2007.10 Xanadu プロジェクト

わーくすてーしょんのあるくらし ( 176 )

2007-10 大橋克洋

1980年頃でしたか、テッド・ネルソンの提唱する「ハイパーテキスト」という概念に強い興味と共感を抱いたものです。これは文書情報をネットワークをもちい地球規模で相互接続するもの。しかし数年を経てもその片鱗も見えず、 忘れかけたところに現れたのが WWW でした。「これはまさにテッド・ネルソンが、 ずっと前に目指していたものじゃないか、、」と感激したものです。 最近になって Xanadu プロジェクトを Wikipedia で引いてみました。 彼がプロジェクトを始めたのは何と1960年のことだそうです。 おっ、彼の座右の銘に私が非常に共鳴するフレーズがありました。

ユーザインタフェースは、 急いでいる初心者が10秒以内に理解できるぐらい簡単にすべき

テッド・ネルソンが目指していたものは、現在の Web と ちょっと違う点もあるようです。 Xanadu では「文書同士のあらゆる場所で双方向リンクを結べる (片方向リンクの Web ではリンク切れも起こる)」 「バージョン管理や著作権管理が行われる」 このように Xanadu は高度なシステムを描いていたのですが、 それだけに実装が困難だったこと、 また何度もチームの分裂を繰り返してきたこと などから実現に至らなかったようです。

これに対し Web では個人が独立して参加できることが、大きく普及の差を分けたのだそうです。 動画サイト YouTube などがその典型ですね。 なるほど、私が東京都医師会の「HOTプロジェクト」で、 「なるべくシンプルなシステム」「色々なサービスが途中から自由に参加できる」 「自己発展できるシステム」を、と考えているのは間違っていないようです。

○ 何事も大衆化で性悪説になってしまうのは、なぜ?

先月 「Wikipedia へ省庁などから修正書き込みが多数行われ、 議員の悪口などが書かれていたことが判明した」との記事がありました。 ああ、恐れていたことがついに始まりましたね。 以前もこのコラムで書いたことです。

当分は「流れている川の水は腐らない」ということで、 大勢で見ているうちは多少の悪さがあっても すぐ修正されるかと期待していました。 確かに、今回の記事も「水の濁りを清める」一助ではありますが、 いずれ濁りの方が強くなってくるのでしょう。

パーソナルコンピュータやネットワークを、 その曙の頃から見てきました。いずれも最初の頃は、 善意の前進気勢に満ちあふれた人達で構築され、 とても楽しいエネルギッシュな流れの中で感激の時間を過ごしてきました。 しかし、それが大衆化するとともに、 いずれも低俗化し、性悪説へと変化してゆくのを見るのは、 とても悲しいことです。

こうなると、また新しい天地を求めて 旅に出なければいけないのかなあ、などと考えてしまいますね、、

「良いひと、悪いひとを見分けるシステム」 「正直者が評価され得をするシステム」 「悪しき心は大損するシステム」なんてものが、 社会システムとして機能する世の中ってのが来ると良いんですが、 無理ですかねえ。 「できるできないは考えず」神様に叫ぶことにしましょうか、、

○ クローズドな領域での利用

国連の機関である GCO(グローバル・コンパクト事務所)は、 Wiki を使って世界各地のスタッフの間で 迅速に情報を共有し意見をまとめることを行っているそうです。

そのほかにも「多くの組織が同様の試みにより、 上位下達のピラミッドから自然発生的で協調的なネットワークへ変貌しつつある」 とあります。 このようにクローズドな領域での利用であれば、 Wiki のメリットも生きるでしょうね。

センターとなるサーバが提供し、不特定多数の医療機関などが利用する 「Web 型(あるいは ASP 型)電子カルテ」については、 メリットよりデメリットの方が大きいと考え、私は現在のところ否定的です。 しかし、ある施設内というような限られた領域で利用するのであれば メリットは大きく生きると考え、 Web 版電子カルテを開発中です。これもまったく同じようなことですね。

