「電子カルテ」汎用化へのアプローチ(第2報)

2-H-2-3第15回医療情報学連合大会 15th JCMI(NOV,.1995)

大橋 克洋 , 高橋 究

大橋産科婦人科 , 佐藤病院

More flexibility with network and plug-in on computerized medical record

Katsuhiro Ohashi , Kiwamu Takahashi

Ohashi Obst and Gyne Clinic(ohashi@ocean.linc.or.jp) , Sato Hospital

Abstract:I made a general purpose tool for the computerized medical record. This tool was developed with object oriented programming with Objective-C and InterfaceBuilder on NEXTSTEP OS 3.3J. We can layout many cell objects on the sheet in free format, and these objects has a button and a text field. Text fields are bound various data resources, database, files, another cells, HTTPD(World Wide Web), and others. This tool makes multi purpose data sheets and applications.

Keywords: electronic medical record, computerized medical record, network, NEXTSTEP, object oriented

1. はじめに

実世界に分散する無秩序な不定型情報を、ユーザの要望に応じ自由に組み合わせて扱える汎用ツールを昨年発表した。これに World Wide Web などの情報も取り込めるよう、さらに発展させたので発表する。 WWW とコンセプトに似たところがあるが、異なるのは「クライアント側で自由に情報の組み合わせやレイアウトをできる」「閲覧だけでなくインタラクテイブな入力への対応が、よりきめ細かくできる」ことなどである。 今回発表するのは、開発コード名 WineRack と呼ぶプロトタイプである。昨年発表のものと基本仕様は同じだが、より柔軟性を高めるため最初から作り直した。

2. 目的

2.1. 世の中に存在するあらゆるデータを扱えること

自分のマシーン上の「ファイル」、データベース上の「データ」、世界中のネットワークに分散した WWW 上の「データ」も扱える(これらの元データを以後「リソース」と呼ぶ)。データは「マルチメデイア」対応である。

2.2. レイアウトが自由にできること

いろいろのリソースから得られたデータを、ユーザは自由に配置することができる。背景にイメージデータを貼りつけることができるので、従来使っていた手書きの用紙とまったく同じ外見で使うこともできる。

2.3. 得られたリソースを自由に加工できること

得られたデータを自由に組み合わせ加工し表示できる。すなわち、いろいろなアプリケーションを作成する汎用ツールとなる。

2.4. 閲覧だけでなくインタラクテイブな入力もできること

能率よく入力するためには、色々な入力支援機能が必要である。メニュー入力など幾つかの支援機能をもつ。

3. システム構成

開発には NEXTSTEP OS3.3J 上の、Objective-C と InterfaceBuilder を用いた。このように GUI を駆使し、かつ柔軟な機能を実現するにはオブジェクト指向プログラミングは欠かせない。クライアント機能実現には、NEXTSTEP のネットワーク分散型オブジェクト機能 (Distributed Object) を用いている。 ハードウエアは PC 互換機、SPARCstation など NEXTSTEP の稼働するものであれば何でも構わない。Memory 24MB 以上、Pentium 120 以上の CPU 速度、XGA 相当(1024 * 768)以上の解像度のデイスプレイがあれば快適に動く。

4. 仕様と働き

4.1 唯一のオブジェクトをさまざまに組み合わせる

この汎用ツールは、オブジェクトを多数組みあせて使用されるが、開発されたのは WineCell と呼ばれるたった一種類のオブジェクト(以後セルと呼ぶ)である。 基本的にセルは「ひとつのボタン」と「ひとつのテキスト・フィールド」を持ち、「処理すべき手順」を記憶している。また、背景に「ひとつの画像イメージ」を貼ることができる(昨年の抄録参照)。 ボタンやテキスト・フィールドを持たない背景だけのセルを作り、このセルの上に幾つものセルを貼りつけるなど、入れ子構造にできる。この場合、子供のセルは親のセルの性質を継承する。

4.2 テキスト中にもセルを置くことができる

テキスト中に文字と同様の扱いでセルを配置し、何らかの知識や処理機能を持ったオブジェクトとして機能させることができる。 例えばテキスト中のある文字列やアイコンをクリックすると、別のアプリケーションが立ち上がったり、検査伝票のパネルが現れたりする。

4.3. インターネット上で共有できる

一枚の大きなセルの中に、様々な処理機能を設定したセルを多数配置したものを「シート」と呼ぶ。「シート」はすなわち特定のアプリケーションとして機能する。 「シート」のテンプレートを Web サーバに置いておけば、インターネット上のどこの WineRack からも load して実行することができる。電子カルテ WINE 自体もこれらのセルの集まりで構成された「シート」として実現されるようになり、そこで扱われるデータのリソースはインターネット上に分散していても構わない。 すなわち「インターネット上のどこで電子カルテを使っていても、テキスト上の検査伝票ボタンを押せば(Web サーバから持ってきた)検査伝票が開き、サーバ(複数サーバが混在しても構わない)から得られたデータが表示される」というようなことができる。 ただし、これにはセキュリテイーの問題を解決する必要があるので、とりあえず施設内に限定された「イントラネット」での利用が現実的であろう。

5. このツールを使った具体例

電子カルテ「WINE」、検査伝票、薬剤情報ツール、診療支援情報ツール、簡易 Web ブラウザーなど、アイデア次第で色々なものを実現できる。

6. おわりに

ネットワーク上のさまざまなリソースを自由に組み合わせて扱えるツールを実現した。医療の世界は極めて多様性の高い複雑な世界であり、ユーザごとに要求する仕様はさまざまである。従って本当に現場で便利に使えるシステムの実現には、どんな要求にも柔軟に応えられる能力こそがもっとも重要である。 まだプロトタイプではあるが、これを用いて電子カルテの基本機能を実現できた。今後は、より柔軟な「カスタマイズ機能」と、「分散オブジェクト機能」の充実をはかりたい。セルの持つ機能は極めて多彩なので、仕様が固まり次第、なるべく整理統合して最終的には可能な限りシンプルなものにしたい。 また NEXTSTEP 上で実地にしばらく使用しブラッシュアップした後、JAVA など更に汎用性の高い環境への移植も考えたい。

(図1)ネットワーク上のいろいろなリソースを表示するシート

説明:セルは自由な大きさで自由に配置できる。セルに表示されるデータのリソースはネットワーク上のいろいろなものが混在して構わない。 また、実際に使われている帳票などをイメージスキャナーで読みこみ、これをセルの背景に貼ったものの上に、さらに複数のセルを配置できる。従来の帳票とまったく同じ外見で使えるので、電子化へ移行する場合の違和感が極めて少ない。

参考文献

1 大橋克洋,高橋究:「電子カルテ」における不定型情報の自由なとりあつかい:第14回医療情報学連合大会論文集、699-700, 1994.

2 大橋克洋,高橋究:「電子カルテ」汎用化へのアプローチ:第15回医療情報学連合大会 論文集,p.881,1995.

3 大橋克洋:「電子カルテ」が診療を変える:電子カルテってどんなもの?(中山書店)、p18-34, 1996

Mon Mar 2 10:36:30 JST 1998