2000.07 ネットワーク設定に必要な気力・体力(その2)

わーくすてーしょんのあるくらし (31)

2000-07 大橋克洋

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マイクロソフト社に対する裁判がようやく決着がついて MS 社 は敗訴になりましたね。もしこれで最終的な決着となれば、MS 社 の分割へと進む可能性があるようです。 私は MS 社の市場独占は、世の中のインフラを広げる面で大きく 貢献したと同時に、ほとんどのユーザやベンダーをその中に囲い込 むことにより、コンピュータ利用の自由な発展を停滞させた責任も 非常に大きいと感じてきました。自然界がそうであるように、自由 競争からこそ良いものが生まれ残ってくると信ずるからです。

今までいろいろな所でこのような類のことを書くと、必ずと言っ てよいほど何処からとなく「それは書きすぎだ」との抑止が入った ので控えてきました。別に悪口を書くつもりは毛頭ありませんが、 ここでちょっぴり本音を述べさせてもらいました。

さて先月は、私の施設のサーバを NEXTSTEP マシーンから MacOS X Server マシーンへ移行する作業についてレポートしました。先 月の段階ではまだメール・サーバのあたりがうまく行っていなかっ たので、今月はそこからです。

○ うまく動いている時はとても快適だがトラブルと、、、

ネットワークの管理は私にとっては、なかなかやっかいなシロモ ノです。理論的な本を読んでも、なかなか具体的にピンとこないと ころも多いです。 現在、私のところは12台ほどのマシーンが常時ネットワークで 接続され、どの端末から login しても同じような環境で作業できる ようになっています。この原稿は今診察室のマシーンで書いていま すが、書きかけで中断し自宅へ帰っても、また途中から書き続けら れます。

うまく動いている時はとても快適なのですが、一旦トラブると泥 沼に陥ることも多く、特にネットワークを一新しようなどとすると 地獄を見ることになるのがよくわかっているクセに、10年近くを 経てそろそろ新しいシステムにエイヤっと切り替える決心をしたの でした。何よりも困るのは、ヘマをやると解決するまで e-mail や Web の通信が途絶えて「陸の孤島状態」を味わうことです。これを 一番心配したのですが、予備テストなど準備に十分な時間をかけた ためか、うまく移行することができました。

先月もそうでしたが、このあたりの話はかなり技術的につっこん だ話になるので、難解な部分が多いと思います。 なーるほど、そんなもんかいな、と思ってお読み頂ければよいか と思います。私も独学でここまでやってきました。「根性でやれば 必ずできる!」です。

ところでプライベートな Mailing list の設定がまずいらしく、 どうもうまく動作してくれません。この原稿を書いている時点で思 い当たることがあり、やってみるとうまく動くようになりました。 メンバー・リストの設定をクラシックな方式でしていたのですが 、テスト的にやってみた別の方式でもうまく動きそうなので、そち らの方式でも書いたまま残っていたのがトラブルの原因だったよう です。そりゃあ、そうですよね。2か所に設定されていたらメール が迷子になるわけだ。

○ メール・サーバの設定

現在 UNIX 系のメール・サーバの多くは sendmail というシステ ムを使っています。インターネットの曙の頃から sendmail を設定 して使ってきましたが、その頃はプロバイダーもまだ法的に認可さ れていない時代で UUCP(UIX to UNIX CoPy)というシステムで、設定 も比較的単純なものでした。

その後、IP による常時接続になり sendmail の設定もそれに対 応したものに変更して運用してきたのですが、こういうシステムは 安定して動いてしまうとまったくいじることがないので、あれから もう5年ほどを経過して sendmail の設定については忘却の彼方。 まったく白紙の状態になってしまいました。

あの頃はクラッキングをするような悪い奴も少なかったので、セ キュリテイーについて今ほど神経を使うこともありませんでした。 しかしインターネットが一般に普及した今ではそうはいきません。 古い sendmail はそういう意味でクラッキングされやすいと いうこともあり、最新のものを使うべきですが、当然 MacOS X Server に載っている sendmail は最新のものです。

○ 難解な sendmail.cf の設定

NeXT や OPENSTEP マシーンで構成されるわが連合艦隊に、半年ほ sendmail を自分の施設に合わせて設定するには、sendmail.cfと いうコンフィギュレーション・ファイルを書きます。ところが、こ れが記号の羅列で、ちょっと見ただけでお手上げになるシロモノで す。「sendmail.cf を、直接手で書けるヘンな奴」という例えが使 われるほど、見てもわからないものです(文法はとてもシンプルなの だそうですが)。