ただし、ここで言う Web型電子カルテに考えられるデメリットは Wiki の場合とはちょっと違います。 Wiki は「汚水で濁ってくる危険性」ですが、電子カルテでは 「データが自分のコントロール下にない」 「自分の施設で使いやすいようなカスタマイズがしにくい」 「通信回線がダウンすると業務が止まる」などです。 最後の項目については、クローズドな運用でも発生しうることではありますが、 自施設内なら対処できる余地はありますからね。

○ あいたた、、 HD クラッシュ2連発

MacBook の HD がクラッシュしました。 アプリケーションが永久ループになったので エイやっと強制終了したのですが、 OS を認識せず立ち上がらなくなりました。 インストール・ディスクで立ち上げ、 ディスクユティリティーで HD 復旧を試みましたが駄目です。 シングルユーザで入り fsck を掛けても駄目。 どうも OS の立ち上がる重要な部分がクラッシュしたようです。

重要なファイルはネットの彼方に置いてあり、 MacBook 上のファイルは無くなっても支障ありません。 OS のインストールを試みたのですが、 やはりおかしい。HD に致命的ダメージがあったようです。 OS の強制終了だけでそのようなことが起こるとは考えられないので、 おそらく持ち歩くうちに傷ついていた HD に 運悪く強制終了がマッチしてしまったのかと。

「うーん、HD を新しくするしかないか、、」と ネットで HD を注文しました。 100GB の 2.5インチ HD が1万円そこそこ(回転数の早いものを 選んだのでちょっと高め。遅いものなら1万しない) で買えるのはとても有り難いです。 以前は数十万もしてましたからね。 コンビニで振込して翌日午前中 HD が届きました。 有り難い世の中です。 さっそく HD を交換し OS のインストール。 環境設定も Mail、Web のブックマーク、 その他 .Mac で自動的に同期されるのでラクチン。 ほぼ1日で復帰できました。

ところが、ところが、、 以前も書いたように こういうものは伝染するものなんですねえ(ほんとかあ?)。 MacBook がクラッシュした翌日、何と WebServer がクラッシュ。 しばらく OS のアップグレードをしていなかったので アップグレードしなくちゃと行いました。 ところが「アップグレードがうまくいきませんでした」のメッセージで 止まっています。 「あれ?」そんなことは滅多にないのですが、、 ディスク容量が足りずにフェイルしたような メッセージが出ていたように思います。サーバ・マシーンは 何日も動かしっぱなしだったので、 spool にゴミが沢山たまっていたのかも知れません。 仕方なくリブートすると、 これまたログイン・パネルが出る直前あたりで永久ループ状態。

何度繰り返しても同じです。 色々とやってみたところ、何とこれも HD の致命的ダメージのようです。 「うーむ、またかあ、、」。仕方なくサーバ・マシーンに積んであるスペアディスクに OS をインストールして何とか再構築しました。 この間に色々な試行錯誤があり、 悲しいことに折角の連休が丸々つぶれてしまいました。 もっと痛かったのは、 何度か復旧を試みたり OS を上書きしたりとしているうちに、 Mail コンテンツが全部吹っ飛んでしまったこと。 Web コンテンツは幸い自動バックアップをしておりセーフでした。 そんなことで今後、 メールのコンテンツは .Mac のメールサーバに転送し、 そちらでバックアップすることにしました。 こんな災害、周期的にくるんですよねえ、、

○ iPod touch その後

WebServer が吹っ飛んだ拍子に、 そこで動いていた私のスケジュール・アプリも吹っ飛んでしまいました。 WebObjects で作った Web アプリだったのですが、 その基となる OpenBase がどうしてもインストールできません。 ライセンス料を払って新しくソフトウエアを買い直せば動くんでしょうが、 それもシャクなことです。 そこで、スケジュールは iCal を使うことにしました。 以前しばらく iCal を使っていたことがあるのですが、 ネットワークで同期している時にデータがおかしくなり、 それで止めてしまったのです。あれから何年も経ているので、 iCal も安定しているかなと、、

