わーくすてーしょんのあるくらし ( 348 )

大橋 克洋

katsuhiro.ohashi@gmail.com

2022.02 性格は変えられる

北京五輪:女子パラレル大回転の竹内智香選手

○ 性格は変えられる

人間誰しも生まれ持った性格、一生ついてまわります。元のところはなかなか変わりませんが、ある程度は変わります。或いは努力で変えることができます。

1つ目は生まれ育った環境で変わる例。私は学生時代、馬術部でしたが、馬にも見るからに意地悪な性格の馬がいます。馬房に近づくと、意地悪そうな横目でジロッと睨んできます。こういう馬にうかつに近づくと、いきなりパクっと噛みつかれたり、どどどっと尻を向けてきて蹴ろうとしてきたりします。こういうのは小さい時に虐められて育ったからです。人間も例外ではありません、子供の頃さんざん虐められた人間の性格は大きく歪んでしまいます。その逆に子供の頃、可愛がられて育った動物は人懐こかったり甘えん坊だったり、とても良い性格になります。おっとりしていることが多いですね。顔つきからして違います。

2つ目は自分で努力して変わる例。私は特に中学から高校にかけて、引っ込み思案で人とのコミュニケーションがとても苦手でした。ここは前述の環境による影響があったと思います。小学校の頃は同級生とも臆することなく普通にやっていたのですが、麻布中学に入ると周りの生徒の多くが乙に澄まし頭の良い優等生ばかり、しかも彼らは要領も良い。私はそこに放り込まれた田舎出に思えたのです。そんなことで、自然と劣等感が生まれ、親友も一人しかできないという状態でした。ところが大学で馬術部に入ると、世慣れた先輩達に可愛がられ、積極的で自信に満ちた性格に変わっていきました。何年も経って麻布の同窓会で、担任の中畑先生から「大橋は記念撮影の時も皆の後ろに隠れて顔を覗かせるような生徒だったのに、随分変わったな」と言われました。それでも大勢の前でしゃべるのはとても苦手だったのですが、やがて社会に出て日本産婦人科医会の幹事をやるようになると「人前でしゃべれるよう努力しなくちゃ」と思うようになりました。その結果、後年、日本医師会館の大舞台の上で全国から集った大勢の会員を前に何も臆することなく座長や演者を務めることができるようになりました。本当に「努力を積み重ねれば性格は変えられるんだ」と自信を得たことでした。

竹内智香選手の名言「努力は裏切る」

いよいよコロナ下の北京で冬季五輪がはじまりました。私が最も楽しみにしているのは、スノーボード女子パラレル大回転の竹内智香選手。知らない人も多いかと思いますが、彼女は今度で五輪出場連続6回、日本女子で最多の出場記録を誇ります。私が大いに期待するのは、そのことももちろんありますが、超ポジティブ思考の彼女の活躍。これについては、このコラムの2014年2月「SOCHI五輪から学ぶ気」2018年3月「超ポジティブ思考の竹内智香選手」にも書きました。

20年以上にわたり努力を積み重ねてきた彼女の言葉「基本的に努力は裏切るものだと思っています。努力をしたからといって絶対に金メダルを取れるわけではないですし、それでも順位が付くのがスポーツの厳しさそれでも努力をすること、先の見えないものに投資する努力を積み重ねることはすごく大事だと思う」これは彼女の名言と思っています。

後日、フィギュア個人で残念な結果に終わった羽生結弦がインタビューで「努力は報われない」の発言をしていました。「パクリ」とは言いませんが、彼も竹内選手の言葉を読んでいたんですね、きっと、、

5回目の平昌五輪出場後「やりきった感」で競技生活から退いていたそうですが、数年ぶりに遊びで滑ってみたところとても楽しく、再び競技生活に入ったのだそうです。彼女的には「今回は非常に調子が良いので良い成績が残せそう」。前々から「金がとれなかったら どうしよう」ではなく「金がとれてしまったら どうしよう」と自信溢れる彼女です。最近は後進を育てるため、北海道で子供達を集めスノボ教室を始めたそうで、彼女の蒔く種がいずれ芽を吹き、世の中を勇気づかせてくれるのを楽しみにしています。

