1989.04 再び Mac について

わーくすてーしょんのあるくらし (28)

1989-04 大橋克洋

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先月号では私の属する医師会の事務局へのコンピュータ・システム導入にあ たって、PCー98か、UNIXか、Macかと迷った末、コンピュータにまっ たく素人の事務職員に本当のワークステーション的使い方をしてもらうには、 結局Macしかないという結論に至った話をしました。 「Macはワークステーションか」ということは議論として面白いテーマで すが、ここではそこをスキップすることにして、再びMacについて書いてみ たいと思います。

Macを導入するには理事会や関連委員会の承認を得てから発注ということ で、システムが入るにはまだちょっと間がありそうなのですが、何せ私も色々 と忙しいもので、今のうちから少し使えるアプリケーションの用意をしておこ うと、とりあえず素人の職員が最も入りやすい会員名簿管理をHyperCa rdのスタックウエアとして作ることにしました。

HyperCardの出現については、このようなものこそ前々から私も考 えていたもので、さすがビル・アトキンソン、さすがアップルと感激の言葉を ここに載せたことがありますが、その後SUNの面倒を見る方にかかりっきり で久しく扱うこともなく、再び勉強しなおすことになりました。

当時と比べると、それに関する文献も随分書店に並ぶようになってきたので すが、イザわからないことを調べようとすると日本で出ているMacの本の多 くは単にファッション性の追求で上っつらの紹介に終わり、1冊買えばあとは どれも似たようなものが多いことに気がつきました。

HyperCardの場合は、スタック・ウエアそのものがソースを公開し ていますので、それを読むだけでなくそのままコピーしまうことができるのも ユーザにとっては有難たいことなのですが、それでもなお自分の考えるものを 作ろうとすると、例になるものが見当たらず本をあさる訳です。

○ 更に欲しい機能について

私の持っているHyperCardは最初の頃のバージョンですので、最近 のものはもっと機能アップしているのではないかと思うのですが、実際にアプ リケーションを作ろうとすると付け加えて欲しい機能が幾つかあります。 そのひとつがポップアップメニューで、現在のボタンとフィールドとスタッ クをうまく利用すればそれに近いものを実現できそうですが、まだ工夫が足り ないのかどうもイマイチ気に入りません。このようなものは有れば当然多用し ますので、専用の機能として組み込んでしまった方がずっと能率は良いはずで す。

それから、ボタンにアイコンを利用する場合、用意されたアイコンには種類 も少なく、自分でデザインしたアイコンボタンを使いたくなります。現状でも 好きなアイコンの絵を描いておいて上に透明なボタンをかぶせれば良いのです が、折角お絵描きの道具もあるのですから、最初からアイコンボタンのデザイ ンもしたいものです。これについては、アイコンをデザインするツールがサー ドパーテイーあたりから出ているようです。

○ 数値入力について

もう一つ今頭をひねっているのは数値の入力です。数値位テンキーで入力す れば良いじゃないか、その方がずっと能率は良いという意見も当然あるでしょ うが、Macの良さはマウスで全て済んでしまうことです。というより、全て マウスで済ませてしまいたいという欲求にかられる悪さがあるのです。

経理関係のアプリケーションなどの場合、これはもうあきらめてテンキーに するべきだと思うのですが、名簿管理に必要な年月日の入力位はマウスでと思 います。

テンキーパットのウインドーを画面に出し、そこをマウスでクリックすると いうもの一つの方法ですが、もう少しスマートにデザインできないかなーと考 えています。この方法は結構マウスの操作に神経を使って、あまりマウス本来 のグローブな操作にマッチしないし、スピードの点でもイマイチなんですよね。 勿論、名簿管理を全てマウスの操作だけで行うのは無理ですが、例えば住所 の入力などは幸いこの地区だけの会員名簿ですからメニューから候補を選ぶな どして、極力キー入力を避けることができます。

○ Macの将来へ期待

こうして色々と勉強しながらスタックウエアを作る作業は実に面白いのです が、私のように凝り性ですと機能やデザインなどちょっとでも気に入らなかっ たり、もっと良いものを思いつくと手直ししますので、結構時間もかかります。 ここが、素人デザイナーの悪いところで、プロならもっと基本デザインを練る のに時間をかけた上で製作にかかるのでしょう。

もともと医者よりも建築に進みたかった方で、医科大学卒業と同時に夜学の デザイン学校に通学した位で造形やデザインに最も感心がありますのでMac とは大変相性が良いのですが、自分の仕事に使うにはNeXTのようにマルチ タスクのOSを積んでくれないと使えません。

呪文のように、このコラムに自分の希望を書いていると必ず実現されるとい う今までのジンクスがありますので、これだけはしつこく書いておきましょう 「MacとUNIXよ合体せよ」。

○ 他人の芝生はあおい

話は変わりますが、この前の「インフォメーション」に、或る方が「なんと かのあるくらし(すなわちこのエッセーのことですが)を読んで、とてもうら やましいと思っていた」と書いておられました。

「なるほどワークステーションをパーソナル・ユースに使っているというの は、確かにリッチの象徴になるんだー」と自分でも一応は納得したのですが、 でも、よく考えて見ると、今まで自分でそういう考えを持ったこともありませ んでしたので、まあ、言い訳をするわけでもありませんが素朴に感じたことを 書いてみましょう。

第1に

私は普通の人が投入しているであろうものの殆ど全てをコンピュー タに投入しています。ちなみに私は煙草もゴルフもやりません。 長年の時間外勤務の代償の殆ど全てをコンピュータに注ぎ込んでしまってい るのです(寝ている時も、トイレの中にも患者さんの電話は私を追いかけてき ますし、昨年も結婚式の披露宴に招待され、主賓の挨拶も終わってナイフとフォー クを持ち、イザ、というところでポケットベルが鳴って「先生、お産です。す ぐ帰って下さい」ということで呼び返されました。喰い物のうらみは恐ろしい もので、これは後に夢にまで見てしまいました)。

と、言うより産婦人科というのは、いつお産で呼ばれるかわからないので、 道楽として自宅に張りついたままで楽しめるコンピュータは最適なものの一つ でもあります、そして、私にとっては最大のストレス解消でもあるのです。コ ンピュータこそが最大のストレスの根源という人もあるのでしょうが、これが ストレス解消というところが道楽の由縁でもあり、確かにそういう意味ではゼ イタクのそしりは免れないかも知れません。

第2に

自分の金以外でワークステーションやその周辺(ハード・ソフトと それらの教育を含めて)を使える環境に居る人達を私は大変うらやましく思っ ています(大学とか企業とか。厳密には自分の金に全く無関係とは言えないケー スもありますが)、それが出来る環境に居ないからこそ、何をクソ、それじゃ あ自分の腕一本でやってやろうじゃないのということで、頑張った結果でもあ ります。

まあ、「他人の芝生は青く見える」んですよねえ、、、

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