便利になったのは iPod touch でも iCal を見られることです。 残念ながら iPod touch は read only で、予定を書き込むことはできません。 おそらくこれもいずれ Software update で 可能になるのではないかと期待するところです。 AddressBook も同様、WebObjects で作成したものから、 Mac 純正のものを使うことにしました。 これも iPod touch で使えます。 しかし私の開発したスケジュールアプリは、 iCal よりさらに便利な機能をいくつか持っていたので、 いずれまた Webアプリに戻るのかも知れません。

iPod touch を使ってまだ1ヶ月にもなりませんが、 CLIE より愛用することになりそうです。理由はいくつかあります。 搭載ソフトは CLIE よりずっと少ないのですが、 何と言ってもそれらの使い勝手のよいことです。 ちょっとポケットから取り出して、 指のスライドでロックをはずし、4桁のパスワードを入れるだけですぐ使えます。 片手でできて とても快適です。

私が凝っている中国武術の MP4(YouTube で落としてきたやつ) をいくつも入れていて、これを見ながらイメージトレーニングをしています。 無線 LAN の使える環境にいれば Safari で Web を見られるのも、 とても便利ですね。 薄く軽いので、ズボンのポケットに入れていても 存在感を主張しないところも快適性の一因です。 日本の携帯のようにハンドストラップを通す穴が欲しいですね。 うっかり手から滑って落としそうで、、

○ Mac nano ?

またまた「Mac うわさサイト」ネタです。 Mac OS Rumors の報ずるところによれば、 Apple 社が年内にも新小型 PC「Mac nano」を発表とのうわさがあります。 Mac mini の 75% くらいの大きさとか。

この記事のタイトルを見て、 ついに MacBook の液晶パネルだけのマシーン「Mac touch が出るのか!」 と喜んだのですが、そうではなく Mac mini の後継機種とのうわさです。 そうなると、おそらく Mac mini と設置面積は同じで、 厚さが薄くなるんでしょうね。 AirMac Extreme Base Station か Apple TV みたいな感じかな。

Mac nano ? いえいえ、これは Apple TV です

価格が下がるなら、それはそれで嬉しいかも、、 今回の WebServer クラッシュ騒ぎで、 今度入れ替えるなら開発など余程スピードを必要とする業務に使うのでない限り、 もうタワー型マシーンは要らないなと思っています。 本体は Mac mini で充分。 HD だけ外付けの Raid Disk にすればよいかと思っています。 実際、私の書斎のメインマシーンはもう大分前から Mac mini です。 ディスプレイは 20 インチの奇麗でデカイやつを付けているので、気分はタワー型。

○ 今月の歩術

WebServer のクラッシュ騒ぎで、 Web コンテンツはバックアップしてあったので大丈夫 と書きましたが、 バックアップ翌日書いた分が失われているのに気がつきました。 思い出しながら、書き直すことにします。

9月末までめちゃめちゃ暑い熱帯夜が続きましたが、 10月に入るとガクンと気温が下がりました。この落差は激しいですね。 また上がることもあるのかなと思っていましたが、涼しいままで行くようです。 歩くには良い気候となりました(汗びっしょりで歩くのも、 それはそれで爽快なのですが)。

半年前から朝夕続けている八卦掌の走圏ですが、 ただ円の上を歩くだけの練習は安定してきたので、 少し振りをつけて練習することにしました。 YouTube で落としてきた動画を見ながら振りを練習するのですが、 そのままでは動きが速すぎてどう身体を動かせば良いのか理解できません。 QuickTime のムービープレゼンテーション(QuickTime Pro でないと使えません) で、駒落としにしながら動作を理解しています。

振りを練習して初めて実感したのですが、 八卦掌というのは上体の左右の捻りを多用して 技を繰り出すという武術なんですね。 先週も往復1時間半ほど歩いてきました。 八卦掌の振りを意念(イメージトレーニング)しながら 歩いてみました。実際には上体を左右に捻りながら歩いた訳ではありませんが、 おー、これは歩きやすい。 折り紙を左右から真ん中へ向け 折り畳みながら歩くという感じなんですが、、 何を言っているかわかりませんね。

