2006.10 歩術の研究

わーくすてーしょんのあるくらし ( 164 )

2006-10 大橋克洋

先月訪れた「ひろしま美術館」周囲の散策路

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中国武術に凝っている私です。 あくまでも書物の記述を基にした独学でしかありません。 本当はちゃんとした先生に師事したいがその時間がない。 独学では、まずその本質を身につけることはできないのだそうですが、 「まあ、保健のためだから、それでも良いか、、」と。 ソフトウエア開発などに関しては、ほとんど独学でやってきましたが、 武術となるとそうもいかないんでしょうね (目に見えるソフトウエアのソースと、 外見だけではわからない微妙な意念による身体操作との違いなのでしょう)。

私の場合、自称「歩術」に端を発したもので、 いままでも新たに得られた感覚について色々と書いてきました。 ここら辺で現状で会得したものについて、 一度 総まとめをしておきたいと思います。 毎日の東京都医師会への通勤が、 鍛錬のため絶好の道場のひとつであることを実感しています。

○ 電車は絶好の道場

まず「電車」です。 何度も書いてきたように、 ここ1年ほどは PC や書類の入った 5Kg ほどのスーツケースをさげ、 電車の中30分ほどを何もつかまらず立つようにしています (席がガラガラなのに立っているのは、 いかにも意地っ張りの変人とは思うのですが)。 でもこれが良いんですよねえ、、 「電車の揺れ」への身体の対応が、とてもよい鍛錬になるのです。 1年ほどの間に色々と試行錯誤がありました。 最初は揺れに対し足を突っ張ったり、揺れを予測しようとしたりもしました。 でも、これは先月書いた「健康ウオーク」のように、 本当は自然じゃないんですよね。

、、で、いろいろと試行錯誤してきました。 今までも書いてきた「站椿(たんとう)」で腰をしっかりさせるのが、 「歩き」だけでなく全ての基本ということがわかってきました。 電車の中で立つ場合もこれは重要です。 しかし、これだけでは「不意の揺れ」に対応できないことがあります (三田線は よく整備され揺れが余りありません。そろそろ鍛錬も中級になるので、 荒々しい揺れのJRの方が道場としては良いのかも)。

次に悟ったのが、「腰の関節を柔らかく」ということです。 以前から「浮き島の上に立つように」を意識していたこともあったのですが、 それだけではどうもうまく行きませんでした。 最近読んだ中国武術の本に、 まさに「腰を柔らかく」と同じようなことが書いてありました。 我が意を得て「腰を柔らかく」し、 その基盤に乗って上体をまっすぐに立てるのが効果があるようです。

これでも不意の電車の揺れには不十分です。 中国武術「意拳」は「意」すなわちイメージを主体としたトレーニングをします。 その「站椿功」にこんなものがあります。 「両足を肩幅に立ち、膝は軽くゆるめる。 両腕は軽く胴体から離して脱力し、両肩を落とす。 高い椅子に座ったように腰から上を脱力し、上体はまっすぐ。 湖に浮かぶ小舟に立ち上がったイメージで、両手を湖の底の泥にゆっくりと突っ込み、 ゆっくりと抜く、これに従い小舟も上下する」 このような感覚を繰り返すトレーニングです。

実際に手を抜き差しするわけではありません。あくまでイメージします。 このイメージをやってみると、不思議と電車の動揺に対応できます。 おそらく、腰の力の抜けが良くなるからなのでしょう。 ただ、まだ意識してやっている段階で、 これが無意識にできるよう日々鍛錬を積みたいと思っています。

○ 重量物を片手に歩く

次は基本となる「歩行」です。手ぶらが楽なのはもちろんですが、 私の鍛錬は「実用」「生活性」を兼ねることにしていますので、 通常は片手に重い荷物を持って歩きます。

余談ですが、中国武術は練習着に着替えたりせず、 普段着のまま練習を始めたりするそうです。 またウオーミングアップもせず、 いきなり極めて激しい運動をするので、 西欧スポーツしか知らない人はびっくりするようです。 これもいかに東洋式が身体に自然かということでしょう。