そういうことで JUNET の時代には、どこかの学生さんが作った mailconf というソフトを使って sendmail.cfを生成していましたが 、最近は、やはり日本人の作った CF というものを使うことが多い ようです。 早速インターネットから最新の CF を down load してきて設定に かかりました。最初の方の domain name の設定あたりはわかるので すが、後の方になるとよくわかりません。特に SPAM mail の排他制 御などをどうやるか、のみ込むのには大分苦労しました。

幸い Linux ブームとあって、書店には Linux を使ったサーバ設 定の本が山ほどあります。結局、コンピュータの脇にそのような本 を10冊ほど積み上げて、首っ引きで設定作業を行うことになりま した。MacOS X Server もベースは Linux と同じ BSD 系 UNIX なの で、参考書があるという面では昔と比べてとても楽です。 色々な設定を行ってみては、端末との間でメール送受信のテスト を繰り返すうちに、大分わかってきました。NetInfoサーバの設定か らはじまって、NFS、Web、sendmail, POPなどの設定を完了するのに 2週間以上かかったでしょうか。

振返ってみるとつまづいた所は些細な部分ばかりで、わかってし まえばそう時間のかかるものではないのですが、それを自力で解決 するにはかなりの根性を要しました。今ではNeXT より格段に CPU パワーのある PowerMac G3 がサーバとして快適に動いています。

○ POP サーバのインストール

ちょっと前までは、ネットワーク上のクライアント・マシーンの すべてに sendmail.cf を設定してメールの読み書きをしていました。 しかしパーソナルコンピュータでメールを扱うことが普及した現 在は、POP というシステムが一般的になってきました。 これを使えば、各マシーンに sendmail を設定してまわる必要が ありません。サーバ上に溜ったメールを、クライアントから読み書 きできるので便利です。

HD 上に残っていた POP サーバのソースを捜し出してきて、 MacOS X Server 上でコンパイルしてみましたが、システムが変わった ためか、コンパイル・エラーが山のようにでます。最初は、その エラー・メッセージを見ながらソースを修正し、再度コンパイルする という作業を行っていましたが、その内に面倒になってきました。 昔はもっと巨大な X window システムのコンパイルで、エラーメ ッセージの山と戦いながら、自分のマシーンに移植したこともあり ましたが、あの頃に比べ今は体力・気力・処理能力ともに確実に低 下しています。

そこで軟弱にも(いや、これが正しい対処法ですが)、インターネ ットから POP の最新のソースを落してきました。そしてコンパイル してみます。「えっ、うっそー」ひとつのエラーメッセージも出さ ずにコンパイルが終ってしまいました。「うーん、駄目だったか」 とメゲながら出来上がったバイナリーを動かしてみると、何と綺麗 に動作するではないですか。

このように最近のすぐれたソフトウエアのシステム解析能力とそ の環境への適応力は素晴らしいものです。ちゃんと私のマシーンの 構成(ひと知れぬ MacOS X Server)を分析し、何の問題もなくソース から実行コードを生成してしまいました。感激、感激です。悪用す ればコンピュータ・ウイルスになるような技術も、平和利用すると このようなものになるのですねえ。

○ 一線を退いた NeXT の役割

年中無休で7年ほど働いてくれた NeXTstation はこれで第一線か ら退き、その役割を PowerMac G3 に引き継ぎました。しかし NeXT はまだポンコツではありません。それはそれでネットワーク上の Printer server/FAX Server として余生を送ることになります。 NeXT のレーザプリンターはモリサワのフォントを搭載し、とても 美しい出力を提供してくれます(このモリサワのライセンス料のため に、NeXT OS の値段がバカ高かったという話もあります)。キヤノン のレーザ・プリンター・エンジンを積み、独自の方式をとった出力 の早さも、現在においてさえ天下一品と言えるのは凄いことです。

また NeXT は FAX サーバとして FAX モデムを介して送受信を引 き受けてくれ、それはネットワーク上のどこからも利用できます。 NeXT が世の中に搭乗した今から10年前に、すでにそれを実現し 標準装備していたことは特筆に値することです。しかし残念ながら MacOS X Server には、FAX サーバなどの機能がついていません。 MacOS X Server の中を見ると、FAX サーバ用のエントリーなどが 残っているので、いずれ実現してくれることを期待していますが、 虫垂のように単に昔の名残りだけの可能性もあります。 便利な FAX サーバも、現在使っている FAX modem が潰れたらも う代替はないので、それでお仕舞いになるのがちょっと心配です。

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