当理事としての私の悩みです。

とにかく東京という所は便利なので、 現状で何も不自由していません。 何もそこへ面倒で新らたな出費の元となるITを導入する 必然性がないというのが正直なところでしょう (医療機関への FAX の普及もこれとまったく同じ状況でしたが、 FAX の便利さは現在ほとんどの医療機関で理解されていると思います)。

ほとんどの企業がITを使わなければ競争に勝ち残れなくなって 久しいものがあります。 医療も必ずそうなることは目に見えていますし、 それはもう間近に迫っています。 そうなってから「おっとり刀」で対応するのと、 事前の周到な準備の上で対応するのとでは大きな違いがあります。 私としてはそのような危機感から HOT project を立ち上げ、 じっくりと進めてきました。

現在はビル建設に例えれば基礎工事の部分で、 外から見てなかなか様子が見えず理解が得られません。 ビルの場合も、基礎工事には長い工期がかかりますが、 地上階が立ち上がりはじめるとあとは一気に立ち上がって行きます。 HOT project も同じような経過をたどっていくと考えているのですが。

○ 「カルテは誰のもの?」の議論

「カルテは誰のもの?」という話があります。 マスコミは「カルテは患者のもの」だから「カルテの内容そのままを開示せよ」 と言います。 確かにカルテに記述された多くのものは患者さんのものであることは正しいの ですが、何か私の心の中でスッキリしないものがひっかかっていました。 「何か変」「でもどこが?」

たまたま新聞社からの HOT project に関する取材に答えている時、ある考えに思い当たりました。 そうか、言ってみれば「カルテは医療機関の業務用書類」だ。 そうなると、患者さんのものである「健康ノート」のようなものがあれば、 全部がクリアカットになるではないか、と思いついたのです。 行政でも企業でも、 業務用文書そのままを顧客に提示するところは余りないはずですよね。 顧客も業務文書を見ても理解できませんし、 誤解を生ずることさえあります。 顧客へ提示する情報は、 その用途にあった噛み砕いたものになっているのが普通でしょう。

マスコミには私に関する資料も色々あるはずですが、 「大橋克洋に関する資料一切ありのままコピーしてください」と言っても、 まずそのままのコピーを出してはくれないだろうと思います。 中には企業秘密的なコメントなどもあるでしょうしね。

○ 電子健康ノート

このようなことで HOT project を進めるうちに必要性を考えるようになったのが 「電子健康ノート」の概念です。 それは以下のようなイメージになります。

個人が各自「健康ノート」を持つようにします。 これは「母子健康手帳」をもっと拡張した 「生涯健康手帳」のようなものと思えばよいでしょう。 医療機関で診察を受けると、主治医がノートに必要事項を記入してくれます。 病気の説明や現在の状況、検査の結果や治療に関する注意事項など、 主治医により記入する内容は多少違うかも知れませんが、 いずれも今後の健康維持に必要なデータ、 あるいは他の医療機関にかかった時の判断や治療の参考になるものが 主となるでしょう。

自分で血圧や体重、あるいはコメントなどを記入して行くこともできます。 フィットネスクラブでの測定値などを記入しても構いません。 これにより自分の身体の状況を把握でき、 健康維持増進への関心も高まるでしょう。

母子健康手帳のような紙のノートでは、 どうしても大きな制約があります。 記録の容量が限られますし、大きな写真や絵を貼ることもできません。 一生のうちに沢山のデータがたまってくると、 必要なものを探したり全体の流れを見たりすることが困難になります。 そこで電子的ノートにすれば、それらを解決できます。 容量は無制限に近くできますし、 必要なものを探したりグラフ表示したり、 色々なことができます。

銀行の預金通帳をイメージしてもらうとよいでしょう。 現在では預金通帳は 自宅からホームページで閲覧したり振込したりできます。 健康ノートもこれと同じになると非常に便利です。 自分の選んだ「医療情報銀行」に健康ノートを預ければ、 ホームページで読み書きしたり、 預金と同様にセキュリティーを守ってもらったりできます。 これからは「情報」に「利息」がつくこともあるかも知れません。 ホームページを使えない人は、預金通帳と同様、 紙にプリントアウトして持ち歩けます(電子的なものに比べると、 かなり不便ですが)。