6回目ともなれば、年齢的にも上位入賞は期待できないかなとも思うのですが、彼女はそうは考えていないようです。さて、結果や如何に、、

パラレル大回転、その結果は

竹内選手のスノボ・パラレル大回転、予選を15位で手堅く勝ち残り決勝へ。彼女とともに出場した18歳高校生の三木つばさは予選3位という素晴らしい成績で決勝に進み、大いにメダルが期待されます。

予選はスピードで順位がつけられましたが、決勝は相手選手と並走で滑り対決するトーナメント方式。竹内選手が当たった相手はドイツ選手。良い感じで滑走していましたが、後半で竹内まさかの転倒「あ、やっちまったか」ソチ五輪決勝でスイス選手と滑り、まさかの転倒で金を譲り銀メダルとなったシーンが想い出されました。転倒から立ち直った竹内選手、思いがけず相手より先にゴールを切り、勝ちと表示されたのですが、その後、途中棄権の表示に変わり試合はしばらく中断。放送の解説では「転倒で相手コースに入り走路妨害の可能性もありますが、相手選手も抗議することなく滑り終わったので、何でしょうね」。

結局、竹内選手は走路妨害で途中棄権の判定。相手選手からの抗議もなく、竹内選手は審判席に厳重な抗議をしたのだそうですが、8人中6人がドイツの審判で「ノーチャンスだな」と思ったそうです。そして期待の三木も、まさかの転倒で敗退。うーむ、、

私が期待竹内選手、残念な結果に終わりましたが、いずれにせよ転倒があった以上、結果はやむを得なかったかなと思います。彼女も冷静になってみれば同じことを思うでしょう。メダルは残念でしたが、ここに至るまで彼女の経てきた道には、他に比べるもののない大きなものがあると思います。まだまだ人生は長い、彼女の今後の人生に大いに期待するとともに盛大なエールを贈りたいと思います。

そして優勝は思ったとおり、オーストリアのダニエル・レデツカ選手。この選手は、前回五輪でスノーボードとスキーの二刀流で両方とも金という凄い選手。終始安定し速い滑りを見せてきました、王者の風格。こうして見ると、WRC のオジェやローブなどもそうですが「本当に強い選手は、どうやっても強いんだな」と思わされます。努力と素質なんですかね。

○ 日本チームに続いて不運がおそう

この競技に先立つスキージャンプ混合団体では、冒頭にK点越えのビッグジャンプをした高梨沙羅選手が、その後スーツ太ももサイズが2cmオーバーの規程違反ということで失格。この後、オーストリア、ドイツ、スウェーデンにも同様の失格者続出。これで8位に沈んだ日本、その後の奮起で4位まで頑張りましたが、あと一歩でメダルに届かず。責任を感じた高梨選手の嘆きは涙を誘うものがありました。この失格事件、すべて女子選手ということもあり、試合後多くの批判や議論を呼びました。選手の体重や太ももの太さなどはちょっとしたことで変化する、規程を変えるべきと。

審判については、この他にもショートトラック1000mで韓国選手が相次ぐ反則判定で中国に敗け、判定を下した中国審判に猛烈な抗議を続けているそうです。いかにも韓国。

この他にも「メダルが期待されたスピードスケート1500mの高木菜那が、同走の中国選手に進路を妨害される格好で最終ラップのタイムを大幅に落としたが、当該中国選手にお咎めはなく、高木は悔しさをあらわにした」ということもありました(後日、彼女を更なる不運が襲いますが、それについては後述)。

審判については、私が高校の頃から色々感じてきました。特に共産圏の審判には明らかに自国びいきの不公正な例が目立ち、体操がまだ日の目を見る前の時代、体操競技の日本選手を観ながら悲憤慷慨したものでした。