これまで意識してきた「身体を捻らない」を特徴とする 「なんば歩き」と、どう繋がってくるのかが今後の研究課題となってきました。 さあ、また面白くなってきたぞ。

○ さらに歩きを考える

、、それから数日、この歩きを試みているうちに感じたことです。 そうか、「真ん中へ折り畳みながら歩く」というのは、 「動的重心位置を常に軸足上に置く」ということなのだと判りました。 そう言えば「交互の足を地面の上の一本の直線上を歩くように出す」 という表現を、どこかで読んだことがあるのを思い出しました。 これは私が体得したことと同じことを言っているんですね。

これに対し「なんば歩き」では地面に書いた二本の直線上を歩きます。 ある意味では、こちらの方が歩行時に「動的バランスとして身体の捻れ」が 生じているのかも知れません。 これに対し前者の歩きは身体の捻れがあるように見えますが、 「動的バランスとしては捻れが少ないのではないか」、 そのため「歩きが楽なのではないか」 というのが現在の結論です。

さらに考えてゆくと、 昔の「なんば歩き」に熟達した人も、 やはり一本の直線上を歩いていたのではないかと思うようになりました。 特に、重量物を背負って長距離歩く時など、 明らかに この方がエネルギー効率がよく楽です。 山岳地帯を、重い背負子を背負って登ってゆく姿を 思い出してみてください。 確かにそのような足さばきをしているように思いませんか? しかし重量物を持たない場合は、 二本の直線上でも良いのかもしれません。

○ MacOSX 10.5 Leopard リリース

久々の MacOSX のメジャー・アップグレード、 Leopard が26日に世界同時リリースになることが発表になりました。 早速 AppleStore から先行予約。 さて当日の 26 日、きちんと宅急便で OS が届きました。 従来の大きさの段ボールですが、 中を開けてみると 10cm 角ほどのちっぽけな箱がひとつだけです。 最近の iLife や iWork などのパッケージと同じですね。 中には DVD 1枚と薄い簡単なマニュアルが入っているだけ。 詳しいマニュアルは Apple のサイトから PDF でダウンロードする方式です。 これはこれで正しいやり方でしょうね。 Window などに比べずっと安い MacOS の価格に 大きく貢献しているのだと思います。

先日 HD クラッシュでフルインストールしたばかりの MacBook に早速インストールしました。 デフォルトのデスクトップ画面は 「宇宙を背景にオーロラか、ちょっと暗いな」というのが第1印象。 最初にやったことは、まずデスクトップの壁紙を もっと明るい写真に換えることでした。

画面切り替えの Spaces は、 今迄愛用してきた DesktopManager とほぼ同じですね。 しかし後者の方が便利だったのは、 タイトルバーに各画面が小さなアイコンで表示されること。 これによりマウスのワンタッチで画面を切り替えられますし、 どの画面に何が表示されているのかがある程度わかります。 Spaces でもタイトルバーから画面切り換え操作はできますが、 ワン・クリックではなくクリックしてドラッグと一動作多くなります。 これだけの違いでも操作感は随分違いますね。 画面を4枚以上に増やせる点は、Spaces の方が便利です。

もうひとつ必須のフリーウエアとして愛用してきた WindowShadeX は動きませんでした。 これがあるとタイトルバーのダブルクリックでウインドーを タイトルバーだけにしたり、小さなアイコンとしてデスクトップに 貼付けることができます。 作成元の Web へ行ってみると、まだ 10.5 には未対応のようです。 不便ですが、しばらく待つとしましょう。 Intel 化の時も数ヶ月待ちました。

嬉しいのは Web ブラウザーの Safari や Mail がかなり良くなったことです。 特に待望の東京都医師会の理事会で資料を見るのに使う 文書管理システムに Safari が使えるようになったのは、 とても嬉しいことです。 Leopard になって動作が遅くなったとの意見もあるようですが、 MacBook ではそのような感じはありません(後日わかったことですが、 PowerPC の載った古いマシーンなどでは、 かなりパフォーマンスが落ちる場合があるようです)。

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