○ これで解決される色々なこと

電子健康ノートが実現されれば、色々解決される問題があります。

「健康ノート」は完全に個人のものですから、 見せたい人には見せるし、見せたくない人には見せなければよいのです。 つまり「医療情報銀行」に預けた上で、 その通帳(つまり健康ノートですね)を自分で管理すればよいのです。 「患者の医療情報が患者自身のもの」になります。

自分の健康に関する情報を、一生にわたって一元管理できます。 これも今までになかったことです。 自分の健康維持への関心・意欲を高めるとともに、 他の医療機関で医療を受ける場合にも非常に参考になります。

健康ノートはホームページで読み書きできますから、 旅先で病気になっても自分の暗証番号などさえわかっていれば、 過去のデータをすべて診療の参考のため利用でき、 適切な医療を効率的に受けられます。

○ シンプルだからこそ普及し発展する

世の中で爆発的に普及したものに、携帯電話、Web、電子メールがあります。 それらに共通するところは、仕組みも使い勝手も極めてシンプルなことです。 ところが一旦普及すれば、 ありとあらゆることがそれでできるようになります。

電話は本来「1対1での通話」の目的と機能しかありませんでした。 ところが今ではどうでしょう、携帯電話で航空機の予約から、 電車の乗換案内、地図閲覧、カメラ、録音、メモ、スケジューラ、 最近では「お財布携帯」まで出現しています。 Web や電子メールも同様ですが、可能なことがどんどん膨らみつつあります。

○ 「健康ノート」をどう実現すればよいか

一般の方々が使う「電子健康ノート」も同様であるべきと考えています。 最初は極めてシンプルな仕組みと使い勝手、 かつ将来への拡張性を可能とする柔軟性を持つべきです。 そこで、「健康ノート」は基本的に罫線も引いていない真っ白なノート のイメージです。ここへ、主治医からの指導メモ、検査結果、 レントゲン写真、心電図など、順不同に何でもぺたぺた貼ることができます。

ただし後利用を考えると、最小限のお約束はあった方がよいでしょう。 貼り付ける文書はすべてXML 形式にして、 タイムスタンプ、作成者名、文書種別、タイトル などをヘッダー部分に書いておくとよいと思います。 このようになっていれば、順不同に貼り付けられていても、 いかようにも検索したり、 必要なものだけピックアップしてグラフ表示したりできます。

では、閲覧ソフトにはどんな機能が必要でしょうか。 最低限、次のようなものがあると便利でしょうね。

健康ノートは銀行の預金通帳とまったく同じで 「医療情報銀行」へ預けホームページで読み書きできるようにします。 医療情報銀行のポータルサイトが上記機能を実現しますが、 表示機能に関しては、さらに高機能なものを提供する表示専用サイトなどが あってもよいでしょう。 ホームページを使えない人は、 これも預金通帳と同様にプリントアウトしたものを持ち歩くことになります。

○ 「健康ノート」実現にあたり重要なこと

「健康ノート」のアイデアは私の独創ではありません。 現在いろいろな所でいろいろな方が同じようなものを考えているようです。 「カルテは誰のもの?」を追及していくと、 自然に個人のものである「健康ノート」の概念に行き当たるからと思います。

このように将来の重要なインフラとなるものを、 色々なところで独自に構築するのではなく、 少なくとも「互換性に関する共通仕様」の擦り合わせをしながら 進めてゆくことは非常に重要と考えています。

もし、同じように「健康ノート」の実現を考えておられる方は、 是非メールをください。一緒にその辺りを考えながらやって行きましょう。

< 2004.07 「おっくう」ということはどういうこと? | 2004.09 オリンピック観戦のために HD レコーダー >