そして大きな議論を呼ぶ事件。フィギュア団体でロシア金メダルに貢献したフィギュア個人のワリエワ選手。昨年12月のドーピング検査結果が今になって陽性と判明、以後のフィギュア個人戦出場資格を停止。その後、スポーツ仲裁裁判所が、保護者を必要とする15歳ということで、とりあえず彼女の個人戦出場を許可。ただし3位に入ってもメダル授与は今大会期間中は行わないとのこと。ワリエワの演技は過去にない素晴らしいもの、この年令を過ぎれば見られなくなるに違いないと思うと、私も彼女の演技は是非見たいと思っていたので、とりあえずは良かった。それにしてもロシアは過去の国家ぐるみドーピングで国としての出場が停止されている状況なのに、なぜこんなことが起こるのか。共産圏のやることは得体が知れない。

自分が扱いやすい身体をつくる

今回もうひとり楽しみにしている選手はスピードスケートの高木美帆選手。五輪開始前に彼女の特集番組を見ました。ここで彼女が言っていた言葉が心に留まりました「自分が扱いやすい身体を作る」「動きたいように動ける身体」。なるほど、歳を経て、最近は固まってきつつある身体を感じますが、このように心がけるべきなのだなと、、

日本選手はスピードスケートの短距離は得意でも、中長距離では体格的の大きい外国選手に歯がた立たないのだそうです。ところが高木選手はここでも強みを発揮。その理由は、長年の努力と工夫で彼女が会得した「わずかなポイントにしか力を使わないエコな滑り」。これにより効果的にパワーを発揮。普通はレース後半になると疲労からペースが落ちるが、彼女の場合はほとんど落ちない。

今大会では500m,1000m,1500m,3000m、団体パシュートの5種目に出場。5種目出場はアルベールビル出場の橋本聖子選手以来とのこと。最初に行われた3000mだけは6位でしたが徐々に調子を上げ、500m、1500m,パシュートで銀メダル、最後の1000mで遂に金メダル獲得。普通なら途中で疲労がたまるであろう5種目出場での記録、これは歴史に残る偉業となるはず。

強く印象に残ったのが団体パシュート。高木美帆、姉の高木菜那、佐藤綾乃がチームを組み、予選を五輪記録で1位通過。準決勝にも勝利。カナダと当たった決勝戦も、世界に誇る人一糸乱れぬ美しい編隊を組んで差をつけ勝利確実と思ったところ、ゴールを目前に最後尾の高木菜那の足が突然もつれ転倒、銀メダルとなりました。表彰台に上がっても泣きじゃくる姉の肩を抱く高木美帆。そして高木菜那に3度めのアクシデントが襲います。前回五輪で初代女王に輝いたマススタート競技、何人もごぼう抜きして先頭に立ちゴールを目前にしたところで、またもやまさかの転倒。これには誰もが目を覆ったことでしょう。

スキー・ジャンプ団体で失格になり責任を感じて泣きじゃくっていた高梨沙羅もそうでしたが、本当に可哀相なできごとでした。「オリンピックには魔物がいる」とは、こういうことを言うんですね。

フィギュアスケート

フィギュア男女混合団体。日本はシングルでは強くてもアイスダンスやペアの層が薄く、今まで団体で表彰台に上がることができませんでした。しかし、今年は男子シングルの宇野昌磨、鍵山優真、女子シングルの樋口新葉、坂本花織らによる素晴らしい成績のもと、ペアの三浦璃来・木原龍一組が自己ベストを更新し2位と大健闘、アイスダンスの小松原美里・尊組は5位でしたが日本初の銅メダルを獲得しました。

日本の予選でまさかの両者転倒、松原組に破れた村元哉中・高橋大輔組の姿をオリンピックのリンクで観たかった思いはありますが、松原組それなりに頑張ったと思います。初出場の鍵山・樋口の演技は素晴らしかった。三浦・木原の出来はエクセレント。

男子個人戦でも鍵山が銀、宇野が銅メダルを獲得。金はやはりネーサン・チェンでした。素人目には鍵山の演技はチェンに劣らぬ軽やかで完璧なものに見えました。これからが楽しみ、、