通勤を始め2年間は荷物を背中に背負っていました。 身体ができると、片手に提げても苦にならなくなりました。 「片手に重量物を提げて歩く」ということは、 体躯をしっかりさせる効果、身体の安定を保って歩く効果があります。

「上手なスケート選手の滑りは、ガシ、ガシではなく、 音もなく滑る」という言葉にヒントを得て、 「歩術」も滑るように歩くことを目標にしてきました。 最初はなかなかそうもいかず、重い荷物を持っているため どうしても前肢はドシンとついてしまいます。 しかし、最近は腰がしっかりしてきたため、 かなり静かに歩けるようになってきたのではないかと思っています。

最近、会得した感覚は、「躯幹で歩く」というものです。 「あくまでも躯幹が前進するのであって、 手足はそれに自然に追随する」というような感覚、 あるいは「歩くという目的に沿って、 全身のパーツがそれぞれに機能している」とも言えるでしょうか。 「何か、歩きがスムースでないな」と感じた時は、 一部のパーツに力が偏っています。 それに気づき、全身の力を抜いて全体で歩くようにすると、 俄然歩きが楽になりスピードも増すのです。

先々月強調していた「腰で歩く」はどうなっているかというと、 身体全体で歩く中の中心的位置で機能していますが、 以前のように腰だけを意識することはなくなったようです。 「腰で歩く」というトレーニングを積んで身に付くと、 それは意識されなくなるのでしょう。 この場合も腰に力が入るのはペケです。 腰やふくらはぎの力が抜けると速度も上がります。

○ 階段や坂道を上がる

階段や急な坂道を上がることは、 「歩きのコツ」会得にはとても有効で、 脚力だけでなく心肺能力など全身の鍛錬としての効果も高いものです。

先月「ナンバ歩きで階段を上がると楽」ということを書きました。 最近は、さらに磨きをかけスムースに上がれるよう鍛錬しています。 「上体を前傾し」「上に踏み出す足に一気に体重をかけながら」 「リズムなく、スーッと上へあがってゆく」これが現在までに会得した 階段を上がるコツです。 とっておきの極意として「むなぐらを掴まれ引っ張り上げられるように」 の意念(中国武術の用語、文字通り意として念ずること)があります。 上がるスピードも他の人よりかなり早くなります。

中国の道教の寺で、僧たちが鍛錬する姿を TV で見ました。 山門の百八段の石段を、3段おきくらいのウサギ飛びで、 まさに兎のようにしなやかにあがってゆく鍛錬がありました。 その他にも片足飛びなど、色々な方法で石段を上がるのだそうですが、 40往復と聞いてびっくりです。 入門したての人間は4往復が精一杯という説明でしたが、 私なら1往復がやっとではないかという石段でした。

中国武術というと、達磨大師の頃始まったと言われる「少林寺」が有名で、 中国武術発祥の地だそうです。 現在は、寺の資金源として武術をかなり商業的に扱っているようで、 このあたりが少林寺の面白いところかも知れません。

これに対し「道教」でも武道が行われていることを、 この番組で再認識しました。 導士は頭の上に団子のようなマゲを結ったスタイルで、 女性の導士もいます。 道教の僧は、男女の別なく一緒に鍛錬するのだそうです。 そういえば、一時大流行した中国映画「キョンシー」は道教だったことを思い出しました。

少林寺の武術は、極めて激しい鍛錬を元に見た目も激しい武術になっています。 道教のものは、時に激しさもありますが柔らかな動きを特徴としています。 前者を外家拳、後者を内家拳と分類するそうです。 外家拳は日本の空手に近いと言えるのでしょう(しかし、 空手よりずっと柔軟です)。 あの舞うように身体を動かす太極拳は内家拳ですね。

○ 階段や坂道を下る

坂道は登る方がエネルギーを要しますが、 足への負担は下る方が大きいのは経験するところです。 サンシャインビルを上がる組と下がる組に分けて実験したところ、 登るのにヒーヒー言っていた組は翌日何ともなく、 下り組は筋肉痛で悩まされたとか。

「滑るように歩く」のトレーニングの結果、 下りもかなりスムースに速く歩けるようになってきました。 これもコツは「站椿」にあります。 しかし「下り」に関して、まだまだこれから研究が必要と思っています。

