1989.03 UNIX か Mac か、それが問題だ

わーくすてーしょんのあるくらし (27)

1989-03 大橋克洋

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○ 事務のOA化

私の所属している医師会の事務局を来年度からいよいよOA化することにな り、理事であり、またコンピュータを道楽にしている私にプランニングが任さ れることになった。

大体事務作業の面で医療の世界は一般企業に数年遅れているのが普通で、新 しい機器などの導入に際しても、一般企業で普及して価格も下がり使い勝手も 良くなった頃、ようやくヨッコラショと腰を上げて導入するというパターンが 多い。ちょっと昔だと複写機がしかり、最近ではFAXがしかりである。

とりあえずコンピュータ化する業務としては、会員名簿の管理とか、検診事 業の管理だとか、データベース的要素のものが多いだろうと予測される。ある 程度慣れたところで、経理業務も載せたい。私の医師会では、この他に臨床検 査センターや看護学校も併設しているので、いずれはこれらをネットワーク化 することによって、OA化のメリットを上げたい。

○ どんなシステムを選ぶか

このような構想の元に具体的な機種選定をしなければならないのだが、つい ては次のようなものを考えた。 まず一般に誰もが考えるPCー98、次に思いきってSONY NEWSあ たりのUNIXマシーン、そして3番目にMacintoshをと候補を3つ に絞った。最も手っ取り早く成果を挙げるにはPCー98が正解だろう、ソフ トは何でもそろっているし、価格は最も安い。

ある医師会では数千万のIBMのメインフレームを入れたようだし、隣の医 師会でもコンピュータ化に500万の予算を立てているようだが、何せウチの 医師会は貧乏医師会で、OA化のためにやっと200万の予算をひねり出すの が精一杯だから、安くすめば大変有難たい。

しかし、これから導入するなら、どうしても最初からLANで接続した形で 立ち上げ、ファイルを共有して使いたい。ネットワークで接続されてこそ、コ ンピュータ化の実が上がると考えるからである。となると、ネットワーク化と いうことで一番楽なのはUNIXマシーンである。こいつに安いPCー98や ラップトップをぶらさげて少しずつ増やしていくことができる。予算に応じて 将来イーサネットを張り、NFSを使えば理想的なシステムが出来上がる。 、、、などと、どれを選ぶかハムレットのように大変悩んだ。

○ 最後の決断

そして結局最後の決断はMacの導入だった。 その理由は、まずUNIXにはビジネスに使えるアプリケーションがまだ極 めて少ない。有ってもPCー98のものに比べ、べらぼうに高価である。

そして、現時点ではUNIXにはお守りをする人が不可欠である。となると、 結局お守りをするのは私以外には居ないという結論になる。なにしろウチの医 師会には、UNIXに詳しいような物好きは勿論、そのような人を雇う余裕も、 ソフトを外注する余裕もないのであるから。まあ、私も暇なら医師会で使うア プリケーション位書いても良いのだが、お守りをする時間的余裕は到底無い。

それに比べMacなら、EXCELなどで一応の動くものをセットしておい てやれば、まあ素人の事務の女の子達でも結構使ってくれるようになるに違い ない。それに、Macの可愛らしさは何と言っても女の子には受けるに違いな いと思った訳である。

実際には200万の予算では多少足が出ることになりそうだが、最初からM acーSE2台AppleTalkで接続して立ち上げることを計画して、現 在交渉中である。しばらくはAppleTalkによるネットワークを中心に 運用し、いずれ拡張する際は、その中心にUNIXマシーンを置くことを考え ている。 はたして、思惑通りに行きますかどうか、また後日この欄でご報告すること になるだろう。

○ ワークステーションの姿

コンピュータというものは、何時も手元にあって、その上で全ての仕事がこ なせるものでなければならない。 特に事務の道具としてのコンピュータは文字通りのワークステーションであ るべきというのが私の考えだが、その為には、机の上にいつも自分専用の機械 があって、いつも電源が入っていて、一つの作業をしながら、それをちょっと 中止して他の作業をしたり、すぐに元の作業に戻ったり、或るいは他の作業の 結果を参照しながら現在の作業を進めたりという統合環境を提供するものでな ければならない。

狭い事務机の上で占有する面積はなるべく少なくあって欲しい。 自分で使うならUNIXでも良いのだが、職員に使わせるのなら、使い方は なるべく簡単であって欲しい。ネットワークへの接続もなるべ簡単であって欲 しいなどの、欲しい、欲しいをならべて行くと、Macしかない。

○ Macの上の開発環境

なるべく私は時間をとられたくないと言っても、上に述べたような事情なの で、かなりの程度は面倒を見てやる必要があり、既成ソフトを利用するにして も特定業務用にシステムをセットしてやる必要がある。

となると何らかの形で、Macの開発環境を気にしない訳には行かない。 以前に比べるとMacの開発環境もかなり向上したと聞くが、それでもCの ようなもので書くとなると、Inside Macintoshを読破し理解 しなければならないが、これにはかなりの根気を要するようである。

ということで、とりあえずは、HyperCardとHyperTalkを 使って一応の業務をこなせるようなものを作ってやり、簡単な業務に慣れても らって、その間にコツコツと4ーth Dimensionで専用アプリケー ションを作成することを考えている。 4ーth Dimensionも結構使いこなすまでは大変のようだが、ま あUNIXマシーンを導入して、全てを面倒見るよりは大分楽ではないかと考 えているのだが。

○ Macに色目

販売店からもらったアプリケーションのカタログを見て、マックにもかなり 沢山の実用的ソフトが充実してきたことを知った。当然のことながら、どれも これもPCー98文化とは一味違ったソフトである。 これを見て、「うーん」と考えてしまった。自分のところの仕事用アプリケー ションもMacで作ると、かなり面白いものができそうな気がする。

しかし、現在まで長年の間作って来たアプリケーションが全てSUNの上で 動いている。今更、UNIXとMacの2本立ては時間的・経済的に無駄が多 いことは明らかなので、ジッと我慢の子だ。 早く、UNIXとMacとが一体とならないかなあ、NeXTは実用的な意 味で本当にそれを実現しているのだろうか。

このエッセイを書き始めた頃から、UNIXとMacの狭間で迷っている私 である。これで、MacーSEやMacーIIがもう少し安くなって、アップ ルジャパンがもう少し本気で日本で売る気になれば、コロッとなびいてしまう んだが。 Aplle-IIの頃からのアップルファンなのだが、その割りにはアップ ルは冷たいなどと、惚れたうらみの一言も、、、

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