女子個人ダントツの演技でショート1位のワリエワ、ドーピング問題で世界中の話題をさらう中での試合でした。日本選手ならメンタル的に完全にやられるであろう激烈なストレスの中、動ぜず素晴らしい演技を見せたワリエワの胆力には感銘を受けました。彼女のドーピング問題は世界的にも同情・非難で話題沸騰。1日おいて開催されたフリーで最終滑走のワリエワ、得意の4回転ジャンプで次々と転倒を繰り返す。彼女の心情を思い会場から盛大な拍手が送られましたが、順位は4位。シェルバコア1位、トルソア2位、坂本花織3位。樋口新葉は5位に入りました。マスク姿で号泣する15歳のワリエワ、本当に可哀相に思いました。やはり彼女も鉄の心臓だったわけではない、ついに弾けてしまったのでしょう。同じロシアでもドーピング疑惑のなかったシェルバコアやトルソアに対し、絶対王者と思われたワリエワだけがドーピング問題。中国時代劇でよく見る「相手を追い落とすための汚い裏工作」が思い浮かぶのは考えすぎでしょうか、、

悔し涙にくれることの多かった北京五輪

いつものように「あああ、終わっちゃった、、」と、16日間の冬季五輪の閉会式が幕を閉じました。今回の五輪は習近平が国家発揚をかけ、雪の殆どない北京を中心に無理矢理人工雪をしこたま使って行われた五輪でした。開催を前に新疆ウイグル自治区のジェノサイドや、香港はたまたテニスのペン・シューアイ選手の人権問題などが国際問題となり、世界をコロナ感染が襲う中、中国政府はひやひやしたことでしょうが無事全日程を終了することができました。

しかし、中国選手への依怙贔屓と思わざるを得ない審判など幾つか目に付き「やはりな、、」と思うことも何度かありました。そして、多くはやむを得ないアクシデントでしょうが、前述したように涙を誘う悔しい出来事が何度も発生した大会でもありました。

ひとつ評価できるのは、開会式や閉会式の演出の素晴らしさ。ITなど発展した中国の強みを存分に発揮した美しい演出は、昨年の東京五輪の演出が余りにもお粗末だっただけに印象的なものとなりました。

ウクライナへ容赦なき侵攻をはじめるロシア

前々からバイデン大統領などが度々警告してきたことですが、北京五輪が終了してまもなく、ロシアがウクライナへの侵攻をはじめました。

元KGBのスパイだったプーチン大統領、事前に緻密な計画を立てていたと思われる行動でした。以前からウクライナ政府軍と紛争を続けていたウクライナ内の親ロシア住民達の地域を独立国として認めるという宣言から始まりました。続いて彼らを助けるという名目で、ウクライナに三方向から攻め入り、あっという間にウクライナの空港やレーダーなどを制圧、制空権を奪ってしまいました。最初は親ロシア住民を助けるための平和的行動と言っていたのに、非戦闘員を戦火に巻き込みながら首都キエフに向け侵攻を続けています。

これに対し世界中が非難しますが、軍を派遣すれば本格的な第三次大戦になる危険が高いということから、米国はじめどの国も当面は経済制裁で対応するしかないようです。いつも優柔不断の日本政府ですが、岸田総理はプーチンの個人資産凍結を含め毅然とした態度を示しました。高く評価したいと思います。これにより悲願の北方領土返還は諦めざるを得ませんが、元々ロシアには返還する気など毛頭ないはず。世界各国はもちろん、ロシア内やロシアに加担するペラルーシ内でも戦争反対のデモが発生、ロシアでは5000人余りが逮捕されたそうです。

それにしても、かつてヒットラーが欧州諸国に侵攻したと同じような行動が現代において起こったことは誰もが目を疑ったことと思います。台湾奪取を狙う中国は、世界の動きを参考にしようとしているはず。日本にとっては隣家の火事の可能性にひやひや、、

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木原龍一/三浦璃来 ペア