これまで述べてきたコツは自分で何ヶ月かやってみないと、 なかなかすぐには理解できないかも知れません。 身体ができないと、やれないし、 理解もできない、ということは結構あります。 文字や言葉より、何といっても自分の身体で理解するのが一番ですね。

○ 「気」とは何ぞや

毎日の通勤路ですが、神保町で地下鉄を降りエスカレータで上がる列を横目に 地上まで階段を上がります。 その後、一見たいしたことのない道に見えるのですが、 都医会館まで絶え間なくゆるい登り傾斜が続きます。 山の上ホテルわきの急坂を登りきった後、 都医会館までの「だらだら坂」は、大した傾斜でもないのに一番きつく感じます。 通勤4年目になってもきついのです。 そして最後の仕上げとして都医会館の玄関ホールのエレベータを横目に、 守衛さんに会釈して 6F まで階段をあがります。

日本をふくめ、東洋の武術では「気」というものを大切にします。 この「気」というものは、なかなか本当のところは実感しにくいものです。 通勤路で一番きつい「山の上ホテル」横の坂を、 「気」を入れたつもりで登ってみました。 「ほおー、なるほど、、」結構いけますね。 「気」というものの効果が、ちょっとわかったような感覚です。 疲労感が全然違います。問題は、必要な時いつもこのような効果を出せるかですね。

中国武術では「気」を養うため 色々なトレーニングを介して肉体と精神の使い方の錬成をします。 このようなものを「功夫(ごんふー)」と呼びます。 これが「カンフー」の語源ですね。 長年月「功夫」を積んだ名人は身震いするだけで 触れた人を吹っ飛ばす能力があるそうです。 西洋スポーツのように筋肉モリモリの力で吹っ飛ばすのではなく、 一見小柄でやせた人が 脱力した状態から突如「爆発的な力」をだすのだそうです。

○ Web アプリとしての表計算ソフトあらわる

Google が Web アプリケーションとしての文書作成ソフトや 表計算ソフト( spread sheet )を米国で公開したことは知っていたものの、 この度日本でも使えることを知りました。

喜び勇んでアクセスしてみました。 http://spreadsheet.google.com です。あれ? Safari は駄目という表示がでてしまいました。 FireFox なら大丈夫のようです。 私は FireFox の亜系で Mac 的なデザインの Flock を使っています。 それでアクセスしてみました。おー、バッチリです。

ちょっとテスト的に表を作成してみました。 「ほおー、Web アプリでここまでできるんだ」と感心しました。 なかなか小気味よく動きます。新しい表を作成し、 最初だけ名前をつけて save すれば、次からは save する必要はありません、 自動的に保存されます。考えてみれば Web アプリだから当たり前ですよね。 入力をサーバへ投げる度にあちらで保存すれば良いのですから。

データは通常サーバに保存されますが、 csv その他いくつかの形式で、こちらへ download もできます。 複数人で表を共有し、 チャットのようにコメントをやりとりしながら、 作業を進める機能もあります。今のところ私には この機能を使う機会がありませんが、これは便利しそうです。

上の画面の中で「Google Docs & Spreadsheets」とあるように、 Word のような文書作成ソフトも使えますが、 こちらはまだ使ってみていません。 Spreadsheet を使ってみた印象では Excel の多彩な機能にはとても及びませんが、 通常必要な基本機能はほとんど使えますので Microsoft 社が戦々恐々とするのもわかりますね。

しかし私としてはそのことに感心したのではなく、 Webアプリでもこれだけサクサク使えるものができるのなら、 東京都医師会「ほっとライン」で提供している「Web処方箋」も私の電子カルテ NOA の処方箋のように、 もっとシンプルで使いやすいものに改良できる可能性がある ということに感動したのでした。 Web2.0 技術によるものでしょうが、 JavaScript あたりをガンガン使っているんですかね。

< 2006.09 シンプルなものは頑丈だ | 2006.11 医療情報連合大会 in SAPPORO >

早朝の冷たい池の水をものともせず

鴨たちが水に首を突っ込んでは餌を探していました

-- 日本産婦人科医会学術大会 福島県磐梯熱海にて --