1987.06 理想のワークステーション環境を考える

わーくすてーしょんのあるくらし (6)

1987-06 大橋克洋

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現在は仕事場にも自宅にも、 いわゆるワークステーションの他に、 パソコンだとかワープロ専用機だとか、 それぞれ2、3台が並んでいて、 まあかなり贅沢な環境の中で仕事なり生活なりをしているのだが 人間欲を言い出せばきりがない。 こうあったらと思う点について書いてみよう。

○ OAには快適な日本語環境が必要

まず、今は開発とネットワーク専用に使っている Sun-3 の上で、 いつも原稿書きに愛用している某社のワープロ機能そのままを使いたい。 この某社のユーザに対するサービスや姿勢については まったく評価できない部分が多く、 ここで出しているパソコンやワークステーションなどには 全然食欲がわかないのだが、 唯一ワープロだけは使いやすく 携帯用のものを含めこれでもう4台目を使っている。

「一太郎」などワープロソフトの機能アップには目覚ましいものがあり、 それに比べるとこの専用機の変換機能は今やかなり低いレベルとも言える。 しかしワープロの使いやすさは変換機能の豊富さもさることながら、 キーボードなどのマンマシーンインタフェースの良い悪しが 大きな要素を占めることをつくづくと感じる。

しばらく前 PC-9801 で「一太郎」を使うようになり、 もうオアシスはいらないな(オッと実名を出してしまった)と 思うことがあったのだが、 しばらく「一太郎」に慣れて便利に使った後、 久し振りにオアシスに戻ってみるとまるで水を得た魚というか、 ギブスをはずした右手のように楽に原稿が書けるのには驚いてしまった。 残念ながら、まだパソコン上のワープロは専用機にはかなわない というのが現在のところ実感である。

それでも、時々は「一太郎」や ATOK を組み込んだテキストエディターで 文章を書いたりはするのだが、 たとえばこの原稿のように思いつくままをスラスラ書こうとすると、 どうしてもオアシスが快適である。 最近は知らないが、これは例年ワープロスピードコンテスト優勝者使用機が オアシスということからも実証されていた。

○ 一台三役がよい

実名を出してしまったついでに、 もうひとつ苦言を呈させていただく。 書斎の机の上にはただでさえ色々なシステムが並んでいて 場所をとってかなわないのだが、 今までのマイオアシスのリースが切れ新たにオアシス-II に換えた際、 この上で MS-DOS が走るという話を聞いた。それができればターミナル エミュレータを走らせ UNIX端末として使えるので、 ワープロ、パソコン、端末と一台三役をこなせると喜んだものだった。

早速F社に問い合わせると、 確かに社内ではオアシス上で MS-DOS が走っているが、 リリースはもう少し待って欲しいとの返答だった。 その後何度か問い合わせたが同様の返事で、 そのうち別機種として MS-DOSパソコンの上でオアシスが動くものが発売され、 フォルクスワーゲンやアップルII の大ファンとしては、 日本のメーカーのやることはキタネーというのが偽らざる実感であった (あまりお医者さんが使う言葉ではありませんが、、、)。

ついでに、もうひとつ書いてしまおう。 一昨年、通信機能を持つとの謳い文句で登場した携帯用のオアシスライト シリーズの一つを、 外での会議に持って行けるしモデムや RS-232Cを接続して UNIXの端末としても使えるからということで早速購入した。 ところが期待の通信機能がどうもうまく行かない。

F社の色々な部署に当たった結果、 結局青梅工場(だったかな)から電話回線を介してこちらの UNIXマシーンへ向こうのオアシスライトでアクセスしてくれることになった。 結果は何とF社の大型コンピュータの端末機能しか組み込んでいないため、 単に垂れ流しでデータを送ることはできても汎用データ端末としては使えない との返答。これにはまったくガッカリしてしまった。

2年前当時、すでにどこのターミナルエミュレータでも、 ソフト的にパラメータを変えることによって いかようにもエミュレートできるのが常識となっていたのに、 あの世界のF社がこの有様である。「大男総身に知恵が周りかね、、、 大メーカはダメだな」が実感。

○ 深い嫉妬のはてに

、、、と書くのも、 折角の名機オアシスを深く愛するが故で、 このオアシスライトはそれなりに便利に使っている。 愛といえば、脱線ついでに第一号のマイオアシスが、 ワイフに深い嫉妬を受けた話をしよう。

コンピュータ・フリークの皆さんには身に覚えのある方はいくらもおありと思うが、 女房をほったらかしにしてキーボードにかじりついていると 当然女房から深い怨みをかうことになる。 そしてある日それが爆発する。 その結果わが愛しいマイオアシスは机の上から床へ叩きつけられる結果となった。

皆さん、そのような結果コンピュータのような精密機器は どうなると思いますか? 女房が部屋から去った後、 オアシスの亡がらを抱き上げて机の上に戻してやった。 CRTは引っ込んで奥目となり プラスチックのボディーにはヒビが入った姿を見て、 これはもうご臨終と観念したものだった。

丹念に調べてみると実際に支障があったのは、 単にプリンターへ繋がる電源コードの付け根がちぎれただけで、 そこを繋いだら何ら支障なく、その後一年お役目を果たしたのだった。 床にはカーペットが敷いてあったとはいえ、 F社の製品は丈夫ですねえ、感心しました。

話を元へ戻そう。 別の某社からPC-9801に接続する親指シフトキーボードがいよいよ発売されるそうで、これと「一太郎」との組み合わせにはちょっと期待しているのだが、 現在の「一太郎」のメニュー方式(、、、と言うのかな)では、 スピーディーなタイピングは期待できず、 慣れた人間には vi 風のコマンド形式で使えるテキストエディターに ATOKなどの日本語フロントプロセッサを組み込んだ方が ずっとスピーディーに使えそうな気がする。

○ MS-DOS 環境

ATOK といえば、 ほんの数年前まではこのような使いやすいものがなかったので、 仕事用アプリケーションを作っても、 入力の作業能率上せいぜいカナ入力をするより仕方がなかった。 しかし今や MS-DOS環境にいる限り、 これらの優秀な日本語フロントプロセッサを使って、 快適に日本語を扱える環境になっている。

普段 UNIX の世界に住んでいる住人としても、 仕事用のアプリケーションでは日本語を使う必要性から、 最近は Sun-3上で 4.2BSDのハイレベルな開発環境を利用して開発したものを ソースレベルで PC-9801へ転送し、 マイクロソフトCでコンパイルして 日本語環境のアプリケーションとして使うことが多くなりつつある。

C の場合このような芸当をやるには至れり尽くせりで、 他 OS への移植を念頭に置いて開発さえすれば、 コンパイルフラッグをちょっと変えるだけで Sun-3 上で動いていたアプリがそのまま PC-9801 上で動いてしまう。 実際、最近では本職のソフト屋さんでも このようにアプリケーションを開発しているところも多いのではないだろうか。

しかし、あくまでも UNIX の中にどっぷり漬かって住んでいたい私としては、 日頃仕事に使うワークステーション上でこのような環境を使いたい。 現在では SONY の NEWS あたりが 最もその願いを実現してくれるのだろうと思うのだが、 Sun-3 の上でそのような環境が提供されるのは何時なのだろうか。 また今度出る Mac II 上の UNIX と日本語環境ではどうなのだろうか。

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